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 2013年、医療ビザに関わる規制をきっかけにインドを去った依頼者が大挙して向かった先がタイであった。タイでは、体外受精を始め、代理出産に関する規制法がなく、あらゆる治療が自由に提供されていた。しかし、障がい児の置き去り事件が発生、タイでも2015年の初頭にピリオドが打たれた。その後、依頼者らはネパール、メキシコ・タバスコ州、ジョージア、カンボジアなどへと、流れていった。しかし、2015年末までに、ゲイカップルを受け入れていたネパールとメキシコ・タバスコ州は相次いで門戸を閉じた。

 ジョージアは東ヨーロッパにある旧ソ連の国であり、1991年に旧ソ連から分離独立後は、政治的に不安定で、財政的にも厳しい状態が続いている。国民所得は低く、失業率は10%を超えている。街では、仕事にありつけない中高年の男性の姿が見受けられる。ジョージア産ワインが知られているが、それ以外に国際競争力がある産業はこれといってない。

 ジョージアでは、1997年以来、代理出産は合法であり、外貨が稼げる有力産業になっている。近隣の西ヨーロッパを始め、トルコ、イスラエル、ロシア、オーストラリアやイギリスなど、さまざまな国から依頼者がやってくる。

 ジョージアのエージェントでは、子どもは依頼者のものであるということを徹底させるため、代理母は「孵卵器」であると女性たちに教え込んでいる。その言葉通り、依頼者と代理母は受精卵の移植から出産、子どもの引き渡し完了までの間、一度も顔を会わせることはない。

 ジョージアでは、離婚して子どもを抱えているなど、経済的に困窮した女性が代理母産業へと次々と足を踏み入れている。一方、正教会は、保守的な立場から代理出産に強硬に反対している。医師、大学教授でもある神父は、次のように言う。

「エージェントは、代理出産について良い事ばかり宣伝しているので、人々の考えもそれに影響されている。旧約聖書にも代理出産について書いてあると宣伝しているが、それは嘘だ。依頼者も世間も、代理出産を良いことだと教えられているので、実際の問題に気がついていない。子どもがいない夫婦に子どもを与えることなので良いことだと言っている。自分のところにも依頼者が相談に来たことがあるが、代理母と子どもの繋がりが深いことを教えると、代理出産を依頼することを諦めたことがあった。」

「代理母と子どもは関係がないというのは、医学的に見ても完全な間違いだ。遺伝的に違う受精卵を受け入れると、母体と子どもに対し悪影響を及ぼす。細胞に影響に与えて、毒になる。別の言い方をすれば、受精卵を他の女性の体に入れることは、植物を植え替えるのと似ている。代理母の体は受精卵を排除しようとするが、受精卵は、着床しようと努力している。受精卵は、生き残ろうとして戦っている。そのことが子どもの心身に影響を及ぼすと思う。そのために出産後、何年後も、代理母と子どもの関係を証明することができる。代理母と子どもは、生物学的には深く繋がっている。そして、代理母の感情は子どもに伝わる。遺伝的関係より生物学的関係のほうが重要だ。授乳は母親だという証拠の一つ。」

「それなのに、エージェントは、代理母は孵卵器だ、あなたの子どもではないと教えている。だから、代理母は自分のことを孵卵器だと思っている。そのように考えている女性のお腹の中で胎児は成長していくことになる。そのことが子どもに影響しないといえるだろうか?」

「しかし、最終的にはいくらトレーニングしても、身体はそれを受け入れない。
妊娠中の女性は特別な精神状態にある。出産後は特に精神的に脆弱でそのような時期に依頼者に子どを奪われることによって、女性は大きなダメージを受ける。」

「女性にこのような仕事をさせるのは女性の尊厳に関わることだと思う。フェミニストは女性の権利をさかんに主張しているが、代理出産にもっと反対すべきだと思う。女性を孵卵器として扱ってはいけないと思う」

上記の神父は、医師でもあるため、医学的根拠を示して反対している。いずれにしても、正教会では、代理出産を罪悪視しており、代理出産で生まれた子どもには洗礼を与えない、という強硬な意見もある。一方、正教会では、教主が代理出産を批判するあまり、代理出産で生まれた子どもに対する偏見を煽るような発言を行い、関係者から猛反発を受けたことがあった。

 だが、「家にお腹を空かせた子どもがいるので、背に腹は代えられない」と元代理母の女性は言う。エージェントのスタッフ女性は、「この仕事をやる女性は、”何か”を乗り越える必要がある」と証言する。 “何か”とは、道徳心のことだろう。
 ある代理母は、顔全体が隠れる大きなマスクをして現れた。誰にも知られたくないという決意の表れであろう。彼女のクライアントは日本人だという。しかし、これまで一度も会ったことはない。「お金の問題があって、代理母をしているが、代理出産だからといって特別なことはない。自分の妊娠の時と全く同じように感じる」と証言する。産みの母親と子どもが特別な関係にあることは、代理母自身がよく知っていることだ。

 妊娠出産は女性にとって命がけの行為である。しかし、それだけではない。彼女たちは9ヶ月分の対価として1万ドルの報酬を貰うために、自分の身体を使って、道徳的に”正しくない”ことをさせられているのである。そのことを、外国人の依頼者は知るよしもない。

 ジョージアでも、外国人への代理出産を禁止する法案が提出されようとしたことがあった。しかし、水際で阻止された。国内で、賛成派と反対派の間で政治闘争が繰り広げられており、代理出産に関し、細かなルール変更がたびたび行なわれている。最近行われた法改正によって、何ヶ月も滞在延長を余儀なくされる依頼者が続出し、大きな混乱が生じた。現地のエージェントですら知らない間にこうしたルール変更が行なわれていることは、渡航者にとって大きなリスクである。

 ジョージアでも、代理出産が禁止される可能性があるが、ゲイカップルなどが押し寄せ、すでに黄色信号が灯っているカンボジアに比べればまだその可能性は少ない。グルジアではもともと異性愛カップルにしか代理出産を認めていない。また、カンボジアを始め、白人による植民地支配を経験した国々では、代理出産はセンシティブな問題をはらんでいる。

 国内最大の反対勢力である正教会は、代理出産を道徳的に非難する一方で、代理母にならざるをえない貧しい女性への経済的支援を唱えることはない。微細な規制を導入することで妥協点を見出し、商業的代理出産の是認という大枠は変わらないままだ。タイが門戸を閉じた後、グルジアは数少ない選択肢の一つであり、代理出産を禁止しないよう、諸外国の領事館から暗に圧力もある。まさに「背に腹は代えられない」グルジア政府のジレンマを示している。日本人エージェントを頼って日本人依頼者が渡航しており、その数は漸増していくだろう。グルジアは、世界中の依頼者からリーズナブルな渡航先と認識されている。

Link
「代理出産のユートピア ジョージアに向かう日本人」『週刊ダイヤモンド』(2016年6月11日)

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by technology0405 | 2016-06-08 16:05 | field work | Comments(0)

国民の生殖権の実現を法的規範によってこれほど強力に後押しする国は、イスラエルの他に類をみない。
乏しい医療資源をどう公正に分配するかという倫理的ジレンマは、ここ10年でさらに深刻になった。生殖権への執着がイスラエルの保健制度と国民全体の負担を増大しているにもかかわらず、医療資源の乏しさを理由に不妊治療の助成が減らされることはあってはならないという感情が、イスラエルには存在する。

イスラエルは、不妊治療、特にIVFの助成に巨額の財源を割り当てている。不妊カップルだけでなく、非婚の独身者*も助成の対象となる。 *(厳密に言えばイスラエルに民事婚は存在しない。結婚と離婚は超正統派の宗教指導者がユダヤ宗教法によって管理している。)

イスラエル社会では、家族が非常に重要視される。結婚し子供を持つことは社会的ドグマであるので、結婚平均年齢は低く、高い婚姻率と低い離婚率を示す。またイスラエルは出産奨励主義をとっており、出産率が最も高い国の一つである。

ユダヤ法の規範ハラハー(halakhah)は、生殖を公民権というよりむしろ全体主義的な宗教上の義務として捉える。このハラハーが、様々な種類の不妊治療を国が認め資金援助するというイスラエルの独特な風習を形作る中枢因子の一つとなっている。

現代的でリベラルな考え方に強く影響されたイスラエル法と、ユダヤ法であるハラハーは、それぞれ全く違うレトリックで支配者と個人との関係を構築している。ハラハーは神(master)と個人との関係を「義務」という言説で構築するが、非宗教の法律制度は「権利」という言葉で構築する。ハラハーの下でユダヤ人が最優先に考えるべきは神に対する義務である。一方、宗教と関係のない法制度では個人の人権に焦点が置かれる。

ハラハーは、生殖を、個人が必ず実行せねばならない神聖な義務として概念化する。トーラー(Torah:モーゼの五書、ユダヤ教の聖典)の最初のミツバー(mitzvah:ユダヤ教の戒律)は、“Be fruitful and multiply(生めよ、増えよ)”である。これはハラハーの中で、子供2人(男と女を1人ずつ)を生めという神の命令として解釈されている。この第一の戒律を根拠に、ユダヤ社会では、子供をできるだけたくさん生むことがユダヤ人にとって最も重要な義務とされてきた。この考え方が、不妊治療に公的支援を行うイスラエルの出産奨励主義に明白に現れている。

Israeli National Health Insurance Act 1994には、カップルが子供を2人持つまでNHIの下で不妊治療が助成されることが明記されている。国民が生殖権の実現を国に求める権利が法として定められている点が、イスラエルの状況を独特なものにしている。卵子提供を含む不妊治療の助成が54歳まで認められるなど、イスラエルほど不妊治療助成の対象が広い国は他にない。

ハラハーは、生殖を義務と捉え、生殖補助医療を積極的に認め、第三者の関わる生殖にも寛容である。こうした宗教的背景と、国民のリベラルな人権意識が結びついたことが、イスラエルをART大国にした要因の一つである。


חוק ביטוח בריאות ממלכתי, התשנ"ד 1994- (National Health Insurance Act 1994)


http://www.health.gov.il/hozer/sbn06_2011.pdf
保健省より 2011年

Why Israel, In Light of Its Shocking Legal Approach to ‘Being Fruitful and Multiplying,’ Must Create a National Procreation Authority
By Yehezkel Margalit
[There Is Tikvah NYU 2013.8.7]

Assisted reproductive technology: perspectives in Halakha (Jewish religious law).
Schenker JG
Reproductive Biomedicine Online. 17 Suppl 3. 2008

Redefining Parenthood
Ruth Halperin-Kaddari

Assisted Reproduction in Jewish Law
Daniel B. Sinclair
Fordham Urban Law Journal
Volume 30, Issue 1 2002

イスラエルの生殖医療
[第 18 回 岡山生命倫理研究会、 2011/6/25]

http://eretzhemdah.org/Data/UploadedFiles/SitePages_File/132-sFileEn.pdf
代理出産はハラハーに反しないという内容

Ask the rabbi
By SHLOMO BRODY
[The Jerusalem Post 05/02/2013]
ラビによって様々な見解がある

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by technology0405 | 2014-03-13 17:02 | Countries | Comments(0)

キリスト教とイスラム教の指導者が、インドで代理出産を普及させようという動きが報道されていることに不快感を示した。これは、2011年末にインドの人気俳優が代理出産で息子を得た報道を指している。彼は、代理出産という方法を広く知ってもらいたいとも公言。代理出産の倫理性がインドで話題となった。

代理出産の是非の判断は難しいと考える宗教がある一方で、キリスト教とイスラム教は、代理出産を「出産の機械化」として猛反対している。「手段を用いて子供を得ることは、何であれ許容できない。教会は出産の機械化に反対する。」と倫理神学者Susai Ariokiaswamy神父は言う。「代理出産は道徳的に間違っており、聖書に記されている原則に従っていない。」彼は、教会が代理出産に反対する理由として、体外受精を含めた現行の技術がmultiple births(多胎妊娠の意で使われる言葉だが、ここでは妊娠より初期の受精の段階を指していると思われる)を生み出し、その結果non-survival of babies(おそらく受精卵が未使用で破棄されること)の可能性がつきまとうことをあげた。「殺人を許している宗教は存在しない。」

「代理出産は倫理的問題だけでなく、心理的な問題も提起する。」と心理学者のAnita Chauhanは説明する。「代理母が子供に愛着を感じ、時にはその子を引き渡さないことがある一方で、依頼母の方は子供に心情的疎隔を抱えることがある。」「出産時の陣痛やつわりを経験していないこともまた、子供に愛情を感じない原因になりうる。」

「代理出産はもちろん間違っている。イスラム教は自然分娩にいかなる介入もしない。」とインド人イマーム(イスラム教指導者)Umer Ahmed Ilyasiは言う。「あの俳優の報道の後、代理出産をしてもよいかという問い合わせ電話が我々のもとに殺到した。Darul-Ifta (イスラム法学者の集団。一般信徒の質問に答えてくれる。)は2011年12月に会議を開いてこの問題を取り上げた。「その会議で、代理出産はシャリアと一致していないので全面的に反対、と決まった。」とAll India Organizations of Imamsの会長でもあるIlyasi氏は語り、「高額で有害な」代理出産に頼る代わりに養子をもらい、孤児に両親と家庭を与えればよいと述べた。

ラーマクリシュナ・ミッション(ヒンドゥー教のカルマ・ヨーガ、無償かつ無私の奉仕精神を掲げている教会)所属のSwami Shantatmanandも、代理出産より養子の方がよいという意見に賛成する。ヒンドゥー教では、代理出産は善悪の判断の曖昧な領域である。「推奨される手段ではありませんね、当然。」

「ユダヤ教では体外での受精が容認されません。受胎した場所が母親となりますから。」とJudah Hyam Synagogueの Ezekiel Isaac Malekar 氏(デリーのユダヤ人の長)は言う。

80代のVivian Flory は、若い女性が代理出産にはしることに心を痛めている。「不妊だからではなく、仕事のキャリアを中断したくないからだなんて。」「この傾向はますます高まっています。心配です。何十年後かのカップルに、母性なんて言う概念はもうないのかもしれない。」

Religions oppose surrogacy
[UCAN INDIA January 5, 2012]

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by technology0405 | 2012-02-21 14:56 | Countries | Comments(0)

イスラエルの卵子提供

10年間に及ぶ審議の後、2010年6月7日、イスラエル議会Knessetは、卵子提供に関する新法案を可決させた。イスラエルの卵子提供規制は大幅に緩和されることになる。

①卵子提供を目的とした卵子の採取と使用を認める
 (これまでは、不妊治療者の卵子しか提供を認められていなかった。)
②レシピエントは、不妊(妊娠できない、あるいは自分の卵子を使うことができない)と診断された女性。
③レシピエントの年齢は18歳から54歳まで。(51歳から引き上げられた)
④ドナーは匿名で、年齢は20歳から35歳まで。
⑤提供は、6か月以上の間隔をあけ、全部で3回まで
⑥1人のドナーが提供できるのは3人まで

⑦レシピエントは、ドナーの宗教を事前に知ることができる
⑧ユダヤ教以外のドナー卵子で生まれた子供がユダヤ教徒と認められるには、改宗儀式を必要とする

⑨18歳になれば、自分が卵子提供で生まれたかどうか照会できる。(ドナーの個人情報は不可)
⑩卵子提供で生まれた子供は、婚約者との血縁関係の有無を照会できる。
⑪卵子提供で生まれた子供を登録する
⑫生まれた子供の法的な親はレシピエントである

⑬例外的なケース(自分の姉妹に提供など)に認可を出すための委員会を設置
⑭不妊治療は国の保険がきく
⑮ドナーには国が逸失利益を含めた補償金を出す(金額は明文化されていないが、NIS6,000[=USD1580]に設定?)
⑯卵子の売買は禁止
⑰イスラエル女性が海外で卵子提供するのを禁止

イスラエルの卵子提供にはこれまで厳しい規制がかけられており、希望する国民の多くは、ルーマニアなどの海外に卵子を求める状況であった。2000年に、何も知らされていない患者や、小細胞の提供にしか同意していない患者から大量の卵子を採取していた医師らが逮捕されて以来、国内の卵子提供数は劇的に減少、卵子不足が深刻化した。2009年にはルーマニアで違法な卵子売買に絡んでいたイスラエルの組織が逮捕される事件が起こっている。

国内の卵子提供規制の緩和は、遺伝的つながりを重んじるユダヤ教の反発で、長らく保留にされていた。しかし、男系社会のアラブに対し、ユダヤ人社会は母系社会であり、イスラエルの国内法は、「ユダヤ教徒を母として生まれた者」をユダヤ人、ユダヤ教徒と認定している。つまり、厳しい規制によってイスラエルの女性が海外に卵子提供を求めると、ユダヤ教徒でない女性から卵子提供を受けるというジレンマが生じる。今回⑦⑧の条件を法案に入れることで、ラビ(ユダヤ教の指導者)たちは法案の支持を約束し、法案の通過に至った。

Egg Donation Law

Knesset approves bill easing restrictions on egg donation in Israel
[HAARETZ.com 07.06.10]

Israel: Egg Donation
[the Law Library of Congress ]

Israeli Feminists Weigh in on Egg Donation and Surrogacy Laws
[BIOPOLITICAL TIMES June 16th, 2011]

Egg Donation in Israel,Action Research, 2009-2010
Isha L'Isha – Haifa Feminist Center

A Decade in the Making, Egg Donation Bill Passes Knesset
[Forward Association June 8, 2010]


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by technology0405 | 2011-11-29 17:25 | Countries | Comments(0)

渡航治療の目的地を決定する要因とは、価格の安さ、アクセスのしやすさ、観光資源の豊富さ、法的・倫理的規制の緩さ、待機期間の短さであるといわれる。この中で、価格やアクセス、観光に関する要因は、渡航先の国が他国の患者を呼び込むためのプル要因である。一方、自国に先進医療技術や専門家がいない、サービスの質が悪い、法的・倫理的規制が強い等の要因は、自国民を他国での渡航治療へと向かわせるプッシュ要因であり、こちらの方が渡航者の根本的な需要を反映していると考えられる。

生殖補助医療の分野でも、一般的には上に述べたような要因がメディカルツーリズムにおける要因だとされる。しかし、イランのイスファハン(イラン第二の都市)のクリニックで行われた調査によると、イランに不妊治療に訪れたカップルが最重要視したのは、宗教的に承認された処置であるかどうかという点だった。

イスラム教はスンニ派とシーア派の二大宗派に分かれている。スンニ派がムスリムの80-90%と多数派を占める。シーア派はイランを中心に、イラク、レバノン、バーレーン、シリア、サウジアラビア、アフガニスタン、パキスタンに居住する。シーア派とスンニ派は、ARTに関して異なる見解を持つ。シーア派は、限定された状況下での代理出産や卵子提供を認めている。対するスンニ派は、第三者が関わる生殖補助医療を一切認めない。同じイスラム教でも、宗派によって規則が違うのである。多くのムスリムカップルにとって、宗教的に正しい方法でARTを受けることが大変重要であるということが、調査でわかった。

イランには、公立、私立併せて不妊治療施設が70以上ある。その一つIsfahan Fertility and Infertility Centerを訪れた渡航患者は、94%がシーア派であった。国の内訳は、イラク人64.2%、アフガニスタン人17.9%、パキスタン人7.5%で、全体の82.1%が陸路での入国だった。

渡航先の選択に関しては、「アクセス条件」「価格」「観光資源」「自国の専門医の不足」が影響したと答えたカップルより、「宗教的に正しいやり方でARTを受けられることが重要である」という項目に同意したカップルの比率が断然高かった。

不妊カップルの信仰が尊重されるような環境を作り上げることで、生殖ツーリズムの可能性は広がっていく。逆にどんなに生殖技術が発展しても、道徳的、法的、宗教的、倫理的問題を総合的に考慮しなければ、技術のグローバリゼーションは起きないだろう。

Decisive factors in medical tourism destination choice: A case study of Isfahan, Iran and fertility treatments
by Farhad Moghimehfara, Mohammad Hossein Nasr-Esfahani
by technology0405 | 2011-05-27 13:47 | Countries | Comments(0)

イスラムの倫理と生殖

イスラム倫理
「イスラム教」は一枚岩的な宗教ではない。また、イスラムの教えを信者に課す巨大な権威というものも存在しない。様々な分野、観点からの議論や解釈が許されている。イスラム教の倫理はすべてコーランの言葉から形成されている。しかしそのコーランもまた、すべてを教えてくれる百科事典のようなものではない。イスラム教は、人間の状況の変化に対応する機能が組み込まれた、進行性の宗教なのである。イスラム法やイスラム倫理はコーランとスンナ(ムハンマドの行いや範例)を基礎に置くが、イスラム学者は論理や公益、地方の慣習や世論も参考にしながら、特殊な出来事や現代の問題に取り組む。
 イスラム教は多種多様な国や民族から形成されている。よってステレオタイプなイスラム教信者を想定することは避けるべきである。イスラムの社会的多元性はコーランの中でも強調されている。だからこそ、自分がどの集団に属するのかということはムスリムにとって重要なのである。もう一つ重要なのは、理性の存在としての人間に神は力と自由を与えたのであって、大きな神の意志の中で自分の行いを判断できる、つまり自由意思の概念が道徳の基本であるということ。イスラムの道徳観は、この考え方による部分が大きい。

イスラム的観点から見た避妊
 イスラム教は出産を神の意志の現れと捉える。また、子供の性別は精子によって決まると考えている。出産の自然なサイクルを妨げることは禁じられているが、イスラム学者は禁止行為とそうでないものを区別している。コンドームやペッサリーは、自然のサイクルを妨げるわけではないのでOKだが、不妊手術などは認められない。ピルは学者によって意見が分かれる。コーランには避妊についての教えは特にない。避妊に反対するムスリムはこのコーランを引用する。「貧困を恐れて子供を殺すなかれ。汝と同様に子供たちにも食物を与える。まことに子供を殺すことは大罪である。」しかし、避妊賛成派は、これはイスラム前のアラビアによくあった嬰児殺しについて述べた部分であり、避妊のことではないと論ずる。
 イスラム教は、自らの楽しみのためや、親ということに伴う責任を引き受けたくないための避妊には反対である。しかし、家族を作る権利は夫と妻が等しく共有するので、避妊は夫婦双方の合意の上でなされるべきものである。
 避妊に対するイスラムのアプローチは実用主義的である。避妊は以下の場合に許される。①夫婦が二人とも若い、あるいは学生であるとき②夫婦のどちらかが病気などで親になることが困難な場合、あるいは子供を持つことが肉体的・精神的に大変な場合③育てている子供の世話がある場合④妊娠が女性の生命を脅かす可能性のある場合

中絶
 人間の発生に関しては、過去にも現在も統一した見解はない。伝統的なイスラム教では人格は誕生前に獲得されると考えられてきたが、それがいつ起こるのかについては学者の間でも一致をみなかった。受精から胎児の成長のプロセスへの理解が進んだ現在でも、胚形成や胎児の発達期間のどの点で「人」が発生したといえるのか指摘することはできない。現代のイスラム教の意見では、子宮で胎児が成長するにつれて、胚や胎児の利益に対して道徳的に考慮すべきことも増すとされている。
 性選択は、神の意志に背くと同時に女性を下位に置く行為とみなされ、禁止されている。

ヒト胚の研究
 IVFの過程で出る余剰胚には2通りの使われ方がある。研究と、不妊夫婦への提供とである。イスラム的観点からいえば、研究に使うのはOKだが、生殖に使うのはNoである。人間は病気と闘うことを義務付けられた存在である。不妊と闘う生殖補助医療は善であり、その過程で出てきてしまった余剰胚を病気の治療に使用することもまた社会的義務である、とイスラム法の専門家は考えている。
 1981年のIslamic Code of Medical Ethicsには、受胎の瞬間から胚は「保護に値する完全な人間」とある。これは1991年にカイロで開かれたイスラム世界の生命倫理に関する国際会議で出された結論とは反するように思える。この会議の結論では、①ヒト胚が夫婦の同意の下で研究に使われること②受精胚を戻すのはその卵子が作られた子宮に限ること③障害のある前期胚の移植を拒否できること④前期胚の遺伝子情報を操作する研究は禁止⑤性選択は、重度の伴性遺伝疾患の診断に限り認める⑥前期胚の研究を行う前に、提供者の夫婦にインフォームドコンセントを行なうこと⑦商業目的あるいは母子の健康に関係しない研究の禁止⑧研究は承認を受けた施設で行うこと などが認められた。これが道徳的要請に決着をつけ、IVFで作られた余剰胚は使用されなくてもよいし、人間の苦しみを軽減するという目的で使用されてもよいことになった。

クローニング
 カトリック教会は、クローニングや他の生殖技術を神の仕事に介入する行為だと見なすが、イスラム教は違う。イスラム学者は、神のように無からすべてを造ることと、知識に基づく創造をはっきり区別している。神から与えられたものを応用し人間のために生かすことは義務である。イスラム教にとって、クローニングが人間の苦しみを取り除くための研究に使われるなら、それは神の意志に反していることにはならない。

生殖補助医療とIVF
 イスラム教は不妊治療としてのテクノロジー使用に反対しておらず、むしろ不妊夫婦が子供を持ちたいという願いをかなえるこうした治療を後押ししている。しかし、過去にはイスラム法学者が、生殖に第三者が介入しているという理由で反対していた。1980年のファトワと1984年のIslamic Fiqh Council によって認められた夫の精子と妻の卵子を使い、妻の子宮に戻すという条件付きで、今では多くのイスラム諸国でIVFが行なわれている。

代理出産
 代理出産はイスラムでは支持されていない。夫以外の精子、妻以外の卵子の使用が禁止されているように、妻以外の子宮に子供を宿すことも認められていない。子供を出産した女性が母とされるので、代理出産の場合は代理母が母となる。代理出産の反対の例を挙げる。①代理出産は生殖プロセスにおける神のやり方に手を出している。②未婚の女性が代理母になって金のために子宮を貸すことは、結婚と家族生活の制度を蝕む。③既婚女性が、妊娠と出産の苦しみから逃れるために代理出産を使う可能性がある。イスラムでは妊娠を苦しみではなく喜びと捉える。出産時に亡くなった女性には殉教者の地位が与えられる。④代理母が、自分の生んだ子供の親権を主張する可能性がある。血のつながりと子どもの身元に混乱をきたす。

卵子・胚の提供
 イスラム教は生殖補助医療の倫理的問題を克服できないのでは、と思わせる出来事がイランで起きている。卵子提供自体は禁止しないというファトワが宗教上のリーダーから出されたのだ。このファトワは、イスラム諸国が第三者の関わる生殖技術に向かう布石を打ち、2003年イラン議会で不妊カップルへの胚提供が認められた。しかし、血統を重視するイスラム社会ではまだ倫理的、法的、心理的、文化的な問題が残されたままである。何にせよ、イランのファトワは、イスラムの不妊問題への進歩的なアプローチであるといえる。

精子、卵子、胚の凍結保存
 婚姻関係にある夫婦が同意すれば、配偶子・胚の凍結保存は全く問題ない。IVF過程で出来た余剰胚を凍結する場合、その胚の数などについての議論も全くない。ただし、それを妻以外の子宮に戻すことはできない。夫が死亡したり、夫婦が離婚した場合、胚を生殖に使うことはできない。

PGD
 子供の先天的な異常を診断するためのPGDは、イスラム的観点からは認められている。イスラム教は遺伝子疾患や先天性奇形を防ぎ、健康な子孫を残すことに力を入れている。指導者も、結婚相手を選ぶときに子孫のことを考えて選ぶように、また、近親結婚を避けるように呼びかけている。

結論
 イスラム教が倫理的な問題にあたるときには常にコーランに基づいて考える。子供をもつことはムスリム生活の中心であり、結婚している夫婦が子供をもうけるために生殖技術と使うことは好意的に捉えられている。避妊に対しても実用主義的である。中絶は、母親に生命の危険が伴う場合と、子供に先天的な障害が見つかった場合のみ認められる。PGDも、重度の障害の診断にならば認められる。性選択は、伴性遺伝の診断にのみOK。余剰胚を研究に使用することには好意的だが、その胚が他の夫婦の生殖に使われることはない。血統と遺伝がイスラムのアイデンティティに重要な意味を持ち、ムスリム社会で家族の一員となるための鍵となる。そのため、血統と遺伝を妨げる代理出産や精子提供、クローニングは許されない。

Faith and Fertility: Attitudes Towards Reproductive Practices in Different Religions from Ancient to

Jessica Kingsley Pub




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by technology0405 | 2011-03-22 15:51 | Countries | Comments(0)

ムスリムが多数派を占めるマレーシアで代理出産が増えつつあるという報告を受け、マレーシアのIslamic affairs department(イスラム宗教局)が、イスラム教は代理出産を禁じるというファトワーを出した。

「別の女性が妊娠するとなると、子供の実母が誰なのかという問題が出てくる。」とマレーシア最大の州スランゴール州のMat Jais Kamos氏は言う。「 代理出産はイスラム法の混乱を招く。特に相続に関してね。子供の血統、つまりその人間の相続権があやふやになるんだ。」

Mat Jais氏によると、代理出産を禁じるファトワーは2008年にNational Council of Islamic Religious Affairsからすでに出されていたという。ただ、その決定は最近までそれほど知られていなかった。「そうした形態の妊娠はイスラム法では受け入れられないと、ファトワーははっきり述べている。」とMat Jais氏は言う。

イスラム教では基本的に、婚姻関係にある夫婦の卵子と精子を使ったIVFのみが認められている。
「イスラムでは、結婚している男性の精子を別の女性の卵子と受精させることは認められていない。その男性と結婚していない女性が男の子供を妊娠するのは、不倫であり、違反とみなされるのだ。」

マレーシアでは代理出産が増えているが、それを取り締まる法律はない。 Islamic Affairs Departmentはある種の風紀警察の役割を果しており、宗教に違反したイスラム教徒を罰する権限を持っている。イスラム教の指導者は代理出産を認めないが、多様な民族からなるこの国には寛容な考えを持つ人々も多い。今後マレーシアで代理出産が政治的にどう扱われるか興味深い。

Surrogacy banned under Malaysian fatwa
[Straits Times Mar 1, 2011]

Surrogacy banned under Malaysian fatwa
[AFP Feb 28, 2011]

Surrogacy banned under Malaysian 2008 fatwa
[AL ARABIYA NEWS 01 March 2011]

Malaysian Fatwa Said Surrogacy Is Haram
[A Big Message ɹoɟ uɐ ǝpısdn uʍop plɹoʍ]

2008年のファトワ
Hukum Menggunakan Kaedah Khidmat Ibu Tumpang Untuk Mendapatkan Zuriat

マレーシア2008年ファトワ訳


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by technology0405 | 2011-03-04 11:02 | Countries | Comments(0)

ヒンドゥー教と生殖

ヒンドゥー教が他の主な宗教と異なるのは、その起源が一人のカリスマ的リーダーによってもたらされたものではなく、インド古来からの宗教が徐々にブレンドされて今の形になっている点である。キリスト教のように、権威として組織化された宗教ではない。世界に10億人いるといわれるヒンドゥー教徒のうち9億人がインド在住。他宗教やテクノロジーに対しても寛容で、そのためインドでは、都市部の人々も宗教的儀式とテクノロジーを共存させて生活している。

生殖の分野でも、生殖補助医療を積極的に取り入れ開発する一方で、シヴァ神やマハーデーヴィー神への祈祷もポピュラーである。ヒンドゥー教の子供の誕生に関する儀式には次のようなものがある。
①女性の妊娠を祈願する儀式 ②妊娠3か月の時に、子供が男子であることを祈願する儀式 ③子供の誕生時、縁起の良い星占いを祈願する儀式 ④子供の命名時、健康と長寿を授かるよう祈願する儀式 ⑤生後6か月に、1歳まで健康に生き延びるよう祈願する儀式 ⑥剃髪の儀式 ⑦子供をドゥヴィジャ(再生族、カーストの上位3)にする儀式 

生まれ変わり信仰とカルマ(宿命)を基本とするヒンドゥー教では、現世の行いが生まれ変わった後の幸福にまで影響すると考えられている。ダルマの教えでは、結婚して息子を生み育てることが人の義務とされているため、不妊や同性愛はスティグマ化され、子供(特に息子)を欲しいという欲望は非常に強い。前述の儀式からも分かるように、子供は神からの授かりものと考えられ、養育に非常に力を注ぐ。

しかし、あくまで子供=息子。インド社会で女性は独立した一個人とはみなされにくい。ヒンドゥーでは女性の3段階についてこう説明される。
①子供の時は、父に守られる。伝統的に、女子は正式な教育を受けなかった。女性の役割は家の中にある。
②結婚すると、夫に守られる。女性の純潔が重視され、若くで結婚し、結婚生活において外に出ることはなかった。夫に対する妻の役割は、召使、助言者、子供の母、愛人の4つ。
③未亡人になると、長男に守られる。親を世話する義務は息子にある。

男性優位のヒンドゥー社会では、娘は家にとってマイナスになると考えられてきた。インドでは昔から女の新生児の間引きは盛んに行われてきたが、現在は超音波装置の普及により出生前診断+中絶という性選択の方法が一般的。出生男女比は130:100と偏り、深刻な問題となっている。

生殖補助医療技術に関して、ヒンドゥー教はそれをインドの進歩と捉え、非常に好意的である。神話の中には、男神の精子を体内に注いで子供を生んだ女神の話や、胎児を別の女性の子宮に移して出産した話もあり、人工授精や代理出産に通じるところがあるとも考えられる。生殖補助医療技術があくまで不妊の夫婦を助けるために使われるのならOKという考え方を持つ人が多い。クローン技術も、生まれ変わり信仰と通じるのか、キリスト世界のような抵抗感はない。

こうしてヒンドゥー社会に受け入れられた生殖補助医療技術は、メディカルツーリズムの追い風を受けインドでますます発展している。この傾向は今後も続くと予想され、ICMR(Indian Council for Medical Research)によると2015年には年間60億ドル産業になると予想されている。

Faith and Fertility: Attitudes Towards Reproductive Practices in Different Religions from Ancient to Modern Times

Jessica Kingsley Pub




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by technology0405 | 2011-01-07 14:03 | Countries | Comments(0)

中国のAID倫理

中国では、2001年に出された『人類補助生殖技術管理弁法』の第3条にて「人類補助生殖技術の応用は医療機関により実施されなければならない」とした上で「あらゆる形式での配偶子・胚の売買を禁止する。医療機関や医療関係者は、あらゆる形式の代理出産技術を実施してはならない」と規定した。

しかし上記は医療者のための法律であり、実際の市場を取り締まるには至っていない。そのため2003年8月に「人類補助生殖技術規範」が公布され「いかなる組織や個人も、あらゆる形式で卵子提供希望者を募集しビジネス行為をしてはならない」とする条文が加えられた。政府は、一向に減らないネット上での代理母あっせんや精子の売買について、ペナルティーを強化するなどして再三警告しているが、仲介業者の活動は盛んになっている。


中国で支配的な儒教では「男子を産み家系を絶やさぬようにするのが人間の務め」という考えが根強く、生殖補助医療は不妊夫婦にとって希望の光となっている。しかし、AIDは夫の血を引き継がない子供を持つことになり、男系を重んじる儒教倫理とは矛盾する。

2001年に出された2つの規制法の内容は次のようである。

Human sperm bank management
・ドナーは22-45歳までの健康な人間
・提供できる精子バンクは1か所で、その精子が使用できる女性は5人まで
→2006年には体外受精は5人まで、人工授精は8人までとなった
・ドナーに対する医学的検査を厳密に行う
・新鮮な精子の使用は禁止
・精子バンクはドナーとレシピエントの情報を秘密にし、同意なく公開してはならない
・精子バンクはドナーの情報をきちんと管理し、データベースに永久に保存する
・精子の調達と提供はドナーから無償で行われる
・委員会の倫理的原則である、身体部位の非売買、人間の尊厳の保護を遵守する
・クリニックも個人も精子のやり取りによって利益を得てはならない
  →しかし、ドナーに対する支払いの禁止はない

Regulations of human assisted reproductive technologies
・配偶子・受精卵・胚をいかなる形でもビジネスに利用してはならない
・医療機関や医療従事者は、代理出産に関わってはならない
・生殖技術を使用する施設には、専門スタッフと適切な設備、医療倫理委員会の人間を配置させる
・医療施設は生殖補助医療に関わる全ての人間の秘密を守る
・医療的な正当性のない性選択は禁止
・違法施設から手に入れた精子を使用してはならない

2003年、2006年とさらに規制が付け加えられたが(不妊センターのライセンスを2年ごとに更新するなど)、基本路線は変わっていない。2007年には、基準を満たさない精子バンクを政府が閉鎖し、認可精子バンクの数を10にまで減らした。


AIDで生まれた子供の立場に関しては、1991年に最高裁が次のような声明を出している。
「AIDで生まれた子供は、すべての点で、AIDに同意し依頼した夫婦が自然に妊娠・出産した嫡子と同様の立場にある。婚姻法の中の、親と子の権利と義務に関する条項がそのまま適用される。」

2003年「Ethical Principles of Assisted Reproductive Technology and Human Sperm Banks」にも、AIDで生まれた子供は自然妊娠で生まれた子供と同じ権利と義務があることを、医療機関はレシピエントに伝えなければならない、とある。

子供が「親が誰なのか知る権利」は、中国では特に難しい問題である。伝統的に血縁関係が神聖なものとみなされる中国社会では、AIDで生まれた事実を子供本人や周囲に知らせない傾向が強い。AIDで生まれた子供が成長し、互いに血縁関係があることを知らずに結婚したり、自分に遺伝病があることを知らないまま子供を持つ可能性も否定できない(中国では婚姻届を出す際に遺伝病の検査を受けることが義務付けられていたが、2003年以降、義務ではなくなった)。
香港では、21歳に達していれば自分がAIDで生まれたのかどうか検査することができるが、ドナーに関する情報は一切公開されないことになっている。

独身者が子供をもつ権利については「Ethical Principles ~」中で「独身女性はAIDで子供を持つことができない」と否定されている。独身男性は、代理出産が禁止なのだからもちろん不可。養子縁組法6条と9条により、独身男性も独身女性も養子をとることは認められている。
同性愛は中国で認められておらず、差別の対象となっている。

精子の売買は法律で禁じられているが、認可精子バンク10か所のうち2か所は、ドナーに金を支払っている。Shandong精子バンクでは、ドナーが一回病院を訪れるごとに20ユーロ支払われ、精子が使用可能な場合には100ユーロ追加される。Shanghai精子バンクではドナーに約350ユーロ支払われるという。中国には著名人の精子や博士号を持つ人の精子を扱う精子バンクも存在し、倫理的に様々な問題をはらんでいる。

儒教的倫理観と西洋的倫理観との対立、商業的なARTの使用を禁ずる法律と仲介業者の横行など、中国の生殖補助医療は様々な矛盾をはらんでいる。それだけに、国内での生命倫理学者の関心も高い。こうした議論に医者が加わることが少ないのが、西欧と異なる点である。

China tightens control over assisted reproductive technology
[GOV.cn Friday, June 1, 2007 ]

Chinese health official reiterates surrogacy against law
[GOV.cn Monday, April 10, 2006 ]

・2001年『人類補助生殖技術管理弁法』
http://www.gov.cn/fwxx/bw/wsb/content_417654.htm
・2001年『人類精子庫技術規範』
http://fjthk.now.cn:7751/vip.chinalawinfo.com/newlaw2002/slc/SLC.asp?Db=chl&Gid=35148
・2003年『人類補助生殖技術規範』
http://www.docin.com/p-15831804.html

The ethical debate on donor insemination in China
Juhong Liao, Bart Dessein, Guido Pennings
Reproductive BioMedicine Online (2010) 20, 895-902

論説 中国における生殖補助医療の状況
夏芸
東洋文化研究10号、2008

最高人民法院 关于夫妻离婚后人工授精所生子女的法律地位如何确定的复函
1991年7月8日、民他字第12号

 
两高一审典型案例
林伟杰 主编
中国民艺出版社

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by technology0405 | 2010-11-12 14:06 | Countries | Comments(0)

マレーシアには、インドと同じくARTに関するガイドラインが存在する。インドとのおおきな違いは、ガイドラインが代理出産を認めていないこと。法律ではないので刑罰による拘束力はないが、マレーシアの不妊クリニックでは、このガイドラインにより代理出産を行わない病院も多い。
ガイドラインは代理出産について、以下のような言及にとどめている。

ガイドラインの12条「代理出産」
代理出産契約とは、女性が他人のために子供を妊娠し、出産時に引き渡すことに同意することである。こうした行為は我が国の主な宗教のほとんどにとって受け入れがたいものである。またこのような代理懐胎には、関係者にとって、多くの法的ジレンマが伴う可能性をはらんでいる。

ガイドラインの全体は以下のようである
1条 定義
人間の尊厳と統合性の尊重、ヒト遺伝物質が不適切な使い方をされないよう保護すること、ケアの質の向上、の原則

2条 原則
人間の生命の尊重、不妊の人の権利への配慮、子供の福祉の保護、医学的知識より得られる利益を個人と社会に還元すること、生殖補助医療は婚姻関係にある夫婦にのみ提供されること

3条 ケアの質の原則
クリニックが治療とその結果を十分に分析すること、配偶子や胚の記録をつけた上で適切に保管すること、保管された胚を使う場合には同意書を得ることなど

4条 同意
・いかなるARTも、夫婦の同意なしに施してはならない
・治療や研究に遺伝物質を使う場合には、夫婦の同意が必要
・治療に成功した夫婦の余った遺伝物質をどうするかについては、夫婦の同意と決定による
 ただし遺伝物質は最長5年まで、政府の承認を受けた場合は10年まで保管可能とする
・離婚や死亡の場合は保管された配偶子が破棄されることに、夫婦は同意しなければならない

5条 卵子/胚の移植
・危険物質に汚染された可能性のある配偶子や胚は使用しない
・医師と患者夫婦は、移植する胚の数について書面で同意しておく
・医師は、多胎妊娠の危険を最小限にとどめる努力をする

6条 胚盤胞移植
胚を2-3日以上培養し、卵割期の終わった胚盤胞の段階まで成長させてから子宮に移植することで、より高い妊娠率が期待できる。これは胚の自然な成長を利用した方法であり、この処置について倫理的問題は一切ない。

7条 アシスト・ハッチング
胚の表面の透明体の一部を酸で溶かし、着床を助ける技術であり、胚の成長の進行を変えるものではない。従って、この処置について倫理的問題は一切ない。

8条 卵子提供/胚提供/精子提供
卵子、胚、精子の提供には、15条に示した禁止事項が伴う。この処置に入る前に、患者と医師の宗教的、文化的感性が考慮されなければならない。

9条 性選択
社会的、個人的理由による性選択は禁止する。しかし、伴性遺伝による重度の遺伝子疾患の診断は認められる。

10条 選択的減数手術
慎重な排卵誘発と移植胚の数の制限によって、過度の多胎妊娠は最小限に抑えるべきである。それでも4人以上の胎児を妊娠した場合、胎児や母体に危険があると判断されれば減数手術を考えてもよい。この処置をする場合は患者への十分な説明を行う。

11条 配偶子と胚の保管と廃棄
胚の保管と廃棄に関しては、ARTを受けている夫婦に決定権がある。夫婦が離婚したり片方が死亡した場合、保管された配偶子を夫婦片方だけの一存で使うことはできない。

12条 代理出産
代理出産契約とは、女性が他人のために子供を妊娠し、出産時に引き渡すことに同意することである。こうした行為は我が国の主な宗教のほとんどにとって受け入れがたいものである。またこのような代理懐胎には、関係者にとって、多くの法的ジレンマが伴う可能性をはらんでいる。

13条 精子の凍結保存/精子バンク
特に化学療法をこれから行う予定の患者は、将来の使用を見越して精子を保管してよい。精子を精巣上体や精巣から採取することも可。精子サンプルの識別を適切に行うこと。提供精子の使用においては、医学的必要性と、患者と医師の宗教的感性に従って進められるべきである。

14条 着床前遺伝子診断
現在PGDは主に病気の診断に利用されている。また、病気の兄弟に臍帯血を移植するための胚を選択するのにPGDを使う者もいる。胚の道徳的地位などに関しては世界的にも意見は一致していない。現時点では、重篤な遺伝子疾患の診断にのみPGDを使用するのが妥当である。障害や病状に関係のない遺伝形質を選択するための使用は倫理に反する。

15条 禁止/望ましくない行為
・ドナーの同意なくヒト配偶子を使用した研究や実験を行ってはいけない
 そうした研究や実験はマレーシアでは禁止されている
・ART治療以外の目的で胚を培養することを禁止
・受精卵を培養できるのは、低温保存期間を除いて14日まで
・クローニングの禁止
・移植胚を増やすために胚を分割する行為を禁止
・胎児の配偶子を受精に使うことを禁止
・人間と動物の配偶子を交雑させることを禁止
・違う配偶子や胚を混ぜて、生物学的な親子鑑別を混乱させる行為を禁止
・ヒト胚を動物に移植することを禁止
・胚の細胞核を他人の細胞核と取り換えることを禁止
・胚の細胞の遺伝子構造を変えることを禁止
・胚のフラッシングを禁止
・配偶子や胚の売買を禁止
・デザイナーベビーを作るための着床前診断を禁止
・死体から採った配偶子や胚をARTに使用することを禁止
・婚姻関係にないカップルにARTを使用することを禁止

GUIDELINE OF THE MALAYSIAN MEDICAL COUNCIL ASSISTED REPRODUCTION

Malaysian Medical Council


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by technology0405 | 2010-11-02 13:50 | Countries | Comments(0)
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