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香港の富豪の代理出産

2010年10月、香港の大企業Henderson Land Development Ltd.の社長Lee Shau-keeの息子であるPeter Lee氏に、代理出産で三つ子の男子が生まれたことが話題になった。香港では商業的な代理出産が禁止されており、賛否両論である。

報道によると、代理母はカリフォルニア州の女性。近年、多くの香港人がカリフォルニアの業者に代理出産を依頼している。カリフォルニアに基盤を置く業者Surrogacy Center Hong KongのHilary Neiman氏によると、法的トラブルはこれまで起こっていないと言う。顧客の40%が独身男性で、値段は代理母の経験によって20000-35000ドルになる。裕福層の多い香港で商業的代理出産が禁止されたことで、アメリカの業者はかえって市場を拡大したことになる。

カリフォルニア州アーバインに拠点を置く業者Surrogacy SourceのMichelle Davis氏によると、外国人客の3分の1が香港人であるという。また同州ビバリーヒルズ拠点のFertility MiraclesのKaren Roeb氏も、顧客の65%が外国人で、香港を含むアジア人が多く「法的トラブルは一度もない」と語る。不妊を専門に扱うロスの弁護士Lori Meyer氏は、香港の禁止が海外の契約に適用されるのかどうかは分からないという。

2000年に通過した『Human Reproductive Technology Ordinance』17条は次のようにうたっている。「香港でも他のいかなる場所でも、代理出産契約を交わすための話し合いに着手および参加することで、支払いを行なったり受け取ったりしてはならない。」

香港立法審議会の議員Cyd Ho氏は「これは、誰でも香港の法律を犯して大丈夫だというメッセージだ。商業的代理出産は臓器売買と同じ。これは商業取引であり、貧しい女性が取引を強要される可能性がある。」とLee氏への名指しを避けた上でインタービューに答えた。

香港の法律家ですら、この法に戸惑う者もいる。香港立法審議会のメンバーでRonny Tong弁護士は、法律の治外法権領域の部分に対し「ニュースで条例を読むまで気づかなかった。これが世界に知れたら笑いものになるだろう。」と批判した。

大富豪Lee氏の代理出産は、香港の儒教的な家父長制の象徴ともいえる。会社の後継ぎとしての男子、そして最も縁起が良いとされる三つ子、この理想的な条件を、独身のLee氏は生殖技術を使うことで可能にした。香港では、生殖技術によって、家父長的な価値観が再生産されているのかもしれない。

Maternal mystery in Hong Kong: Babies bring joy and questions
[Wall Street Journal DECEMBER 14, 2010.]

Lee Shau-kee triplet grandsons affirm traditional values
[CNN GO 29 October, 2010 ]

Provide a surrogate of some ethical issues arising Services
[China Daily 2011-01-07 ]

Church leaders step into HK surrogacy row
教会指導者が代理出産について発言
[Herald Malaysia Online. November 01, 2010]


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by technology0405 | 2011-01-25 15:12 | Countries | Comments(0)

ボディショッピング

ヒト組織の売買――ボディショッピング――は今や、人の誕生前から死後にまで及び、その市場はグローバル化の一途を辿っている。Donna Dickensonによる『BODY SHOPPING』は、身体が商品として扱われている状況を強く批判した本である。

世界規模のベビーマーケット
スペインには私立のIVFクリニックが165もあり、数も成功率もヨーロッパ随一である。高い成功率の秘密は卵子提供。他の患者の治療過程で出た余剰卵子を別の患者に回すのをやめ、もっと若い女性の卵子を使うことで、IVFの成功率を上げているのだ。スペインの大学には、女子学生をターゲットに有償の卵子提供(約1000ユーロ)を呼びかけるポスターが掲示されている。

アメリカの私立クリニックでも卵子の購入は盛んである。1991年に卵子の仲買業務を行う会社がロサンゼルスに設立されたのを皮切りに、同様の仲介業者が次々と現れた。2002年だけでもアメリカで卵子ドナーに支払われた額は3700万ドル以上。また、製薬会社の不妊治療薬の収入が130億ドル、IVFクリニックが10億ドルと、不妊治療は一大産業となっている。卵子一回の提供につき平均4500ドルから50000ドルと支払いには幅があり、「望ましい」遺伝子の卵子の値段は高い。若いヨーロッパ白人女性の健康な卵子には高い値段がつく。

2007年には「ヒト胚バンク」のサービスをAbraham Center of Life LLCがスタートさせた。高学歴の若い男女の胚を扱っている。依頼者のオーダーメイドで赤ん坊をつくるわけではなく、すでにある胚の中から選択するだけなのだから、優生思想には当たらないと会社は言う。
この選択の自由の理論は生命倫理学者の間でもみられる。テキサス大学オースティン校のJohn Robertson氏も、胚バンク批判について首をかしげる。「これまでにもすでに、人々は卵子ドナーと精子ドナーを別々に選んできた。その選択が組み合わさったからといって、倫理的問題が新たに生まれるわけではない。」
しかし、商品を選ぶように卵子や精子を選んで子供をつくることに問題はないのか。American Society for Reproductive Medicineの会長Steven Oryは次のように言う。「我々は大変な問題だと捉えています。これは本質的に胚を商品化しており、いうなれば、技術によってその胚をある特徴に仕立てているのです。」

Fertility Institutesでは、ゲイカップルのためのサービスを展開している。カップルは子供の性別を選ぶことができ、65%が男の子を望むという。アメリカ人だけでなく、イギリス、中国、カナダ、イタリア、ブラジル、南アフリカからの依頼者も多い。

アメリカの不妊センターの広告は、商品を扱う営利会社の広告とそっくりである。シカゴのAdvanced Fertility Centerでは、子供が生まれなかった場合の返金保証をうたっている。その結果、通常の国内クリニックの成功率が27%なのに対し、このクリニックでは患者とドナーに危険なほどレベルを上げたホルモン刺激が施されている。手頃な料金プランは、結果的にケアの質を下げることにつながっている。

「ボディショッピング」がアメリカでもスペインでも起こっているということは、これがグローバルな現象であるということだ。卵子を含めたヒトの体組織が世界中で商品化されている。こうしたグローバル化は売り手にも買い手にも当てはまる。アメリカの卵子市場は主に国内で始まったものだが、2003年までに、US Center for Egg Donationの約3分の1は海外からの客の注文が占めるようになった。
反対に、アメリカ人女性が南ヨーロッパや東ヨーロッパのクリニックを訪れる。スペインのクリニックに卵子を求めてくるのは、法律で卵子提供が禁止されているドイツやイタリア人だ。法律が比較的リベラルなイギリスのカップルも、2005年に卵子、精子の匿名提供が禁止されて以来、スペインの卵子を求めてやってくるようになった。
スペインの卵子も、スペイン人のものとは限らない。主に東ヨーロッパ諸国からくる移民女性も、重要なドナー供給源となっている。共産圏の鉄のカーテンが崩壊した今や、東ヨーロッパ女性はどこででも「自由に」卵子を売ることができるのである。特にキプロスやスペイン、南地中海諸国といった、東と西の中継国で行われている。

多くの卵子ドナーが無職や単純労働者である一方で、エンジニアや高等教育を受けた女性も卵子を売る。西側から見れば少ない金額でも、ロシアやウクライナでなら6か月間十分に暮らしていける。「(卵子を売る人たちは)献血と同じように考えている。」とツアーの代表者Tatjanaは言う。「ポーランドやリトアニア、ラトビア、エストニアのような東ヨーロッパから来た女性が、キャバレーで働き、売春し、卵子を売って、また国に帰るのよ。」

血液は体内で再補充されることが分かっているが、卵子は、生まれた時から一生の内に作られる数が決まっている。卵子提供によって、ドナーの受胎能力に及ぼす長期的な影響と、早期閉経が予想される。卵子売買は比較的新しい現象で、しかもドナーは主に20代であることから、早期閉経などの危険性について明らかになるまでには少なくとも後15年はかかる。

強いホルモン刺激が女性にとって致命的になりうることもわかっている。一回に70個の卵子を取り出してドナーが死にかけたケースも報告されている。クリニックでは一回で多くの卵子を採取することが奨励され、卵子の数が多いとドナーに支払われる報酬も高くなる。また、キプロスでは、ドナーの報酬は客が支払う金額の通常15分の1である。

こうしてみると、ボディショッピングは完全にモラルに反した、搾取的なシステムだと思われる。しかし、人間の体組織が商品として扱われる現状を問題視しない識者は多い。いや実際には、多くがこうしたボディショッピングを前向きに捉えている。

搾取・正義・選択の自由
ヒトの体組織を商品化する現象のグローバル化に対して、2パターンの意見がある。これは資本主義の帰結であり、取り締まることはできないという意見。もう一つは、取り締まる必要はなく、むしろウィンウィンの関係を積極的に評価しようとする意見である。

驚くべきことに、生命倫理学の世界では後者の意見が主流である。世界の不正に敏感であるべきはずの後進国の生命倫理学者の中にも、こうした意見の者がいる。あるイラン人の識者は、国内外でイラン人が腎臓を売ることが出来ないようにするのは、新たな植民地的搾取であると言う。ボディショッピングを批判する人間は減る一方で、市場の悪用がますますひどくなっている。

エジンバラ大学の法学部教授Cecile Fabre氏は、公正さという点で、物的資源を欠いている人には物的支援が必要なのと同様に、臓器を必要とする人には臓器が提供されなければならないと考える。しかし、体組織は他の物と同等に扱えるだろうか。実際、法律は身体にいかなる財産的性質も認めていない。身体は我々そのものだからである。つまり、Fabre氏の議論はスタートから問題がある。所有していないものを分かち合うことはできない。

しかしFabre氏は、クリニックやブローカーが利を得ている現状を批判した上で、レシピエントには臓器を買う権利が、ドナーには自分の臓器で利益を得る権利があると主張する。ヨーロッパ内でも「移植ツーリズム」は存在し、EU加盟国でない旧ソビエト諸国が食い物にされている。外国に臓器を買いに行ってはならないという法律があるのは、15か国中ドイツだけである。

マルクスは、物の使用価値を認めることと、それに交換価値を与えることを区別して考えた。人間それ自体に価値があり、それが商品になりえないものならば、人間の一部も同様ではないのか。たとえどんなに高い値段がつけられようと、あるいは売り手が進んで選択したことであっても、体組織の売買は搾取にあたるのではないか。現代のバイオテクノロジーは、我々に本来備わっていると考えられてきたものと、体の「外に」あるものとの区別を見えなくした。この「外」という意識が問題を引き起こしている。使用価値、あるいは交換価値があるとして対象化できるものが何で、出来ないものは何なのか。

ベビービジネスやボディショッピングは他の普通の市場と異なり、その値段はほとんどきりがなく、買い手は払えるだけ払う。その金の多くを仲介業者が得て、ドナーに入る金額はわずかである。その意味で、買い手も売り手と同様に搾取されているという意見もある。しかし、ヒトの体組織が金銭的価値の付けられる対象物でないならば、どれだけ見返りがあり、誰がその見返りを受けるのかが問題なのではなく、体組織に金を払うことそのものに不正が存在するといえる。

政府の規制では問題は解決しない。時には権威ある施設においてですら、卵子や体組織の盗難がかなり起きている。例えばカリフォルニア大学アーバイン校の不妊施設は、1980年代以降の卵子と胚の盗難で訴えられている。卵管結紮のため1987年に病院を訪ねた26歳の女性は、その簡単な手術まで18か月も待たされ、その間に7個の卵子が他の女性にわたり、双子が生まれていたことが後に判った。他の28組のカップルが病院を訴えた2002年まで、彼女は知らないままだった。

体組織の売買に賛成する人々は、ボディショッピングで起こっている悪弊から距離をとりたがる。その悪弊があまりにもひどいものだからである。今や我々は誰もが、この民主主義の皮肉な影響の下にさらされている。

Body Shopping: The Economy Fuelled by Flesh and Blood

Donna Dickenson / Oneworld Pubns Ltd




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by technology0405 | 2011-01-21 14:03 | Book | Comments(0)

Kalindi Voraは論文「Medicine, Markets and the Pregnant Body: Indian Commercial Surrogacy and Reproductive Labor in a Transnational Frame」で、いかにインドの商業的代理出産が西洋の医学的概念を踏襲しているかを明らかにした。


Manushi fertility clinicでは、依頼者が異性カップルであることと、依頼女性自身が妊娠・出産できないことを代理出産の条件に挙げている。つまり「医学上必要な」ケースしか認められない。依頼者夫婦の多くは、代理母に対し個人的に贈り物や出産祝い金などをプレゼントし、代理母に感謝している。インタビューで、依頼者は、代理母個人にではなく「インド」につながりを感じており、いつか子供とインドを訪れたいと語る一方、代理母やクリニックを訪れたいわけではなかった。

このクリニックの代理母になる女性は、子宮はレンタル可能な空きスペースであること、他人にただそのスペースを貸すだけで、遺伝的に子供は彼女のものではないこと、そして何よりも重要なことは、生まれた子供を依頼者に引渡すことであると説明される。しかし、こうした医学的言説を理解していても、出産を終えた代理母たちは子供がいなくなった寂しさを感じており、子供の家族と連絡を取り続けたいと語った。

Emily Martinは、医学的な目がデカルト心身二元論を強化し、その結果、産科医は「機械の整備士」に、妊婦は「労働者」になってしまったと説明する。女性の体から子宮を切り離し、子宮を余剰の臓器と見做すとともに、遺伝上の親子関係を基本とし、依頼者と胎児のつながりの方を重視する。こうした医学的言説は西洋的概念からもたらされたものである。生殖体と配偶子をそれまでの社会的コンテキストから切り離す医学的言説によって、商業的代理出産は賃金労働として、またはサービスとしてみなされるようになった。

Manushi fertility clinicでのインタビュー調査の結果、代理出産の関係者は、この医学的言説を取り入れると同時に、利他的言説を重視していることがわかった。代理母は子供のいない夫婦のための崇高な代理人として、依頼者は貧しい代理母のスポンサーとして、クリニックは代理母と依頼者の両方を支援するソーシャルワークの担い手としての役割を強調する。インドの商業的代理出産には、商業的言説と利他的言説が2重に存在するのである。代理母はそろって自分の行為を崇高なものと強調するが、自分の娘が代理母になることを望むかという質問の答えはノーであり、代理出産に苦痛が伴うことを物語っている。

こうした利他的言説は、代理母をリクルートする際に、生殖技術として代理出産を説明するクリニックと女性の理解とのギャップを埋める働きをする可能性がある。IVFとは何か、性交渉なしに子供がどこから来るのか、「全く似ていない」子供を出産する事実といった遺伝上の定義、または経済的な「女性の労働」としての経済的な枠組みでは測れない価値を、女性が代理出産に見出すことになる。

しかし、代理母の身体を西洋人を再生産するための空きスペースとみなすのは、植民地的認識である。こうした現代の人種的、ジェンダー的差別を含む政治経済関係が、バイオポリティカルな要請の下に残っている。グローバルマーケットの中で再植民地化が起こり、「clinical labor(代理母や卵子提供者など)」の外注が進んでいる。

Manushi clinicの代理母たちはなじみのない西洋的な医学の概念にさらされている。そして、通常の妊娠と代理出産を区別するために自分の身体と妊娠を医学的に見ること、そして、自分の生活を物質的に良くする手段として代理出産を捉えることを、クリニックのスタッフに勧められる。しかし代理母たちは、神聖な側面が物質的報酬を上回るのだと主張する。Manushi clinicの代理出産は、ネオリベラルの唱える労働形態としての生殖という原則の研究だけでなく、生殖技術の交差する点や、関係者の世界観と自己理解を研究する貴重なレンズであることが分かる。


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by technology0405 | 2011-01-18 15:57 | Countries | Comments(0)

第54回インド産科婦人科学会の一部として開かれた「代理出産VS養子」の会議に出席した産婦人科医たちが、インドが代理出産のハブ国になりつつある傾向に警告を発し、子供を欲しいカップルは、9か月間子宮をレンタルして既製品の赤ん坊を手にするより、養子を考えるべきだと主張した。

専門家によると、インドでは通常の出産ですら妊婦の死亡率は40人に1人になるという。「子宮を貸すということは、自分の健康も貸すということ。薬が致命的になることもあるし、後でがんに発展する可能性もある。金が欲しいばかりに、貧しい女性は医師による適切なカウンセリングも受けず、医師は同意書を正当に取り扱っていない。」とハイデラーバード市内に2つのIVFセンターを経営するSuma Kantipudi医師は発言した。

しかし、外国人カップルが「自分の」子供を持つ手助けをし、インドを代理出産国として有名にしたグジャラート州アナンドのNayna Patel医師は、貧しい家庭にとって大きな財政的助けだとして代理出産を擁護した。代理出産はカップルに「血のつながった子供」を与える点で、養子とは論理的に比較できないとPatel医師は言う。また、代理出産に関する健康被害はそれほど多くないことを指摘。これに対し養子派の医師は、多くのストリートチルドレンを抱えるインドで莫大な金額を代理出産に費やすのは不公平だと主張した。

子供に障害や神経疾患があると中絶になることを指摘する医師たちもいた。生まれた後に障害が判明した場合は、遺伝的つながりのある親が子供の受け取りを拒否する可能性が高い。中絶であっても、代理母がつらい経験をすることに変わりはない。

Assisted Reproductive Technology (regulation) Bill 2010のガイドラインでは、代理母になる資格があるのは35歳以下で依頼者と血縁関係のない女性となっている。しかし、義理の母が代理母になった例もあり、ガイドラインはきちんと守られていないとベテランの産婦人科医P. Balamba医師は言う。

インドのストリートチルドレンは数十万人と見積もられており、産婦人科医たちは、子供のいないカップルが彼らを養子にすれば、路上の子供の数が減るだろうと論じた。「長年産婦人科医をやってきた人間として、私は養子に賛成する。この国の養子縁組は手続きが厄介だ。孤児を養子にすれば、彼らに家族と保護を与えられる。」とP.V.Saraschandrika医師は述べた。

'Couples should go for adoptions'
[THE TIMES OF INDIA Jan 9, 2011]


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by technology0405 | 2011-01-18 11:06 | Countries | Comments(0)

Arjun Appaduraiはグローバリゼーションを人(ethnoscapes)、技術(technoscapes)、金(financescapes)、イメージ(mediascapes)、考え(ideoscapes)の5つのものの動きだと定義したが、生殖ツーリズムではこれだけに収まらず、ヒトの体部位(bioscapes)なども動く。Marcia Inhornは生殖のグローバリゼーションにおいて世界を行き来するものの総称をreproscapeと名付け、これまで調査されてこなかった中東の生殖ツーリズムを、中東のreproscapeの移動という視点から捉えている。生殖ツーリズムは、休暇中に観光を楽しみながら不妊治療を受け、子供をつくることだというのが一般的な考えである。また、施される技術に男女の性差や、階層差が大きいことが問題視されている。

アラブ首長国連邦(UAE)は中東におけるグローバリゼーションのハブ地帯である。2007年時点で2つの公立病院を含む11のIVFクリニックが経営されている。スタッフも患者も国籍は多岐にわたり、UAEで最大のIVFクリニックConceive, The Gynaecology and Fertility CenterもUAE国民とUAE在住の外国人だけでなく、多くの生殖ツーリズムの患者にARTを提供している。Marcia Inhornは、2007年1月から半年間、このクリニックの患者125組の夫婦からなる219人にインタビュー調査を行った。

調査で明らかになったことは2つ。一つ目は「ツーリズム」という言葉の問題点。多くの夫婦は治療を受けるために「仕方なく」国外に出ており、娯楽性のないストレスの高い選択肢だと感じていた。二つ目は、生殖ツーリズムの要因は様々に絡み合っているということである。

ARTを求めてUAEに来た患者の挙げた理由である。
1.ドバイの高度な医療環境が魅力的だった
2.UAEのビザなら長期滞在が可能で、最低でも4-6週間かかるIVFの治療が一回の旅行で済む
3.中東周辺にはIVFクリニックがない国もあり、自国からアクセスが一番良いのがUAEだった
4.ヨーロッパのARTには年齢や胚移植に厳しい制限があり、規制を避けるためにUAEに来た
5.イギリスのNHSによって何年も待たされたが順番が回ってこず、UAEに来た
6.口コミでUAEのクリニックのことを知った (a)地域の医師のネットワーク(b)ウェブサイト

逆にUAEから国外にARTを求める患者もいる。
1.不妊や体外受精はスティグマ化されているので、プライバシーが心配
2.UAEの公立病院より安いサービスを求めて。特にUAEから医療補助金の出ない外国人労働者
3.UAEは中東でART規制のある数少ない国の一つであり、その規制を回避するため
 ――精子提供、卵子提供、胚提供、代理出産、減数手術、胚の凍結保存が禁止されている
4.UAE在住の外国人が、母国の医療が一番だと信じる愛国心から、母国で治療を受ける
5.様々な国のIVF費用を調べた上で、海外の治療国を選んだ
7.ウェブ上で病院を探す裕福層は、インドやタイやシンガポールなどパッケージ化された不妊ツアーを信頼できると感じる
8.子供をanchor baby(家族の在留許可を得るための子供)にするためカナダやアメリカで出産

UAEを出入りする不妊患者について言えることは
1.「部分的な治療」をUAEで受けることになる。卵子提供を受けるにはレバノンやキプロスへ。減数手術を受けるにはロンドンやインドへ。診断的腹腔鏡検査を安く抑えるにはインドへ行く。

2.海外で胚を保存している不妊カップルは、子供の国籍を自由にできる可能性がある。胚の凍結保存と業者を2010年にUAEが禁止したことにより、今後さらにUAE国民が胚の凍結保存をしに海外に行くだろう。

3.IVF治療に失敗した不妊カップルが、次々に医師を求めてUAE国内、近隣地域、また世界中に動くことで、中東のreproscope(生殖関連の物や人、技術、考え方など)もまた世界を行き来することになる。

インタビュー患者の中には、国外に出ない理由を語る人もいる。
1.信頼できる医師と良い関係を保ちたい。合併症が命取りになる妊娠中は、緊急事態に備えて、かかりつけの医師の近くにいるほうがよい。
2.ビザやホテル、航空機の手配、限られた時間での治療、コミュニケーションの問題などを考えると、海外での治療は実際的な手段とはいえない。
3.中流階級の不妊カップルにとって仕事を長期間休むことは難しく、また、不妊治療のことを雇用主に言いたくない。
4.女性が海外に治療を受けに行くことで、夫婦が長期間ばらばらになる可能性がある。

西欧メディアでは女性に対するアラブ男性の暴力やファナティシズム、虐待ばかりが言説化されるが、今回の調査では、中東においても愛や献身、子供を強く望む気持ちを持つ不妊カップルが一般的であった。中東、アジア、アフリカ、ヨーロッパをつなぐ位置にあるUAEでは、今後ますますメディカルツーリズムが発展していくだろう。

Globalization and Reproductive tourism in the United Arab Emirates
by Marcia C. Inhorn


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by technology0405 | 2011-01-14 13:50 | Countries | Comments(0)

・なぜタイでメディカルツーリズムがさかんなのか。
<経緯>1997年のアジア金融危機の引き金になったバーツ暴落の際に、国内の医療インフラへの投資により経済復興を遂げた経緯があり、外貨獲得のため政府がメディカルツーリズムをバックアップした。

<歴史>タイはメディカルツーリズム発祥の国と言われている。1997年のアジア金融危機の後、政府は、タイの通貨安を逆手にとり、美容外科、形成外科を中心に、最先端医療を欧米に売り込んだ。また、2001年の米国同時多発テロ後には、アメリカで治療を受けることが多かった中東の富裕層が、反イスラム感情のないタイを訪れ治療を受けるようになり、タイのメディカルツーリズム産業は加速した。(バムルンラード病院では01年から07年でアラブ人が10倍の10万人になっている)

<特徴>海外でも保険がききにくく高額になりがちな、美容外科、形成外科が盛ん。タイの性転換手術は特に有名で、世界中から患者が集まる。メディカルツーリズムを国が後押ししているため、医師も医療施設も欧米並みで、治療費は安価。費用対効果ではアジア随一といえる。医師は海外で最先端医療のトレーニングを受けている者が多く、英語がOK。観光資源も豊富。

・どのくらいの経済効果?
タイの医療産業はGDPを上回る年率15~20%で成長。2008年でみると、アラブや欧米など約190か国から年間120万人が来ており、医療ツーリズム収入は1,820億円、タイ観光収入の一割相当であった。タイのメディカルツーリズムによる経済波及効果は6,000億円に達するとみられる。

・タイの医療制度
2002年から実施された30 バーツ制度により、国民皆医療サービスが保健省の主導のもと創設されたが、それでもなお、タイの人々がアクセスできる医療サービスの内容は、都市部と農村部、そしてまた、経済的な階層によって大きな格差があるのが、タイ医療制度の特徴である。

外国人向けの病院では技術、付加サービスともに非常に充実し、世界最高水準の医療が提供される。国際病院評価機構(JCI)から国際病院として認証評価を受けた病院は、タイに10カ所以上ある(日本には1カ所しかない)。バムルンラード病院とバンコク国際病院がその代表。

・メディカル・ツーリズム関係の施策
タクシン政権以来、タイ政府はメディカル・ツーリズムを推進する政策を施行してきた。

2006年9月には世界最大・最豪華と言われたハブ空港、スワンナプーム国際空港を全面開港させ、2010年にタイ国際航空(TG)は格安航空会社(LCC)の設立を決定。アクセスの面を着々と進めると共に、ツーリズム関連の法律も見直す予定。2009年には、メディカルツーリストの査証料を免除する施策を発表した。

Abhisit Vejjajiva首相は、海外での遊説でもタイのメディカルツーリズムの宣伝をしている。2009年にはTourism Authrity of ThailandがHealth Travel Mediaと協力して『Patients Beyond Borders』を発行。タイのメディカルツーリズムのガイド本で、留意点やおすすめの病院、観光などを網羅したものとなっている。国民の労働力の7%が観光産業に携わるタイでは、一般の観光より単価の高いメディカルツーリズムの推進は、国家をあげてのプロジェクトなのである。

タイのメディカルトラベルの記事を読むと、タイがいかにメディカル・ツーリズムに期待を寄せているかが見て取れる。『Patient Beyond Borders』という244ページに及ぶガイドブックや『Mediica Tourism』といった月刊誌が発行され、Vejjajiva大統領は各国でタイのツーリズムの利点を宣伝している。

Board of Investment of Thailand (BOI)によると、政府はツーリズム産業を後押しするため、ツーリズム関連の法律を見直し、ビザの料金や空港のチャージ、国立公園の入園料の引き下げや旅行保険の整備など、直接的な政策を迅速に進めていくという。

New projects highlight Thailand’s reputation as a prime medical travel destination

Health Travel Industry Research Society of Thailand launches, THAILAND: Health Travel Industry Research Society Thailand

THAILAND: Thailand seeks to restore medical tourism

Patients Beyond Borders: Thailand Edition launched

THAILAND: Thailand to boost medical tourism in 2010


Patients Beyond Borders: Thailand Edition: Everybody's Guide to Affordable, World-Class Medical Tour

Josef Woodman / Healthy Travel Media




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by technology0405 | 2011-01-11 13:00 | Countries | Comments(0)

キプロス

家政婦として働くつもりでキプロス共和国に連れてこられたフィリピン女性が、代理母になることを強要され、胚移植したが妊娠せず、その結果、約束の金も払ってもらえなかったと訴える出来事があった。

警察によると、この31歳のフィリピン女性は、キプロス在住の姉の勧めにより、4年間家政婦として働く契約を仲介業者と交わし、キプロスの夫婦の家に住み込むこととなった。しかしその夫婦のために代理出産するよう説得され、妊娠するしないに関わらず5000ドル支払うと約束された。

いったん夫婦の家で働き出すと、病院へ夫婦の付き添いで連れて行かれる他は、全く外出を許されなかったという。夫婦の胚がフィリピン女性に移植されたが着床せず、女性はフィリピンに送り返されることとなった。

この姉は以前から、フィリピンの女性を代理出産目的でキプロスへ連れて行っていた可能性があり、これ以上犠牲者が出ないように出来事を公にしたと女性は語っている。家政婦の仲介業者も、おそらく知っての上だという。

キプロス共和国は1974年以来南北に分断されており、トルコ系住民とギリシャ系住民が、北と南に完全に別れて暮らしている。国際的には承認されていない北キプロス・トルコ共和国と、ギリシャ系の南キプロスは政治も議会を別にして行われ、首都ニコシアも分断されるという状況が続いている。

キプロスは、トルコを始めヨーロッパどこからでもアクセスがしやすいこと、治療費の安さ、ドナーの匿名性、法律の緩さなどが理由で不妊ツーリズムの人気目的地となっている。配偶子提供と胚提供は利益が絡まなければOKだが、代理出産に関しては、トルコ系の北では禁止、南では法律のない状態である。Cyprus National Bioethics Committee は2007年に生殖補助医療に関する意見を出し、代理出産に関する法案の検討を求めたが、未だに法律はできていない。

しかし、禁止されているはずの北キプロスのNorth Cyprus Fertility Clinicのウェブサイトには「代理出産」の項目があり、代理出産の前段階治療をキプロスで行なってアメリカで代理母に胚を移植するというプログラムが紹介されている。こうした抜け穴により、どの国でも代理出産は可能になる。

法的保護の欠落のせいで問題が起きた、という趣旨でこのフィリピン女性の記事は書かれている。確かにフィリピンにもキプロスにも法律はなく、問題である。だが、たとえ法律があっても、患者が海外に違法な治療を求めるのを取り締まることは大変難しいだろう。

Opinion of the Cyprus National Bioethics Committee on Medically Assisted Human Fertilization

Woman’s surrogacy ordeal highlights lack of legal protection
[Cyprus e-directory]

Struggling to Control Fertility Tourism
[Biopolitical Times April 17th, 2010]

North Cyprus Fertility Clinic

Cyprus clinic suspected of egg trafficking
[BioNews 20 September 2010]



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by technology0405 | 2011-01-07 16:09 | Countries | Comments(0)

ヒンドゥー教と生殖

ヒンドゥー教が他の主な宗教と異なるのは、その起源が一人のカリスマ的リーダーによってもたらされたものではなく、インド古来からの宗教が徐々にブレンドされて今の形になっている点である。キリスト教のように、権威として組織化された宗教ではない。世界に10億人いるといわれるヒンドゥー教徒のうち9億人がインド在住。他宗教やテクノロジーに対しても寛容で、そのためインドでは、都市部の人々も宗教的儀式とテクノロジーを共存させて生活している。

生殖の分野でも、生殖補助医療を積極的に取り入れ開発する一方で、シヴァ神やマハーデーヴィー神への祈祷もポピュラーである。ヒンドゥー教の子供の誕生に関する儀式には次のようなものがある。
①女性の妊娠を祈願する儀式 ②妊娠3か月の時に、子供が男子であることを祈願する儀式 ③子供の誕生時、縁起の良い星占いを祈願する儀式 ④子供の命名時、健康と長寿を授かるよう祈願する儀式 ⑤生後6か月に、1歳まで健康に生き延びるよう祈願する儀式 ⑥剃髪の儀式 ⑦子供をドゥヴィジャ(再生族、カーストの上位3)にする儀式 

生まれ変わり信仰とカルマ(宿命)を基本とするヒンドゥー教では、現世の行いが生まれ変わった後の幸福にまで影響すると考えられている。ダルマの教えでは、結婚して息子を生み育てることが人の義務とされているため、不妊や同性愛はスティグマ化され、子供(特に息子)を欲しいという欲望は非常に強い。前述の儀式からも分かるように、子供は神からの授かりものと考えられ、養育に非常に力を注ぐ。

しかし、あくまで子供=息子。インド社会で女性は独立した一個人とはみなされにくい。ヒンドゥーでは女性の3段階についてこう説明される。
①子供の時は、父に守られる。伝統的に、女子は正式な教育を受けなかった。女性の役割は家の中にある。
②結婚すると、夫に守られる。女性の純潔が重視され、若くで結婚し、結婚生活において外に出ることはなかった。夫に対する妻の役割は、召使、助言者、子供の母、愛人の4つ。
③未亡人になると、長男に守られる。親を世話する義務は息子にある。

男性優位のヒンドゥー社会では、娘は家にとってマイナスになると考えられてきた。インドでは昔から女の新生児の間引きは盛んに行われてきたが、現在は超音波装置の普及により出生前診断+中絶という性選択の方法が一般的。出生男女比は130:100と偏り、深刻な問題となっている。

生殖補助医療技術に関して、ヒンドゥー教はそれをインドの進歩と捉え、非常に好意的である。神話の中には、男神の精子を体内に注いで子供を生んだ女神の話や、胎児を別の女性の子宮に移して出産した話もあり、人工授精や代理出産に通じるところがあるとも考えられる。生殖補助医療技術があくまで不妊の夫婦を助けるために使われるのならOKという考え方を持つ人が多い。クローン技術も、生まれ変わり信仰と通じるのか、キリスト世界のような抵抗感はない。

こうしてヒンドゥー社会に受け入れられた生殖補助医療技術は、メディカルツーリズムの追い風を受けインドでますます発展している。この傾向は今後も続くと予想され、ICMR(Indian Council for Medical Research)によると2015年には年間60億ドル産業になると予想されている。

Faith and Fertility: Attitudes Towards Reproductive Practices in Different Religions from Ancient to Modern Times

Jessica Kingsley Pub




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by technology0405 | 2011-01-07 14:03 | Countries | Comments(0)

父親の違う双子

ポーランドで生まれた双子が、それぞれ別の男性を父親に持つことが分かった。世界で7例目の珍しいケースだという。排卵している女性が短時間に2人以上と性行為すると、父親が違う二卵性双生児の出産は可能。

1993年には、IVFクリニックが精子のピペットを使い回した結果、夫と別のドナーの精子が混ざり、体外受精で生まれた双子の父親が違うという出来事が起きた。生まれてきた二人の子供の肌の色が違うことで、病院のミスが発覚した。

自然に起こる確率は極めて低い現象だが、ARTを使えばこのようなことはいくらでも起こりうる。 ゲイカップルのための代理出産あっせん業者Center for Surrogate Parenting, Inc. (CSP)のウェブサイトを見ると、IVF & Egg Donation (IVF/ED) Programの選択肢として①ドナーの卵子を半分ずつ二人の精子で受精させ、2つの受精卵を代理母に移植 ②カップルのどちらかの精子を使う ③カップルの片方の女きょうだいの卵子と、もう一人の精子を使う(これで両方と遺伝的につながる)の3つがあげられ、選べるようになっている。①の方法なら、父親の違う双子が誕生する。ゲイカップルがIVFの際に二人の精子を混ぜることも、よく行われている。

インドで審議中の法案『THE ASSISTED REPRODUCTIVE TECHNOLOGIES (REGULATION) BILL - 2010』の23(4)には、「ARTクリニックは二人の人間の精子を使用前に混ぜてはいけない」とある。トラブルを防ぐ目的と思われるが、ゲイカップルにも適用されるのだろうか。

父親が違う双子誕生…ポーランドで世界7例目
[スポーツ報知 2010年12月30日(木)]

1993年のIVFの双子の記事
Half-Brothers in the Womb
[Damn Interesting 13 November 2006 ]

Center for Surrogate Parenting, Inc. (CSP) のウェブサイト


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by technology0405 | 2011-01-04 16:00 | Countries | Comments(0)
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