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国連へ提出された代理出産調査報告書/University of Chicago Law School

Human Rights Implications of Global Surrogacy

2018-19年にかけて、シカゴ大学ロースクールのInternational Human Rights Clinicによって調査が実施され、国連人権高等弁務官事務所(U.N. Office of the High Commissioner for Human Rights)の人権とグローバル代理出産についての調査研究(work on human rights and global surrogacy)への報告書として提出された。

著者: Alexa Rollins, Kelly Geddes, Marcela Barba, Marie Umbach, Claudia Flores, Nino Guruli, Elizabeth Lindberg.

カンボジアのケースが取り上げられ、国際的代理出産をどのように規制していくことが望ましいかが論じられている。

結論部では、代理出産、および、規制格差の調整弁としての国際的な代理出産を認めた上で、国際的な代理出産を監視・コントロール、仲介できるような国際的な機構の設立を提案するなど、かなり代理出産に好意的(pro-surrogacy)な内容になっているのが特徴である。


カンボジアでは、2016年10月25日、健康省によって全ての代理出産が禁止された。そして、2016年10月オーストラリア人看護師が代理出産を違法に斡旋していたとして逮捕される。さらに、2018年6月、中国人1名と4人のカンボジア人が代理出産斡旋と人身売買の容疑で逮捕される。このエージェントのもとで代理母となっていた32人のカンボジア人女性も身柄を確保された。さらに、2018年11月にも新たに11人の妊娠した代理母らが身柄を拘束された。
これらの女性たちは、保釈の条件として、代理出産で産んだ子供を自分の手元に置いて育てることを課された。そして、1ヶ月おきに公安に対し、子供の養育状況の報告が義務付けられた(子供が18歳になるまで)。最終的に計43名の代理母が、子供を育てることを条件に釈放された。

一方、政府当局によれば、代理母が産んだ子への親権を主張する依頼者は非常にまれで、3-4組にすぎなかった。

身柄を確保された代理母たちは、出産後にまとまった金額を受け取る予定であったために、妊娠中に逮捕された女性たちはほとんど報酬らしい報酬をもらっていなかったケースも多い。最初に約束された金額の満額を受け取った代理母はいなかった。例えば、代理母Aは着床成功で500ドル、代理母Cは妊娠8ヶ月目で3000ドル、代理母Kは妊娠4ヶ月で1100ドルを受け取っただけであった。

代理母たちはコミュニティから批判と哀れみの双方を受けた。というのは、もともとお金に困っていたのに、代理出産によって子供を余計に育てなければならなくなり、さらなる困難に直面したからである。また、別の近隣住民は、女性が、道徳的によからぬ行為によって妊娠したと思い込んでいた。また、夫からは、新たに子供を育てなければならなくなった状況について文句を言われていた。しかし、インタビューを行なった3人の代理母たちは全員が子供たちに愛着を持っていると答えた。

現在、カンボジア政府では、国内で利他的代理出産を認める方針で法案を作成中だが、Ministry of Women's Affairesは、利他的代理出産であっても女性の搾取の懸念があるとしており、法律案はまとまっていない。現在、省庁間のWrorking Groupが、代理出産について調査を行なっている。

カンボジアでの調査等を踏まえた本調査報告書のおよその見解は以下の通りとなっている。

まず、代理出産が搾取的であるとされているが、国民所得が低い国々では、貧しい女性たちはもっと過酷な労働に従事していることがほとんどである。それらは、差別的な社会構造やまずしいインフラなどに起因している。何が代理出産に特異なリスクなのかを明らかにする必要がある。妊娠出産に起因するリスクがあるが、代理出産を特別禁止にすべき理由にはならない。

また、禁止することによって、女性たちは海外にでて代理母になる選択肢を選ぶようになる。そうすることによって女性たちはもっと弱い立場に立たされることになる。一つの国で禁止したところで、より大きなレベルで見れば、禁止を徹底することはできないことになる。

インドでも法律が検討されているが、賄賂など法律が適正に機能していないような国々ではリスクが残る。カンボジア、ナイジェリア、ラオス、ケニア、グアテマラ、ロシア、ウクライナなど商業的代理出産が行われている地域でも同様である。

したがって、国際的な機構を設立し、代理出産の規制を補強することが望ましい。

この報告書ではカンボジアでの状況調査を踏まえ、下記のような提案がなされている。

・代理出産の恒久的な禁止は望ましくない。子供が欲しい人たちの権利を侵害していることになる。それは一時的なものであるべきである。むしろ適切に規制をして実施すべきである。
・仮に禁止下で実施された場合でも、子供の利益を十分に考慮し、国籍の付与や依頼者への引き渡しなどを可能にすべきである。
・代理出産に関して国際的な機構を設立することが、国際的な水準を満たし、代理母を搾取から守り、代理出産の需要を満たすための効果的な方法である。
・代理出産を国内に制約することは、国際的なメカニズムを構築する間に限定されるのならば、是認されるだろう。
・代理出産を国内に限定する国であっても、仮に外国人が行なった場合の子供の帰属について十分に考慮すべきである。子供にとって親がいなかったり、国籍不明になることは利益に反する。
・代理出産の需要が多い国で利他的代理出産の要件を課すことは、外国への押し出しを促進するだけである。自国で規制の負担は逃れても、他国に押し付けているだけである。
・利他的代理出産に限定しても、依頼者と代理母は、何らかの方法を考案して(creative agreements)対価を支払おうとするだろう。それによって、法的保護の可能性が低下する。
・利他的代理出産に限定するのは女性の労働に関する家父長制的な差別やステレオタイプに基づいている。
・代理出産は、相応の機関によって、それぞれの国と、国際的なレベルの双方で規制されるべきである。
・商業的なエージェントの活動は制約されることが望ましい。
・国際的な代理出産に関して、私的な利潤を追求するようなエージェントに代わり、国際的なメカニズムを構築すべきである。
・子供の知る権利を保障すべきである。
・同性カップルやシングルの依頼者に対する偏見は排すべきである。
・現在のところ、人身売買や臓器売買のような現象は、代理出産に関して考慮するのは現実的ではない。


早川眞一郎 2015「国際的な生殖補助医療と法-ハーグ国際私法会議のプロジェクトを中心に」
早川眞一郎 2020 「代理出産は子の売買か−児童の権利条約に関する国連特別報告書について」





Report of the Special Rapporteur on the sale and sexual exploitation of children, including child prostitution, child pornography and other child sexual abuse material A/HRC/43/40

Sale and sexual exploitation of children, including child prostitution, child pornography and other child sexual abuse material, A/74/162
















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# by technology0405 | 2020-10-15 10:13 | Materials

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