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卵子提供 論文要約

ここ20年間で、生殖補助医療は高齢女性の選択肢を大きく変えた。1984年に成功した最初の卵子提供は40歳前に閉経を迎えた早発閉経の女性が対象であったが、現在ほとんどのIVFセンターでは、卵巣予備能の低下した女性を対象とする実施が優勢である。他に、複数回IVFが失敗に終わった女性、および子供に影響を与えうる遺伝病の保因者である女性も対象に含まれる。

卵子提供の利用が増えるにつれ、それに伴う産科的リスクの潜在も調査、報告されるようになった。ハイリスク妊娠、特に妊娠による高血圧症(PIH)が多くの報告で指摘されている。しかし、こうしたハイリスク妊娠は高齢出産の特徴でもあり、また未経産婦や多胎妊娠においても高い確率で起こる。こうした潜在的交絡因子が、卵子提供によるリスクだけを取り出して分析することを困難にしている。しかも、通常の体外受精それ自体が、自然妊娠に比べて産科的リスクが高い可能性もある。そこで本研究では、未経産婦や多胎妊娠の割合が等しい集団を対照群にして、この問題を調べた。

<資料と方法>
1999年から2004年5月までの産科治療記録を調べ、卵子提供あるいは通常のIVFによって妊娠した患者を抽出。卵子提供による妊娠をした患者50人を選んだ。同時期に通常のIVFで妊娠した患者50人を対照群とした。この患者たちの体外受精はサンフランシスコにある複数の生殖補助医療センターで実施されており、子宮内妊娠が確認された後に患者が受けた治療は文書化されていた。全ての患者が、ART治療を受ける前に基礎疾患の検査を受けている。妊娠後、患者は全員California Pacific Medical Center の産婦人科医師らの下でケアを受けた。この病院はレベル3の新生児集中治療室を持ち、周産期医学のコンサルタントが常在する。施設内倫理委員会の承認を得て、患者すべての出産記録を調べた。

両方のグループは同じ集団に属する産科医の下で、同じレベルの周産期ケアを受けた。高血圧、糖尿病、早期陣痛などの危険因子があればいつでも周産期医学のコンサルタントが関わる。妊娠高血圧症と子癇前症の診断はAmerican College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG) の定義に基づいて行われた。簡単に説明すると、妊娠20週以降の蛋白尿を伴わない初発の高血圧を妊娠高血圧症(PIH)と定義し、尿蛋白を伴うタイプの高血圧症を子癇前症と定義する。子癇前症はしばしば他の症状を併発する。

<結果>
卵子提供グループ(DE-IVF)と通常のIVFグループ(STD-IVF )2つのグループにおいて、未経産婦および多胎妊娠の数はほぼ同数である。唯一異なるのは年齢であった。DE-IVF グループの年齢幅は31-50歳、平均41.9歳。STD-IVFグループの年齢幅は30-45歳で平均は37.7歳となった。

DE-IVFグループ50人のうち、11人が早発閉経、23人が卵巣予備能の低下、残りが自分の卵子を使ったIVFでの複数回の失敗を経験していた。 早発閉経を除く39人には全員、卵巣機能があった。STD-IVFグループの21人が卵巣予備能の低下、5人が卵管疾患、23人が男性要因による不妊であった。卵巣機能については、グループ間で特に大きな違いは見られなかった。
若干の内科的な疾患が両方のグループで見られた。甲状腺機能低下、薬を要しない程度の慢性高血圧、フォン・ヴィレブランド病、上室性頻拍症による心臓切除手術経験、僧帽弁逸脱、筋腫摘出経験など。
卵子ドナーは20歳から38歳。ほとんどが匿名だが、3人がレシピエントの姉妹だった。DE-IVFグループの未経産婦34人のうち、7人は過去にも卵子提供による妊娠を経験していた。

DE-IVFグループでは最初18人が多胎妊娠だった。そのうち1人は減数手術で妊娠初期に3胎を1胎にし、1人は16週で双胎のうち1胎が流産、1人は25週で双胎の1胎を流産した。33週以降に生まれた双子は15組だった。患者の1人が異所性妊娠し、9週目で開腹し右の卵管を切除し、臨月まで子宮内妊娠を継続した。STD-IVFグループでは最初18人が多胎妊娠だったが、妊娠初期に6人が自然流産で単胎になった。4人が減数手術で3胎を2胎にした。三つ子を32週で出産した患者が1人。13組の双子が35週以降に生まれた。

妊娠合併症についてみると、DE-IVFグループに妊娠高血圧(PIH)と子癇前症が高かった。1人は妊娠20週前から高血圧になり、38週で蛋白尿が見られた。彼女は分娩後3日目に低酸素症と胸水を併発し救急科に移された。別の患者は産後7日目に深部静脈血栓症と肺動脈塞栓症(そくせんしょう)を発症した。STD-IVFグループでは、1人が小腸閉塞を起こし、産後期間に小腸を切除した。

DE-IVFグループの帝王切開率は、トータルで42.8%、多胎出産を除くと31.42%。STD-IVFの方はトータルで46%、多胎出産を除くと40.54%であった。両グループとも選択的帝王切開はみられなかった。
DE-IVFでは、20週で自然破水を起こして死産になったケースが1件あった。先に述べたように25週での子宮内胎児死亡があったものの、死産はこれ以外にはなかった。5分後のアプガー指数(出産直後の新生児の健康状態を表す指数)が7点未満の子供もいなかった。DE-IVFグループのうち15人が在胎週数に比べて小さい子供(SGA infant)を出産し、そのうち5人が早発閉経の患者だった。STD-IVFグループのうちSGA infantを出産したのは14人。分娩後の症状で最も多かったのが産後うつで、DE-IVFグループの10%(5人)、STD-IVFグループの8%がかかった。

卵子提供と妊娠高血圧症(PIH)の関係をさらに検討するため、下位集団の分析を試みた。するとDE-IVFグループの未経産婦はSTD-IVFグループに比べて妊娠高血圧(PIH)のリスクが明らかに高かった(37.1% vs 8.1%, P < .003)。これは単胎妊娠でも多胎妊娠でも当てはまった。DE-IVF の未経産婦において、出産年齢の影響も入れてさらに分析すると、妊娠高血圧症(PIH)になった女性の平均年齢は41.6 (±3.6)歳、ならなかった女性の平均年齢は42.1(±5.4)歳であった。妊娠高血圧(PIH)を発現したグループの方が少し若いという結果は、年齢が上がるほどPIHの発症率が高いという仮説に逆行する。年齢階層別の分析(5歳階級)でも、PIHの発症率の上昇はみられなかった。多重ロジスティック回帰でも母体年齢のオッズ比は1となり、交絡因子からは除外された。

重症子癇前症を発症した患者は1人だけで、DE-IVFグループだった。38週で尿蛋白2+を検出し、誘発後に経膣出産、出産3日後に胸水になった。1週間集中治療を受け、特に続発症もなく回復した。

<考察>
卵子提供の有効性が証明され、ますます多くの女性が卵子提供を利用するようになったが、そのリスクについて警告する論文は少ない。これまでに出された卵子提供に関する論文は、対照群の適切性が問題であった。不妊原因、ART治療の種類、母体数、多胎妊娠、母体年齢などの要素が個別に持つリスクが影響し、分析結果を誤らせている可能性があった。

第一の交絡リスクは卵巣機能の状態である。卵巣が機能している女性は、卵巣障害のある女性に比べて妊娠高血圧症などの合併症になる危険性が高いという報告がある。本研究ではそうならなかった。また、卵巣機能とSGA児(臨月で2500g以下)の関係を指摘する報告もある。本研究ではSGA児の誕生率は2グループで同じであった。SGA児が生まれたDE-IVFグループの3分の1の患者には卵巣機能がなかった。

妊娠高血圧症(PIH)と子癇前症の発症率と、未経産婦および多胎出産との関係は、これまで明らかにされてこなかった。2グループの未経産婦と多胎妊娠の割合を等しくしたことで、未経産婦に妊娠高血圧症(PIH)が多いと結論づけることができたのは、重要な発見である。年齢に関しては、2グループの平均年齢は 37.7 歳と41.9歳で近いとはいえ、その差は有意であった。 先行研究によると卵子提供による45歳以上の妊娠率は高いものの、多胎妊娠に続発する合併症の発生率も高いという。Reproductive Medicine and the Society for ARTは、移植胚の個数を決めるときは、レシピエントの年齢よりもドナーの年齢を考慮に入れるべきとのガイドラインを出している。

本研究の最も重要な結論は、卵子提供が妊娠高血圧症/子癇前症に結びつくということである。この傾向は特に未経産婦で強く(オッズ比5.9)、多胎妊娠、単胎妊娠どちらにも当てはまる。PIHを発症したDE-IVF グループの未経産婦の年齢と、PIHを発症しなかった同クループの未経産婦の年齢に差はなかった(オッズ比1)ことから、年齢でなく経産回数や卵子提供の有無が危険因子であるといえる。

卵子提供に関する大部分の先行研究では、PIHが大きなリスクであると指摘されており、その発症率は20%から50%である。この原因として、こうした妊娠がレシピエントにとって免疫学的に異物であることが考えられる。母体と受胎産物の間で不適切な免疫反応が作用した結果、胎盤形成と母体循環系からの切り離しがうまくいかず、かん流圧が増えることで血流が増加し、PIHや子癇前症が起きるという説がある。初産婦に子癇前症が多く、新しいパートナーで妊娠した経産婦にもこの症状がでやすいことも、これで説明がつく。対照群の適切性から、本研究で得られた結果は、子癇前症の原因を探る上で非常に妥当であるといえるだろう。

Outcomes of pregnancies achieved by donor egg in vitro fertilization—A comparison with standard in vitro fertilization pregnancies
Donna A. Wiggins
American Journal of Obstetrics and Gynecology
Volume 192, Issue 6, June 2005, Pages 2002–2006


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by technology0405 | 2012-09-06 18:01 | Materials | Comments(0)


2008『代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題』 (日本学術会議)'代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題'では、法律で代理出産を禁止するとともに、臨床試験を目指して限られたケースに限り実施するという方針が打ち出されている。
英国では、非営利での代理出産を認めており公設機関によりデータ収集がなされている。日本で、今後、商業化を防ぎつつ代理出産を実施する方式を採用する場合、英国のエビデンスが参考になるだろう。

Surrogacy:the experiences of surrogate mothers[Human Reproduction, 18/10, 2003]
Vasanti Jadva, Clare Murray, Emma Lycett, Fiona MacCallum and Susan Golombok
代理母が代理出産に至った動機、その経験と心理的影響についての研究。代理出産をしてからおよそ1年経った34人の女性をインタビューし、データをとった。質問内容は(ⅰ)女性が代理母になった理由(ⅱ)妊娠前、妊娠中、出産後それぞれの依頼者との関係を振り返って(ⅲ)子供を手放すときと、手放した後の経験(ⅳ)代理母になることへの周囲の反応。代理母は一般的に、依頼者との関係、子供の引き渡し、周囲の反応に大きな問題を経験していないことが結果としてわかった。出産の数週間後に情緒的問題を経験した代理母もいたが、時が経つにつれ消失する傾向にある。代理母は、代理出産によって心理的問題を経験するわけではなさそうだ。

Surrogate Motherhood: Attachment, Attitudes and Social Support[Psychiatry 54,1991]
Susan Fischer and Irene Gillman
代理母が子供を遺伝上の父親に引き渡すことを拒否したベイビーM事件は、胎児に対する代理母の本能的な愛着という問題を世間に考えさせる契機となった。これまでの研究では、代理出産の経過に伴う変数の中に、愛着度は入れられてこなかった。この研究では、代理母とそうでない妊婦の違いに焦点を当て、愛着の度合いや質、妊娠への態度、社会的支援について比較する。客観的な手法と形式ばらないインタビューによって、代理母にとっての妊娠の意味への理解を深めた。代理母になることに伴う様々な現象についても考えられている。

Psychosocial aspects of surrogate motherhood[Human Reproduction Upd. 13/1,2007]
Olga B.A.van den Akker
代理母、依頼女性、子供という3者の社会心理学的研究の再調査。子供への愛着や情報の開示;代理母の経験や特徴、動機 ;依頼する女性の経歴の変化など、多くの点に焦点を当てた研究である。これまでほぼすべての研究は厳選されたサンプルを使っており、一般化することは困難であった。理論が著しく欠落しており、長期的な研究や異なった集団を比較する研究ばかりであった。代理出産が家族にもたらす意味や必要性、あるいは専門家や医療能力、経済的要因が代理母や依頼女性の選択に及ぼす影響について、疑問を投げかける研究はほとんどなかった。社会的態度は幾分変化してきた。しかし、世間の考え方では、子供を持たない女性はまだ認められにくい状況に置かれている。代理母と依頼女性は、意識の改革によってこの奇抜な選択をしており、この意識改革の成功や失敗によって、自分の選択にオープンで正直になれるかどうかが決まる。反対に一般の人々に対する調査では、代理出産をあまり受け入れていないことがわかる。つまり、彼らは意識改革する必要がないので、元の規範意識をそのままの状態に保とうとするのである。

Psycological trait and state characteristics, social support and attitude to the surrogae pregnancy and baby[Human Reproduction, 22/8, 2007]
Olga B.A. van den Akker
代理母と依頼女性の性格の違いは、UKでは研究されてこなかった。さらに、代理出産契約が及ぼす心理的影響は、長期的な展望を持っては調べられてこず、この研究は代理母と依頼女性の心理研究を行った最初の論文である。61人の代理母と20人の依頼女性、計81人に、妊娠第1期、2期、3期それぞれにおいて郵送でインタビュー調査した。出産に成功した人には、子供の誕生後第1週、6週、6か月後にそれぞれ再調査した。代理母と依頼女性の性格には大きな違いはなかった。社会的支援、夫との関係、不安感に関しては、それぞれの段階で代理母と依頼女性で大きく違っていた。妊娠への態度や子供への態度も妊娠中には大きな違いが見られたが、産後鬱は見られなかった。代理出産が心理的影響を及ぼし、その影響が継続することがわかったという点で、この結果は重要である。また、心理検査や支援が必要であることも明らかになった。

Surrogacy:The experience of commissioning couples[Human Reproduction, 18/6,2003]
Fiona MacCallum, Emma Lycett, Clare Murray, Vasanti Jadva and Susan Golombok
代理出産によって得られた子供を持つ家族の研究。依頼者夫婦の経験に焦点を当てた論文である。代理出産で生まれた1歳の子供を持つ42カップルにインタビュー調査した。代理出産を選んだ動機、代理母に関する詳細、妊娠中と出産後の経験、友人や家族に対する代理出産の事実の公開について。カップルは長い不妊の結果、唯一の選択肢として代理出産を行っていた。妊娠中を通してカップルの不安度は低かったといい、代理母との関係も一般的に良かった。これは、代理母とカップルが、契約前から知り合いであるかどうかに関わらず当てはまった。子供の誕生後も、大多数のカップルが代理母と何らかのコンタクトをとり続けており、良好な関係を保っていた。すべてのカップルが代理出産のことを友人や家族に話しており、子供にも伝えるつもりである。代理出産を依頼したカップルは、おおむね、代理出産を前向きな経験としてとらえていることが分かった。

A longitual pre-pregnancy to post-delivery comparison of genetic and gestational surrogate and intended mothers: confidence and genealogy.[J Psychosom Obstet Gynaecol, 26/4, 2005]
Van Den Akker OB.
代理出産を依頼する女性は、子供との遺伝的つながりの有無を選択する。代理母もまた同様の選択をする。この選択と、誕生後6か月の子供に対する認知度の強さの関係について調査した研究。AIもしくはETを経験した代理母と依頼女性81人を契約時から4グループに分けて調査し、出産まで至った34人を子供の誕生の6か月後に再インタビューした。契約に関する自信度は、代理母と依頼女性で大きな違いがあった。遺伝的つながりを重視する考えが、ETを選択する判断材料になっていた。1年半の研究期間を通して回答が寄せられた。得られた結果が倫理的、臨床的に意味していることを、代理出産のプロセスや遺伝的つながりの重視と、自主的な選択と自信との関係の中で明らかにする。

Experience of in vitro fertilization surrogacy in Finland[Acta Obset Gynecol Scand, 81, 2002]
Viveca Soderstrom-Anttila, Tom Blomqvist, Tuija Foudila, Maritta Hippelainen, etc
フィンランドのIVF代理出産の経験に関する、10年間にわたる研究。1991-2001年に、4つのクリニックで代理出産した女性17人を調査。彼女らは、代理出産の過程で卵巣刺激の処置を経験している。代理母たちはボランティアであり、依頼者との関係は、6人が姉妹、3人が母親、1人が夫の姉妹、1人が従妹、4人が友人、3人はその他のボランティアである。依頼者夫婦、代理母とそのパートナーに対するカウンセリングは通して行われた。28サイクルのIVF代理出産処置が17人の女性に行われた。先天的に膣と子宮がない女性5人を含めて、すべてのケースで経膣採卵が適用された。平均で1.8個の胚が一回に移植され、11人が妊娠した(50%が新鮮胚、16%が凍結胚移植)。健康な9人の子供と、双子1組が生まれた。流産が1人。すべてのケースで、誕生直後から依頼者夫婦が子供の世話をした。2人の代理母が産後抑鬱症にかかった。結果として、利他的な代理出産はうまくいくが、関係者すべてに対し注意深いカウンセリングを行うことが必要不可欠であるといえる。


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by technology0405 | 2010-09-17 10:05 | Countries | Comments(0)

Fact or Fiction: Artificial Reproductive Technologies Make Sick Kids
[SCIENTIFIC AMERICAN July 1, 2010]

Test-Tube Babies May Face Greater Health Risks Than Naturally Conceived Children 
[SCIENTIFIC AMERICAN:February 23, 2010]

The Need to Regulate "Designer Babies"
[From the May 2009 Scientific American Magazine]


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by technology0405 | 2010-07-23 14:02 | Comments(0)
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