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渡航治療の目的地を決定する要因とは、価格の安さ、アクセスのしやすさ、観光資源の豊富さ、法的・倫理的規制の緩さ、待機期間の短さであるといわれる。この中で、価格やアクセス、観光に関する要因は、渡航先の国が他国の患者を呼び込むためのプル要因である。一方、自国に先進医療技術や専門家がいない、サービスの質が悪い、法的・倫理的規制が強い等の要因は、自国民を他国での渡航治療へと向かわせるプッシュ要因であり、こちらの方が渡航者の根本的な需要を反映していると考えられる。

生殖補助医療の分野でも、一般的には上に述べたような要因がメディカルツーリズムにおける要因だとされる。しかし、イランのイスファハン(イラン第二の都市)のクリニックで行われた調査によると、イランに不妊治療に訪れたカップルが最重要視したのは、宗教的に承認された処置であるかどうかという点だった。

イスラム教はスンニ派とシーア派の二大宗派に分かれている。スンニ派がムスリムの80-90%と多数派を占める。シーア派はイランを中心に、イラク、レバノン、バーレーン、シリア、サウジアラビア、アフガニスタン、パキスタンに居住する。シーア派とスンニ派は、ARTに関して異なる見解を持つ。シーア派は、限定された状況下での代理出産や卵子提供を認めている。対するスンニ派は、第三者が関わる生殖補助医療を一切認めない。同じイスラム教でも、宗派によって規則が違うのである。多くのムスリムカップルにとって、宗教的に正しい方法でARTを受けることが大変重要であるということが、調査でわかった。

イランには、公立、私立併せて不妊治療施設が70以上ある。その一つIsfahan Fertility and Infertility Centerを訪れた渡航患者は、94%がシーア派であった。国の内訳は、イラク人64.2%、アフガニスタン人17.9%、パキスタン人7.5%で、全体の82.1%が陸路での入国だった。

渡航先の選択に関しては、「アクセス条件」「価格」「観光資源」「自国の専門医の不足」が影響したと答えたカップルより、「宗教的に正しいやり方でARTを受けられることが重要である」という項目に同意したカップルの比率が断然高かった。

不妊カップルの信仰が尊重されるような環境を作り上げることで、生殖ツーリズムの可能性は広がっていく。逆にどんなに生殖技術が発展しても、道徳的、法的、宗教的、倫理的問題を総合的に考慮しなければ、技術のグローバリゼーションは起きないだろう。

Decisive factors in medical tourism destination choice: A case study of Isfahan, Iran and fertility treatments
by Farhad Moghimehfara, Mohammad Hossein Nasr-Esfahani
by technology0405 | 2011-05-27 13:47 | Countries | Comments(0)

イランの胚提供

イランはイスラム諸国の中で、ARTの使用に関して最もリベラルであると言われる。婚姻関係にある不妊カップルに限り、第三者による胚提供を受けることができる。2003年に議会で成立したAct of Embryo Donation to Infertile Spousesでは、胚提供を合法とすることが明記された。

『Act of Embryo Donation to Infertile Spouses』
・胚提供を希望できるのは、イラン国籍を持ち、不治の病や中毒症のない判断能力のある不妊夫婦
・裁判所が親としての適性を判断する
・提供胚は、正式な婚姻関係にある健康な夫婦の受精卵。胚凍結も可。
・提供は無償で、匿名にて行われる
・ムスリム夫婦にはムスリムドナーの胚が提供されるようにする

精子提供、卵子提供に関しては記述がなく、正式には認められていない。特に精子提供に関しては、男系重視のイスラム社会では姦通罪に相当するとして反対派が多い。しかし、イランカップルの10-15%が不妊とされる今日、ARTはイランで盛況であり、イランの宗教的リーダーは生殖テクノロジーに寛容で、第三者が関わる生殖補助医療にも柔軟な対応を見せている。今後ファトワで認められる可能性は十分に残されている。

イスラム社会での「親族」とは、生まれながらの家族、婚姻により生じた関係、同じ母乳を飲んだ人間の3種類を指す。他人の子を妻の母乳で育てた場合は養父母となるが、基本的に孤児を養子にすること自体禁じられている。こうしたイスラムの伝統的な親族関係、婚姻関係を、生殖補助医療が崩しつつあるのは確かである。

Ethical and Religious Aspects of Gamete and Embryo Donation and Legislation in Iran
by Bagher Larijani , Farzaneh Zahedi
Embryo donation to Infertile Spouses Actの原文はTable1
by technology0405 | 2011-05-17 15:32 | Countries | Comments(0)
各国のARTに関する資料や記事を集めています (※ このブログに書かれている情報の信ぴょう性は各自でご判断ください)