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カテゴリ:field work( 24 )


調査時期: 2018年10月

インドでは、現在、生殖補助医療[規制]法案2017 assisted reproductive technology[regulation]bill、および代理出産法案 Surrogacy Regulation Bill2016の審議が続けられている。

とりわけ、生殖補助医療[規制]法案は、2008年から審議が続けられており、足掛け10年にもわたっていることから、その内容は大きく変遷してきた。
最も新しい2017年度版では、たとえば、卵子提供に関して、提供するのは生涯に1回のみ、1度に採卵できるのは7個までと厳しく制限されている。
代理出産に関しては2016年、これまでとは一転して、大きな変更が加えられたことから、別の法案としてまとめられた。代理出産法案では、インド国内で行われる代理出産について、商業的代理出産の禁止と、利他的代理出産に限定して容認する案がまとめられている。
利他的代理出産とは、代理母を親族に限定するものであり、金銭対価が発生しないものである。

金銭対価を禁じる法案に対して、これまで商業的代理出産に携わっていた関係者からは「代理母のなり手がいなくなる」として、強い反対の声が上がっている。貧困層の女性を代理母として国内外の依頼者を相手にビジネスを展開してきた人々にとって、利他的動機だけで他人のために妊娠出産を請け負う人々がいるということは現実的ではないと見なされている。しかし、商業的代理出産に比べて実例ははるかに少ないが、親族の女性が代理母となる利他的代理出産のケースが皆無というわけではない。

インドは伝統的にカーストが支配する社会であったが、グローバル化や資本主義経済の浸透により、経済階層もまた重要な指標となってきている。高いカーストに属する人々が高い経済的な地位を達成しているケースが依然として大半だが、低カースト出身者であっても、公的な援助により高い教育を身につけ、成功した人々もいる。拝金主義が広がり、人々はカーストよりも、より金銭に目を向けるようになってきている。

そのような趨勢を自明視すれば、たとえ親族のためとはいえ、金銭的利得なしに代理母となることはまずありえないことに見える。しかし、商業的代理出産が好まれるのには、不妊はスティグマであり、依頼者がその事実を秘密にしたいとう動機がかなりの程度、含まれている。

子がいない夫婦はどんな社会にも存在していた。そして、どんな社会でも不妊はスティグマ視されてきた。インド社会では、女性が子を産むこと、とりわけ男児を産むことは吉祥とされ、反面、子を産まない女性は不吉で呪われた存在となる。どのような女性でも結婚したら子を産むことが必然であり、例外扱いはない。そして、子が産めないという事実が判明した途端、女性はコミュニティから尊敬を受けられなくなる。不妊であることを周囲に知られることは不名誉なことである。離婚という選択肢がとられる場合もあるが、保守的な家族観のもとでは離婚は忌避されるべきものである。家族内での養子という解決法もかつてはそれなりに実例があった。親族内から代理母を見つけるという発想は、そのような慣行から類推されたものだろう。

遺伝的につながりがない子供を養子にとるという選択肢もある。インドでは、全てのプロセスが46,000ルピーでできる。代理出産に比べればはるかに格安である。経済的に余力がない人々は、こうした手段を選ぶだろう。養子には比較的長い時間と煩瑣な書類手続きが必要になる。また、手続きをスムースに進めるため、関係者に金銭を配る必要がでてくる場合もある。

児童施設がリストアップされた政府のホームページには、子を遺棄したい親の書き込みが並んでいる。また、子をもらいたい親の書き込みもあるがそれより数は少ない。女児をもらって欲しいという書き込みが多い。典型的な書き込みは、すでに女児が複数生まれており、さらに新生児が女児だったというものであり、子育ての意欲を喪失しているというようなケースである。ダウリー(婚資)などの慣行も、完全には廃れていないため、女児の誕生は親にとって経済的損失につながる。これ以上、女児を育てる経済的余裕がないと切迫した心情が綴られている。教育レベルか高い人々のあいだでは、子との血縁の有無や子供の性別にはこだわらない傾向も見られるが、普通のインド人の心性はそうではない。

インドでは、近年、代理出産を公表した有名人などもいることから、代理出産が市民に受け入れられつつあり、ファッションのようになっていると指摘する論者もいる。また、生殖技術が男女産み分けにも利用されていると指摘する声もある。代理出産を公表した有名人も、男女産み分けの技術を利用したのではないかと疑いがかけられている。富裕な人々は、さまざまなリソースにアクセスすることができる。生殖技術や体外受精、そして産み分けに協力してくれる医師とのコネクションなどもその一つである。これまで超音波で男女の性別を判別するケースが大半だったが、精子の選別や受精卵の染色体を調べることで、あらかじめ女児を選別できれば、中絶や子の遺棄といった非人道的な手段ではなく、よりソフトな形での性別選択が可能になる。
体外受精クリニックは、こうした選択肢を提供することによって、富裕な人々をますます惹きつけている。外国人への代理出産の提供が禁止されたいまも、体外受精クリニックは盛況の状態を保っている。こうした社会資源の格差のよって生ずるのは、富裕な人々は男児を手に入れ、そうではない人々は男児が生まれるまで子を産み続け、不運なケースでは、女児が極めて多い家族構成となってしまう。婚資がないために女児を結婚させることができなければ、それは家族の恥となる。

代理出産規制法案2016については、すでに修正がなされている。内容は公開されていないが、批判の多かった利他的代理出産に関する規定が緩和されている可能性がある(現在、インド国内では商業的代理出産は行なわれている)。また、2018年9月に、同性愛行為が非犯罪化されるなど、LGBTに関する規定が緩和された。こうした動向が、今後の代理出産に関する規制内容に影響する可能性はあるだろう。


Acknowledgements
Dr. Pawan Kumar, Power. I&FC. INDUSTRIES, UD & PWD.
Dr. Sanjai Shama, Human Rights Law Network.
Dr. Samarjit Jana, Principal at Sonagachi Research and Training Institute.
Ms. Ruchika Garg, Hindustan Times.
Ms. Loraine, Delhi Council for Child Welfare "PLANA".
Dr. Vandana Bhatia, Southend Fertility and IVF.
Dr. Sonia Malik, Max Smart Super Speciality Hospital, Saket.
Dr. R.S. Sharma, Indian Council of Medical Research.
Ms. Rekka Pimple, Caretaker.







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by technology0405 | 2018-11-12 14:33 | field work | Comments(0)


かつて代理出産のハブであったインドでは、外国人が代理出産を依頼する際に取得するビザに関する規制が2012年に導入され、依頼者は激減、その後、2015年に外国人による代理出産は完全に禁止となった。
現在、インドでは、生殖補助医療や代理出産に関して依然として法規制は導入されておらず、インド在住のインド人であれば商業的代理出産を依頼することも可能である。

インドではマンジ事件(依頼した日本人カップルが離婚したことにより代理出産子が帰国困難となった)などを受けて外国人による代理出産の依頼を想定し、2008年から生殖補助医療法案が審議されているが、現在もなお成立をしていない。
その後、外国人は禁止となり、国内で行われる代理出産について、規制法が必要という判断で、2016年に代理出産法案(Surrogacy [Regulation] Bill)が下院で認可され、審議が継続されている。
この代理出産法案の内容は以下のようなものである。

・正式に婚姻している異性カップルのみ依頼できる
・代理母は25-35歳までの依頼者の親族(close relative)に限る
・依頼できるのは1回のみで、代理母になれるのも1回のみ
・インド在住のインド人のみが依頼できる (NRIなどインドにルーツを持つが外国人も禁止)
・代理母のための保険を設ける
・代理出産委員会を設立
・代理出産の記録を25年間保管

もっとも大きな変化は、外国人の流入を阻止することで過度のビジネス化を抑制するだけでなく、国内でも商業的代理出産を禁止し、利他的代理出産(altruistic surrogacy)に限定するとしている点である。利他的代理出産では、代理母は依頼者の親族に限定されている。

親族の範囲をどこまでとするかについて、詳細は決定されていないが、この規定により、代理出産の実施数がかなりの程度制約されることは間違いないだろう。当然、代理出産によって経済的利益を得てきたセクターからは、大きな反発がある。

親族に限定されれば、代理母を見つけられない依頼者もいるし、またソースが親族に限定されることによって、弱い立場の親族の女性へのプレッシャーが生じる可能性がある。例えば、夫側の姉妹にそのようなプレッシャーがもっとも集中する可能性がある。
一方、インドでは、特定の宗教、食生活、生活形態が似通った階級やカーストを希望する依頼者が少なくないであろうことが予想される。そうだとすれば、親族に代理母を依頼することはメリットになるはずである。互いによく知っている関係であり、実際にどのような生活をしているかが予想できる。
これらは、親族に代理母を依頼することの潜在的なメリットではあるが、実際には、ディメリットの方が上回っているという。
インドでは不妊に対するスティグマは非常に強く、代理母が必要であることや、代理出産を依頼することは、親族にすら秘密にしたい事柄である。
このことを考慮すれば、親族に代理母を依頼する人は非常に少ないのではないかという見通しが立つ。
実際、代理出産ツーリズムで有名なアナンドのクリニックの医師によれば、これまでサポートした1,000件中、利他的代理出産のケースは25件のみであったという。この数字に倣えば、代理出産法が施行されれば、国内での利他的代理出産の実施数は非常に限られることが見通しとして得られる。
このため、利害関係者からは利他的代理出産の評判は悪い。

とはいえ、インドの富裕層にとっては、影響はより小さい。彼らは、海外で商業的代理出産を依頼するという選択肢がある。したがって、国内での代理出産の可能性が狭まったところで、選択肢がなくなるわけではない。だが、こうした事態は、代理出産法では想定されていない。法施行後、インド人依頼者が海外代理出産で得た子どもの市民権の問題が生じる可能性がある。

一方、ミドルクラスのインド人にとっては、国内で商業業的代理出産が禁止されれば、親族に協力者を見つけられない限り代理出産が依頼できなくなる可能性が出てくる。都市部では核家族が一般化しており、親族といえども互いの接点や利害関係が少なくなってきている。このため親族に代理母になることを承諾してもらえる可能性はより低くなっていきているのである。

つまり、親族を代理母とする利他的代理出産は、拡大家族などの旧式な家族制度をモデルとして想定しているといえる。
その一つの証拠に、正式に結婚している異性カップルが遺伝的つながりがある子を得る手段として想定されている。つまり、シングルや同性カップルなど、非伝統的な家族形態は全く考慮されていない。こうしたことから、代理出産法案は、家父長制的な社会モデルに依拠しているという批判もある。

もちろん、養子という選択肢もある。インドでは、家庭での養育を必要とする子どもは多いが、養子の選択肢をより利用しやすいものにするためには、規制緩和が必要になってくる。養子をもらうためには、日本と同様に、養親に課される厳しい条件、そして複雑で長いプロセスを必要とするからである。利他的代理出産法案に関する議論では、代理出産を推進するより、養子が選択肢とされるべきだという議論もなされている。

代理出産法が審議される中、現在も、インド国内では法律がないため、代理出産に関して何ら制約がなく、したがって商業的代理出産も依然として行なわれている。

かつて依頼者の多くが外国人であった時の代理母への対価は、30万、40万ルピーなどであったが、現在依頼者はインド人に限られており、20万ルピーくらいにまで報酬が下がっているとの情報もある。このように、代理母になる貧しい女性や家族から見て、得られる対価としては、より魅力が少ないものになってきている。
つまり、こうした、貧しい女性に十分な対価を支払うことが必要であるとの観点から、インドでは商業的出産を支持する声も少なくない。
つまり、代理出産は貧しい女性の搾取になりうるとの批判は挙がっていても、それは決して代理母たち自身の声を代弁したものではない。
彼女たちが欲しているのは十分な対価であり、十分な対価さえもらえれば、「誰も何も文句はいわないだろう」(新聞記者)とはフェミニストを含めて多くの人々が理解している現状である。
つまり、利他的代理出産法案は、代理母となるインドの貧しい家族からも支持される内容にはなっていない。

さらに、親族間の利他的代理出産だといっても、何らかの対価が支払われるのは必然との見方もある。人間関係において、見返りのない一方的な犠牲というのは想像しづらい。金銭でなくとも、貴金属や家など、便宜の提供がなされることが想定される。事実上、代理出産の返礼として、物資のやりとりがなされているなら、商業的代理出産を禁止している意味はあまりないことになる。

現在、外国人がインドに入国して代理出産を依頼できなくなったため、別の形態のビジネスが水面下では進行している。
インド人代理母を海外に派遣し、そこで受精卵の移植を行う方法である。代理母は一時帰国し、出産時は再び海外に渡航する。
複雑なプロセスとなり、海外で移植を受けたり出産したりするインド人代理母のリスクは以前よりももっと高くなっている。
このため、越境する代理母への報酬も高騰している。
一方、越境に際してのビザトラブル、生まれた子どもの国籍やビザ取得に何らかの支障をきたすリスクもある。
このような海外との密な連携をともなう複雑なプロセスをともなう代理出産が可能になっているのは、「これまで蓄積されたノウハウや信用があるから」とケアテーカーは述べる。

生殖補助医療法案にしろ、代理出産法案にしろ、政治や議会の動向に左右されるものなので、一体いつ施行されることになるのかは「全くわからない」(関係者)という。外国人が入ってくれば、過度のビジネス化を招くなど懸念が浮上するが、外国人を禁止したいま、国内の代理出産をめくる状況は比較的穏やかに見える。
利他的代理出産がベターだという政府の理念を示す十分であり、大きな問題が生じなければこのまま曖昧な状況のままおいておくのも選択肢の一つだと政府は捉えているのかもしれない。いずれにしても、生殖補助医療関連法としての代理出産法案は、外国人による商業的代理出産の波が途絶えた今は、優先課題とはみなされなくなりつつあり、実際に施行に至るまではもっと長い道のりをたどることになるのかもしれない。


acknowledgements:
Dr. Nitika Khaitan, Research Fellow of Vidhi Center for Legal Policy
Dr. Nanda Bijayalaxmi, Miranda House, University of Delhi
Dr. R.S. Sharma, Indian Council of Medical Research
Dr. K.D. Nayar, Akanksha IVF Center
Mr. Anurag Chawla, Surrogacy Laws India
Dr. Manashi Mishra, Center for Social Research
Mr. Sanjai Sharma, Human Rights Law Network

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by technology0405 | 2018-08-01 15:36 | field work | Comments(0)


調査時期:2018年1月

 ベトナムでは2003年の法令で、代理出産は全て禁止の扱いとなっていたが、水面下では不妊カップルの実需に答える形で代理出産の斡旋が行われ、実施されていた。
 一方、2015年から改正婚姻家族法により、人道的目的で行われる代理出産が合法化された。改正婚姻家族法のもとで行われる利他的代理出産は次のような条件が課されている。

・代理母は夫か妻の同一世代の親族から
・代理母は出産経験があること
・代理母に夫がいる場合は夫の同意が必要
・依頼者が子の正式な父母となる

 法施行後は、ホーチミン市のトゥズー病院、ハノイ市のハノイ産科医院、フエのフエ中央病院の三箇所で代理出産の申請を受け付けることになった。2016年1月には、ハノイ市で初めての代理出産子が誕生するなど順調に成果を上げていることが報道されている。今後は実施できる病院がさらに増加する見込みである。

 トゥーズー病院のDr. Chau氏によれば、代理出産の希望者はまず申請書を病院に提出する。多数の書類が必要であり、その中には、依頼者と代理母の関係が親族であることを証する書類も含まれる。申請書は院内で審査を行い、審査期間は約1ヶ月ほどてある。産婦人科だけでなく、小児科医なども関わる。2018年1月の時点では、トゥーズー病院だけでこれまで100件の認可が下りたという。

 以上の聞き取り内容からすると、代理母は親族に限定されているものの、実施数はある程度の規模に達していることがわかる。

 一方、関係者に詳しく聞くと、別の姿が見えてくる。代理出産が合法化される前から代理出産の斡旋に携わっていたブローカー女性は、次のように述べる。

「代理出産が合法化されてから、前よりももっと仕事がやりやすくなって、依頼も増えている。書類の偽造は簡単で、バレても摘発されない」
 
さらに、児童福祉が専門の研究者は次のように述べた。
「やはり都会では、親族から代理母を見つけることは難しい。政府は成功していると宣伝しているが、実際にはほとんどのケースで親族以外から代理母を得ていると疑われる」

 ベトナムでは、家族は違いに助け合わなければならないという考え方はが強い。ベトナムで親族間の代理出産が合法化された背景にはそうした価値観がある。しかしそれでも、都会では人々の考え方がより個人主義的となり、代理母を親族から探すのは難しい状況になってきている。その結果として、従前のビジネス代理出産に頼らざるをえないという構図になっている。このように、ベトナムでは法施行後も制度と実態の乖離は解消されていない。とはいえ、今回の法改正の意義は、小さな窓を開けたということであって、今後、国内での実施の実績を積み、大きなトラブルがなければ、親族の範囲を拡大するか、知人や友人などからの代理母も認めるなど、間口を広げるという方策も残されてはいる。


Acknowledgements:
Dr. Nguen Thi Ngoc Phoung, M.D., My Duc Hospital
Dr. Le Thi Minh Chau, M.D., Tu Du Hospital
Dr. Le Minh Tien, Ho Chi Minh Open University
Dr. HoangThi Diem Tuet, M.D,, Hung Vuong Hospital
Ms. L.S. Truong Thi Hoa, Ho Chi Minh Bar Association
Mr. Ju Attawet, PhD candidate UTS


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by technology0405 | 2018-03-24 12:54 | field work | Comments(0)


調査時期:2018年3月

タイでは、2015年に新たな法律が導入された。(Protection of Children Born From Assisted Reproductive Technologies Act, No167/2553) (2014年11月議会で承認、2015年5月交付、同7月施行)

次のような条文がふくまれている。
・配偶子・胚の売買、商業的代理出産は禁止
・仲介行為や宣伝は禁止
・配偶子・胚の輸出入は禁止
・国内の法律婚をしている異性カップルのみが依頼できる(国際結婚の場合は、3年以上の婚姻期間が必要)
・依頼夫婦の正統な子供となる
・原則として、代理母は親族から
・代理出産に関わる費用算定は、医師会が決定する
・違反者らは懲役及び/または罰金

タイでは、2014年に明らかとなった外国人の代理出産に関するスキャンダルをきっかけに、商業的代理出産は禁止され、利他的代理出産に限定されたが、代理母は親族を原則とするものの、親族以外でも実施可能であると幅をもたせている点が特徴である。
また、代理母に支払う費用については、医師会が決定することとされており、現在までに明確な金額は提示されていない。

これまでの実施成果について、Ministry of Healthに聞き取りを行った。

まず、代理出産を希望する依頼者は申請書を提出し、許可を得る必要がある。(卵子提供ではクリニックの医師の許諾があれば可)
政府の委員会は20名ほどで構成されており、医師、小児科、児童福祉の専門家などから構成されている。審査期間は1ヶ月ほどで、これまでほとんどのケースで認可されている。認可されないケースとして、両親に知的障碍があり養育能力に疑問が付されたことなどがあるという。

2015年に審査が開始され、2016年には76件が申請され、72件が認可された。現在までに計140件ほどが認可されている。子供もすでに生まれている。プライバシーの問題もあるので公表されていない。
代理母の内訳としては、夫婦の姉妹などの近い親族が3割、それ以外の親族が3割、親族以外が3割となっている。
利他的ではないケースも含まれていかもしれないが、書類上、問題がなければ認可し、後から実態が判明するようなことがあれば処罰されるという。
審査は厳しいものではなく、仮に対価にあたる金銭が支払われていても当事者間でトラブルがなければ認容するという態度である。

生殖医療に詳しい医師は、次のように述べた。

「タイでは外国人ができなくなったというだけ。タイ人ならできると、そんなに厳しくしていない。親族から代理母を見つけられなかったとしても、友人から見つければいい。対価に関しても、厳しく見ていない。具体的な数字はまだ出ていないが、9ヶ月も妊娠するので、適当な額のお金を支払うのは許されるという考えでやっている。だからタイ人でわざわざ海外にいって代理出産を依頼する人はいないのでは」

つまり、この法律によって、タイ国内の依頼者が合法的に代理出産を依頼できる環境が整ったと評価できるだろう。

一方、ビジネスは消滅したわけではなく、タイを中心に、カンボジアやラオスなど近隣国を巻き込んで水面下で行われ続けている。2017年1月にフィリピン人女性4名が代理母になる目的でプンペンに向かおうとしてフィリピン当局に拘留されるという事件が起こっている。(カンボジアでは2016年10月に禁止の措置が取られた) その後、2017年4月、凍結精子が入ったタンクを持ちラオスに入国しようとしたタイ人の男がラオス国境付近で逮捕されるという事件が起こっている。これは氷山の一角にすぎない。タイの医師や外国資本が出資する形でタイ国外にクリニックを設立、そのクリニックを拠点に受精卵の作製や移植が行われる。タイ人代理母らが渡航して移植を受け現地などで出産を行う。こうした形のビジネスが広がりを見せている。

タイのブローカーは次のように述べる。

「現在のメインは中国人の顧客で、タイ人代理母をラオスやロシアに連れて行き、そこで受精卵の移植を行う。移植後、いったんタイに帰国する。7ヶ月後に中国に連れて行き、そこで出産する。中国の病院で出生証明書が出される。」

このような形で実施される代理出産にかかる費用は以前よりも高騰している。代理母に支払われる対価も上昇している。ラオスなどでも代理母のリクルートは可能だが、現地の女性が関与すれば、ラオス政府が禁止へと動きだす可能性もある。タイ人代理母であれば、すでに代理母のリクルートなどに関して、経験を積んだプローカーやルートが開拓されており、スムーズにビシネスを進めることができる。また、タイでは、すでに妊娠出産が対価を生むという考え方が一定程度浸透し、代理母のリクルートが容易である点もある。

タイの法律について、ある研究者によって、医師の権限や裁量が大きすぎ、玉虫色だとの批判もでている。とりわけ卵子提供や男女産み分けを目的とした着床前診断などは、現在も外国人に対して提供されている。法律やガイドラインではなく、現場の医師の裁量によって全てが行なわれているという批判は当てはまっている。新しい法律は、国内の依頼者にとって便宜が図られた形だが、国境を越えて現在も行われているビジネスに関して、タイ人代理母の保護が今後の課題である。



acknowledgements:
Mr. Nandana Indananda, Tilleke & Gibbens
Prof. Soraj Hongladarom, Faculty of Arts, Chulalongkorn University
Prof. Suphakde Julavijitphong, M.D., Department of Obstetrics and Gynecology, Siriraj Hospital, Mahidol University.
Prof. Somboon Kunathikom, M.D., Hangkok Hospital.
Dr. Akom Praditsuwan, Department of Health Service Support.
















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by technology0405 | 2018-03-23 10:13 | field work | Comments(0)

調査時期: 2018年1月

2002年に商業的代理出産を合法化したインドだが、2008年、2010年の法案提出を経て、
一転してツーリズム抑制へと向かった。2012年に医療ビザ規制が敷かれ、2015年には代理出産目的での医療ビザ発給は停止された。つまり外国人は代理出産目的でインドに一切、入国できなくなった。

2016年に新たな代理出産法案が議会を通過した。(Surrogacy Regulation Act 2016 )

この法案は、以下のような条文を含んでいる
・商業的代理出産は禁止
・依頼できるのは正式に婚姻している異性カップルのみ (シングルや同性カップルは依頼できない)
・インド在住のインド人のみ依頼でき、インド国外に住むインド人(NRI)は依頼できない
・代理母は依頼者の親族に限られる (利他的代理出産のみ)
・代理出産を依頼できるのは原則として1回のみで、女性が代理母になるのは生涯で1回のみ。

この案については関係者からは大きな反発が上がっている。
それは、代理母を親族に限定するという規定に関し、依頼者は代理母を見つけることができず、国内で代理出産を実施することは実質的に不可能になるというものである。

「代理母は自分の身体を使っているし、リスクが高い。代理母はもっともらうべき。きちんと対価を支払ってやるのが良いやり方だ。貧しい女性たちは教育を受けていないので、何も仕事がない。だから代理出産は一つの機会になると思う」(法律家)

「利他的代理出産の場合でも、将来的に何か問題が出てくる可能性がある。そうなると代理出産は全部ダメになる可能性がある」(法律家)

「貧しくて働いたこともないような女性なら、代理出産をやることで人生が変わることもあるだろう。アナンドには成功列もある。利他的だけに限定すれば、そのような機会がなくなる」(記者)

「フェミニストや人権団体らが、搾取だと声を上げている。代理母じしんは何も語っていない。彼女たちは、お金さえもらえば、何も言わない。そのように雄弁に語れるような教育もない」(記者)

「利他的代理出産のケースを自分は今まで見たことがない。誰もやっていない。義理の母なり家族なり、周りの人に知られので、選ばないと思う。代理母が一番大変なのに、医師だけで儲けて有名になっている。そのことに女性たちは気がついていきて、今は70-100万ルピーくらいの対価になっている。代理母の立場から見ると、ビジネスをやったほうがいい。今までみたこともないような金額のお金になる。代理母が別の代理母を紹介すればコミッションももらえる。皆が幸せになるのに、なぜ制約するのはわからない。利他的代理出産といっても、結局は同じ。それに、実際にはビジネスでも親族だと偽ってやればいいだけ。ドバイやオーストラリア、ケニアなどに卵子ドナーや代理母を連れて行くというプロジェクトがこれから始まる」(代理母のブローカー、ケアテーカー)


代理出産から商業的な要素を排し、利他的とするため、代理母を依頼者の親族に限定するという案は非現実的であるとの批判がある。アナンドで代理出産を提供していた医師によれば、親族が代理母になるという利他的代理出産のケースは、これまで扱った1,000件中、25件しかないという。
親族から代理母を依頼できないインド人依頼者は、諦めるか、海外で依頼せざるをえなくなる。海外で依頼するためには大金が必要であり、諦めざるをえない人々の方が多いことが予想できる。

外国人が大量にやってきて、代理出産を依頼することにより、貧しい女性が搾取されることが懸念され、外国人をシャットアウトしたわけだが、国内に限定したところで、依頼者の親族から代理母を見つけるのは難しく、結局のところ、このリスクの高い行為は、貧しい女性の身体に依存せざるをえないということに変わりはない。

さらに、外国人の入国を禁止したことによって、新たなビジネスが広がろうとしている。それは、代理母の輸出ビジネスである。

インド国内で受精卵の作成や移植が難しいため、国外で受精卵の作成を行う。インド人代理母は渡航して移植を受け、一旦帰国する。そして妊娠後期になると、再度国外に出てその地で出産に及ぶというものである。女性にとって知らない国での出産は重荷であり大きなストレスになるだろう。インド人女性が海外で過ごす際のビザの問題もある。さらに、インド人代理母が外国で生んだ子供が、最終的に何らかの形で依頼者の母国へと入国できるのか、法的に安定した親子関係を築くこどかできるかどうか、法的側面から慎重に判断されなければならない。

このように、インドでは法案の審議が続いている状況をよそに、ビジネスはすでに別の形態に進化を遂げている。それは、代理母となる女性にとってよりリスクが高く、また生まれてくる子供の将来も極めて不安定なものである。

2008年頃から生殖補助医療法案の議論が本格化して以来、約10年が経過しているが、インドでは、インド国内では、現在もなお法律が不在の状況が続いている。


Acknowledgements:
Dr. Jatin Shah, M.D., Bombai Fertility Clinic
Dr. Radhika Thapar Bahl, LL.M., LL.B.,
Ms. Rekka Pimple, caretaker.
Dr. Pradeep L. Chitra, Dr. Chitre(s Creation Fertility Centre.
Ms. Jyoti Shelar, Assistant Editor of Kasturi& Sons, Ltd., The Hindu.
Dr. Geetendra Sharma, M.D., LL.B., Medical Consultant.
Mr. Vidnyan S. Daware, Advocate High Court, Lega Advisor.
Dr. R.S. Sharma, M.D.,Indian Medical Council.








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by technology0405 | 2018-03-22 09:44 | field work | Comments(0)


2014年8月、タイで代理出産がらみの二つの外国人スキャンダルが明らかになった。

一つ目は、オーストラリア人依頼者による代理出産子の遺棄事件であり、二つ目は、富裕な日本人依頼者が代理出産で何人もの子どもを得ていたという事件である。後者は、一時は人身売買や臓器売買との関わりも疑われた。この事件をきっかけにタイの代理出産業界は大混乱に陥った。軍事政権による急な摘発を恐れて音信不通となったエージェントもあったという。混乱の渦中、妊娠した身体を抱えて依頼者が子どもをちゃんと引き取りにきてくれるかどうか、不安に駆られた代理母たちもいた(Elina Nilson)。

タイ政府は、2015年始めから外国人への代理出産を禁ずる法律を施行した(但し、国内向けには禁止されていない)。タイでは代理出産は仏教の善行を意味する言葉と結びつけられ、不妊で困っている人々を助ける善い行いであるという考え方もあったが、醜聞と違法化によって、ネガティブなイメージが付着することになった。

タイが商業的出産の舞台として、その幕を閉じようとしていたその時、タイで代理出産ビジネスを開始したエージェントA社がある。もともとIT関係の仕事をしていたという経営者は、タイを中心に、東南アジア諸国と幅広く取引があり、そのネットワークを代理出産サービスの提供にも生かしている。ゲイカップルを中心に年間100組くらいのクライアントを扱っているという。「自分は代理出産の依頼者ではないが、人々が遺伝的繋がりのある子どもを得ることは素晴らしいことだ、自分はその手助けをしたいと思っている」と、このビジネスを立ち上げた動機を語った。

タイで禁止の見通しが明らかになった直後から、急遽カンボジアに新たなクリニックが設立され、商業的代理出産の舞台はカンボジアに移った。移行期にはタイのクリニックに残された依頼者の受精卵をカンボジアまで運び、タイ人代理母がカンボジアのクリニックまで移動して移植が行われていた。その後、タイ政府の監視を避け、タイ人代理母の出産はカンボジアで行われることもあった。この結果、カンボジアで出生したタイ人代理母の子どもの出国手続きに依頼者が手間取り、数ヶ月もの滞在を余儀なくされた日本人依頼者のケースも確認されている。こうしたトラブルは事前に十分に予測されるものであったが、こうした無責任なエージェントは後を絶たない。

2013年、インドの市場が外国人に対し規制を強化したことによって、タイに矛先を変えたゲイカップルや白人の外国人依頼者がタイで急増し、卵子ドナーを南アフリカやイスラエル、東ヨーッパなど、遠方の国から調達してタイで採卵するという方法が常態化していた。このとき、代理出産のプロセスが一国で閉じることなく、断片化する端緒が拓かれていた。卵子ドナーのリクルート、採卵、代理母のリクルート、受精卵の作成、受精卵の選別、受精卵の移植、代理母の出産と子どもの出国手続き、これらは必ずしも同じ場所で行う必要がない。つまりは、これらを別々の国で行うことで断片化し、規制する側から見えなくする効果も期待できる。A社は、東南アジアでも(軍事政権後は厳格化したとはいえ)比較的自由な国際都市バンコクに本拠地を置くことで、東南アジア全体を視野に入れた代理出産サービスの司令塔の役割を果たしている。

バンコクに本部を置くA社ではタイでの規制強化後、カンボジアでの代理出産サービスの提供を主導してきた実績を持つ。海外の顧客から依頼を受け、クリニック、代理母の手配、子どもの出国に関わる書類手続きの援助を行う。実際には、カンボジア人代理母のリクルートや妊娠中のケアは現地の個人ブローカーが行っている。A社にも代理母を紹介していたというカンボジア人のブローカーB氏は、カンボジアでは外国人エージェントのために代理母をリクルートする彼のようなエージェントが数人はいるという。B氏によれば、その多くが男性である。というのも、代理母をリクルートするために田舎の方まで泊まりがけで行動することも多く、女性だとこの商売は難しいという。但し、実際の説得や出産時のつきそいなどは女性のスタッフに手伝ってもらうこともある。また、カンボジアでは子どもの売買は処罰の対象となっているが、代理母になる女性たちは体外受精の仕組みについて、どのくらい理解しているのだろうか。B氏は「どうせお金のためなのだから、そんなことは、理解していようがいまいが、彼女たちに関係がない」と、女性たちが自分たちが行っていることについて、詳しいことは理解していないとしても、それは大した問題ではないと断定した。カンボジアで代理母になるのは離婚した女性であり、自らの困窮に加え、親がつくった借金の肩代わりを求められている女性も多い。たしかに、B氏が言うように、依頼者の受精卵を使う代理出産の意味を彼女たちが理解しようがしまいが、女性たちの選択には何ら変わりはないのだろう。一般にカンボジアでは女性に対する道徳的縛りがきつく、結婚している女性が、夫以外の子どもを孕むことになる代理出産に従事する可能性はほとんどない。代理出産は、売買春と同じように特殊な女性しか手を出さないビジネスになっているため、代理母の供給には限界がある。体外受精は一般のカンボジア人には知られておらず、同じ仏教国でありながらも、タイとは異なり、代理出産はよい行いだという考え方は存在しない。

B氏は、外国人エージェントに代理母を紹介し、800ドルから1,000ドルくらいの仲介料を取っている。だが、現地のブローカーに対しきちんと謝礼を支払わない外国人エージェントもいるという。B氏のビジネスは、外国人に主導権を奪われるケースが多く、その分順調ではない面もある。また、カンボジア人代理母たちも、報酬として1万ドルもらえると聞いていても、実際には約束の金額をもらえないケースも少なくない。A氏によれば、そのようなケースで、怒った代理母が子どもを連れて逃げたトラブルがあったという。B氏は、自分のところでは、妊娠した代理母は、指定する部屋で生活を義務づけ、代理母が逃げないように誓約書で縛り、親戚などの居所もきちんと押さえておく、と付け足すのを忘れなかった。

カンボジアには、人身売買を処罰する法があり、カンボジア国籍を持つ日本人依頼者がタイで代理出産を依頼して十数人もの子どもを得ていた事件が人身売買との関連を疑われたこともあり、早い時期から商業的代理出産は人身売買であると政府から警告が発せられていた。カンボジアでの代理出産は早くからグレーゾーンに位置付けられ、そのことが、外国人依頼者の抑制にもつながっていたが、国内で代理出産の利用が難しい先進国の依頼者らが、グレーゾーンと知りつつも、カンボジアを訪れていた。その結果、生まれた子どものビザ取得や帰国問題に関し、各国の領事館などは、カンボジア側で準拠する法がなく対応に苦慮してきたと思われる。

こうした事態に対処するため、オーストラリア大使、ドイツ大使、フランス大使なども招き、2016年8月下旬、代理出産に関する政府会議が持たれ、本格的な法規制に向けて動き始めたことが報じられた(Cambodia Daily)。だが、肝心のカンボジア政府は「カンボジアでの代理出産の実態について、政府では何も把握していないし情報がない」(Ministry of Women's Affiare)という。一方、UNFPAのDr.Mark Derveeuw氏は、女性や子ども、依頼者を保護するために、外国人向けの商業的代理出産は禁止されるべきだが、カンボジア人は先端技術の恩恵を受けられるようにすべきだという。インドやタイ、ベトナムなどでも既に同じような趣旨の法整備がなされており、諸外国の意向も汲みつつ、カンボジアでも似たような規制が導入される可能性が高い。

バンコクのA社では、このような動きは既に読み込み済みであり、バックアッププランとして、ラオス(首都ビエンチャン、一人あたりGDP1,725ドル)、ミャンマー(首都ネーピードー・ 一人あたりGDP1,113ドル)での代理出産プログラムの構築が最終段階に入っている。これらの国々での代理母の手取りはタイやカンボジアよりももっと少ない。東南アジア諸国の養子法や国籍法、家族法など、関連する法律を常に調査しているが、だいたいどこの国も似たようなものだ、と経営者の男性は慣れた様子で言う。現地は、明文化された法よりも、人々の私的なつながりの中で賄賂と呼ばれる金銭が流通し、物事が曖昧に処理されていく社会である。そして、依頼者の母国側にしても、現地の領事館の協力がとれれば実際には手続きは容易だという。依頼者と子どもに対する人道的配慮を優先し、たとえ母国側では代理出産を禁止していても、代理出産子への母国への入国手続きについて、穏便に処理できるよう、協力する領事館は多いのだという。代理出産のプロセスは東南アジア諸国にちらばって断片化しており、タイ政府からはプロセスの全貌がつかめないようになっている。

これまで、筆者は多くの個人エージェントやタイ人代理母たちにインタビューを行ってきたが、その多くが違法になったことをきっかけにコンタクトを取ることが難しくなった。タイ政府の締め付けは功を奏している。しかし、それでも、依頼者がいるなら代理母にチャレンジしたいと積極的に売り込むタイ人女性もいた。エージェントを挟まず、依頼者と直接に取り決めるならビジネスにならず違法ではないと理解する女性もいる。皮肉なことに、連日のようにメディアを賑わしたスキャンダルをきっかけにそのようなビジネスの存在を知った女性も少なくない。妊娠出産は「母性」に基づく無償の行為だとされてきたが、いまや他者によって代替可能なものとなり、それもわずかな値段がつくだけのものに成り果ててしまった。違法だと知りつつ、それでも代理母に志願せざるを得ないタイ人女性は、最も困窮した人々である。その上、ラオスやミャンマーといった、もっと所得水準が低い国々の女性たちも代理母産業に参入しつつあり、妊娠出産の対価に下方圧力が掛かっている。2014年に出産したというタイ人代理母の中には10万バーツ(約27万円)しかもらっていないという女性もいた。上からの禁止命令と下からの価格競争にさらされたタイ人代理母は、多国籍化した代理出産ビジネスの末端に置かれ、容易に搾取されうる存在となっている。


Multinational surrogacy business among southeast Asian countries.

On Aug 2014, two surrogacy scandals in Thailand were reported worldwide through media. One case was entitled Baby Gammy scandal. Australian intended parents got twin through surrogacy, but abandoned the other baby boy because of his disability. Another case was that a Japanese single man asked surrogacy repeatedly and as a result he had more than a dozen of children. Human trafficking was suspected regarding the Japanese man’s case, but finally there was no evidence. Following these two scandals, The Thai government closed commercial surrogacy for foreign clients at the beginning of 2015.
However, the lucrative business is still ongoing in the area of southeast Asia. Soon after the scandals were disclosed, financed of the surrogacy industry discovered Cambodia as an alternative destination to Thailand. There is no regulation on assisted reproductive technology as well as IVF surrogacy in Cambodia. Hastily an IVF clinic was established in Cambodia, and embryos created and kept at an IVF clinic in Thailand were transferred to Cambodia. Embryos were transferred to Thai surrogates and then delivery was happened in Cambodia subsequently. There were no prior practices in Cambodia and therefore the problem of legal status was happened among resulted child. Some agents did not think sufficiently beforehand and as a result, Japanese clients got involved in such trouble as well.
Since many foreign clients, such as single and Western gay couples, were asking surrogacy in Thailand, they asked egg donor from south-Africa, Israel, eastern Europe. The Egg donor traveled to Thailand and the egg retrieval procedure was conducted there. Surrogacy process has thus been fragmented. Namely, surrogacy process was divided into egg donor from worldwide, surrogate mother recruited from emerging countries, embryo creating, embryo transfer, and delivery. Each procedure can happen in a different country.
One Surrogacy Agent A, who stared the business in Bangkok soon after the scandals happened in 2014, has adopted this scheme. Using this scheme, the company has managed the whole surrogacy process in Bangkok and sent Thai surrogates to Cambodia.
On Aug in 2016, local media reported that the government of Cambodia will create a law regarding surrogacy and they will have a meeting on this. The meeting will be attended by the Australian, German, and U.S. ambassadors in addition to the ministry of women’s affaire of Cambodia, the ministry of internal affaire of Cambodia and so on. It is assumed that the intended parents from these countries were facing immigration issues with their offspring in Cambodia and they need a law to resolve this problem. Dr. Mark Derveeuw, a representative of UNFPA, suggested that Cambodia should set up a law regulating surrogacy to protect the interested parties. His opinion is that commercial surrogacy for foreigners should be banned, but altruistic surrogacy between local people should be permissible. This rule is almost the same with other emerging countries such as India, Thailand and Vietnam, so it is very a very feasible option for Cambodia.
Sooner, Cambodia will soon close the door for foreigners, but there are already alternatives. An owner of surrogacy agency A, which is located in Bangkok and where surrogacy process is managed, has a plan to execute surrogacy in Laos and Myanmar. In both countries, there are many women who have been suffering from poverty and they can be prospective surrogates. Moreover, they might be paid less than Thai surrogates. There is no law regarding IVF surrogacy in both countries. The owner of agent A said the company has enough experience and achievements in this field already and they can deals with well. Moreover, the owner testified that if the local embassies are cooperative with intended parents, it is easier for the newborn baby to enter into the native country.
On the other hand, there are still Thai women who are willing to become a surrogate even after the prohibiting law was enacted. Ironically, some of them have learned about delivery with payment, by scandals which were disseminate though media. Formerly, women delivered the child altruistically because of the love. But now, pregnancy and childbirth is a labor for poor women with minimal payment. Therefore wealthy women can be exempted from the obligation of childbearing and they can have their own child without any physical burden.
Thai women who are willing to participate in surrogacy industry are very poor until now as well as under extremely difficult situation as then. They might be accused if the arrangement comes to light. It will become more risky, but they had no choice but to apply. Moreover, surrogate mother recruited from Laos and Myanmer will be forced to accept low payments due to poverty. Such extremely poor women are very vulnerable to exploitation even after the enforcement of statute law.


Key words: Cambodia, Thailand, Laos, Myanmer, Commercial Surrogacy


オーストラリア大使、代理母出産規制法の起草にカンボジア法務省へ協力の意向 (2016.08.03) Link

無規制の代理母出産、政府指針発表の予定―カンボジア女性省 (2016.08.27) Link

As Surrogacy Trade Grows, Government Charts Course (2016.08.26) Link





Acknowledgements:
Dr. Mark Derveeuw, representative of UNFPA in Cambodia (United Nations of Population Fund)
European Fertility Clinic
Angkor Clinic
First Fertility PGS Center Limited.
New Genetics Global Limited
Ministry of Women’s Affaire, Cambodia
Cambodia Daily




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Ministry of Women's affaire, Cambodia

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Fertility Clinic of Cambodia

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UNFPA Cambodia

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バンコクの高層ビル

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マッサージをする女性


(C) Yuri Hibino 2016

by technology0405 | 2016-09-13 09:13 | field work | Comments(0)

 2013年、医療ビザに関わる規制をきっかけにインドを去った依頼者が大挙して向かった先がタイであった。タイでは、体外受精を始め、代理出産に関する規制法がなく、あらゆる治療が自由に提供されていた。しかし、障がい児の置き去り事件が発生、タイでも2015年の初頭にピリオドが打たれた。その後、依頼者らはネパール、メキシコ・タバスコ州、ジョージア、カンボジアなどへと、流れていった。しかし、2015年末までに、ゲイカップルを受け入れていたネパールとメキシコ・タバスコ州は相次いで門戸を閉じた。

 ジョージアは東ヨーロッパにある旧ソ連の国であり、1991年に旧ソ連から分離独立後は、政治的に不安定で、財政的にも厳しい状態が続いている。国民所得は低く、失業率は10%を超えている。街では、仕事にありつけない中高年の男性の姿が見受けられる。ジョージア産ワインが知られているが、それ以外に国際競争力がある産業はこれといってない。

 ジョージアでは、1997年以来、代理出産は合法であり、外貨が稼げる有力産業になっている。近隣の西ヨーロッパを始め、トルコ、イスラエル、ロシア、オーストラリアやイギリスなど、さまざまな国から依頼者がやってくる。

 ジョージアのエージェントでは、子どもは依頼者のものであるということを徹底させるため、代理母は「孵卵器」であると女性たちに教え込んでいる。その言葉通り、依頼者と代理母は受精卵の移植から出産、子どもの引き渡し完了までの間、一度も顔を会わせることはない。

 ジョージアでは、離婚して子どもを抱えているなど、経済的に困窮した女性が代理母産業へと次々と足を踏み入れている。一方、正教会は、保守的な立場から代理出産に強硬に反対している。医師、大学教授でもある神父は、次のように言う。

「エージェントは、代理出産について良い事ばかり宣伝しているので、人々の考えもそれに影響されている。旧約聖書にも代理出産について書いてあると宣伝しているが、それは嘘だ。依頼者も世間も、代理出産を良いことだと教えられているので、実際の問題に気がついていない。子どもがいない夫婦に子どもを与えることなので良いことだと言っている。自分のところにも依頼者が相談に来たことがあるが、代理母と子どもの繋がりが深いことを教えると、代理出産を依頼することを諦めたことがあった。」

「代理母と子どもは関係がないというのは、医学的に見ても完全な間違いだ。遺伝的に違う受精卵を受け入れると、母体と子どもに対し悪影響を及ぼす。細胞に影響に与えて、毒になる。別の言い方をすれば、受精卵を他の女性の体に入れることは、植物を植え替えるのと似ている。代理母の体は受精卵を排除しようとするが、受精卵は、着床しようと努力している。受精卵は、生き残ろうとして戦っている。そのことが子どもの心身に影響を及ぼすと思う。そのために出産後、何年後も、代理母と子どもの関係を証明することができる。代理母と子どもは、生物学的には深く繋がっている。そして、代理母の感情は子どもに伝わる。遺伝的関係より生物学的関係のほうが重要だ。授乳は母親だという証拠の一つ。」

「それなのに、エージェントは、代理母は孵卵器だ、あなたの子どもではないと教えている。だから、代理母は自分のことを孵卵器だと思っている。そのように考えている女性のお腹の中で胎児は成長していくことになる。そのことが子どもに影響しないといえるだろうか?」

「しかし、最終的にはいくらトレーニングしても、身体はそれを受け入れない。
妊娠中の女性は特別な精神状態にある。出産後は特に精神的に脆弱でそのような時期に依頼者に子どを奪われることによって、女性は大きなダメージを受ける。」

「女性にこのような仕事をさせるのは女性の尊厳に関わることだと思う。フェミニストは女性の権利をさかんに主張しているが、代理出産にもっと反対すべきだと思う。女性を孵卵器として扱ってはいけないと思う」

上記の神父は、医師でもあるため、医学的根拠を示して反対している。いずれにしても、正教会では、代理出産を罪悪視しており、代理出産で生まれた子どもには洗礼を与えない、という強硬な意見もある。一方、正教会では、教主が代理出産を批判するあまり、代理出産で生まれた子どもに対する偏見を煽るような発言を行い、関係者から猛反発を受けたことがあった。

 だが、「家にお腹を空かせた子どもがいるので、背に腹は代えられない」と元代理母の女性は言う。エージェントのスタッフ女性は、「この仕事をやる女性は、”何か”を乗り越える必要がある」と証言する。 “何か”とは、道徳心のことだろう。
 ある代理母は、顔全体が隠れる大きなマスクをして現れた。誰にも知られたくないという決意の表れであろう。彼女のクライアントは日本人だという。しかし、これまで一度も会ったことはない。「お金の問題があって、代理母をしているが、代理出産だからといって特別なことはない。自分の妊娠の時と全く同じように感じる」と証言する。産みの母親と子どもが特別な関係にあることは、代理母自身がよく知っていることだ。

 妊娠出産は女性にとって命がけの行為である。しかし、それだけではない。彼女たちは9ヶ月分の対価として1万ドルの報酬を貰うために、自分の身体を使って、道徳的に”正しくない”ことをさせられているのである。そのことを、外国人の依頼者は知るよしもない。

 ジョージアでも、外国人への代理出産を禁止する法案が提出されようとしたことがあった。しかし、水際で阻止された。国内で、賛成派と反対派の間で政治闘争が繰り広げられており、代理出産に関し、細かなルール変更がたびたび行なわれている。最近行われた法改正によって、何ヶ月も滞在延長を余儀なくされる依頼者が続出し、大きな混乱が生じた。現地のエージェントですら知らない間にこうしたルール変更が行なわれていることは、渡航者にとって大きなリスクである。

 ジョージアでも、代理出産が禁止される可能性があるが、ゲイカップルなどが押し寄せ、すでに黄色信号が灯っているカンボジアに比べればまだその可能性は少ない。グルジアではもともと異性愛カップルにしか代理出産を認めていない。また、カンボジアを始め、白人による植民地支配を経験した国々では、代理出産はセンシティブな問題をはらんでいる。

 国内最大の反対勢力である正教会は、代理出産を道徳的に非難する一方で、代理母にならざるをえない貧しい女性への経済的支援を唱えることはない。微細な規制を導入することで妥協点を見出し、商業的代理出産の是認という大枠は変わらないままだ。タイが門戸を閉じた後、グルジアは数少ない選択肢の一つであり、代理出産を禁止しないよう、諸外国の領事館から暗に圧力もある。まさに「背に腹は代えられない」グルジア政府のジレンマを示している。日本人エージェントを頼って日本人依頼者が渡航しており、その数は漸増していくだろう。グルジアは、世界中の依頼者からリーズナブルな渡航先と認識されている。

Link
「代理出産のユートピア ジョージアに向かう日本人」『週刊ダイヤモンド』(2016年6月11日)

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by technology0405 | 2016-06-08 16:05 | field work | Comments(0)

イスラエル調査結果

イスラエルは生殖を積極的に肯定しているプロナタリズム(pro-natalism)の国として知られる。ユダヤ教徒の聖典である旧約聖書には「産めよ、増やせよ」とある。イスラエルの住民の約8割がユダヤ人であり、宗教指導者ラビ(Rabbi)の意向が、生殖補助医療の規制や運用に大きな影響を与えている。
 イスラエルのプロナタリズムは、宗教的義務としてだけでなく、政治的関心によっても後押しされている。イスラエルの出生率は先進国の中では突出しているが、それでも、近隣のアラブ諸国の人口増加率を下回っていることが危機感を煽っている。ユダヤ人女性は子どもを最低3人産むことが望ましいという暗黙のプレッシャーに晒されている。生殖が重視され、オーソドックスのユダヤ人家族などは、10-15人もの子どもがいることも珍しくない。こうした伝統的な家族では、女性の役割は子どもをたくさん産んで育てることだけであり、経済的自立のための教育や職業的訓練を受けることは優先事項ではない。
 生殖はイスラエル国民の聖なる義務としてあり、不妊はカップルのプライベートな問題などではなく、国家が関わるべき問題となる。イスラエルは、人口一人あたりの体外受精実施クリニックの数は世界一であり、体外受精費用はカップルが2人の子どもを得るまで何度でも無料である。(※「2人の子ども」に以前のパートナーとの間にできた子どもは含まれない)。こうした優遇策から、1人の女性が10-15回もの体外受精を受けることは決して珍しいことではない。この結果、「イスラエルの体外受精は成功率が低い」と述べた関係者もいた。何度でも無料という条件が、クリニックの怠慢を助長している面がもあるのかもしれない。子どもができるまで何度でもチャレンジし続けることが当然視され、イスラエルの不妊女性の心身は、大きなプレッシャーとストレスに晒されている。
 イスラエル人女性は、たとえ幾度も治療に失敗しても、諦めるという選択肢はほんどない。イスラエルでは、配偶子提供や代理出産などの第三者が関わる生殖医療もさかんに行なわれており、最終的にはこうした手段に頼ることになる。養子となる乳幼児の数が少ないことや、養子となる子どもの背景がよくわからないことが養親にとって忌避されることから、養子は好まれず、あくまでもテクノロジーを利用して遺伝的繋がりのある子どもを得ることが優先的に選択される。
 精子提供は健康省のガイドラインのもとで行なわれている。ドナーは完全に匿名である。またユダヤ人のカップルに対し、ユダヤ人の精子を用いることは推奨されない。これは主としてユダヤ人同士の近親婚を避けるためであるとされる。ユダヤ法(Halakhah)によれば、夫以外の男性の精子で妻が妊娠出産した場合、子どもは不義の子としての汚名(Mamzar)を帰せられることになる。子どもがMamzahとなった場合、将来、宗教婚ができなくなるなど差別的な取り扱いを受ける。また、精子提供は法律で規制されていないため、厳密に言えば、ドナーが親権を主張する可能性があるという(Dr.Ruth Zafran)。つまり、精子ドナーが関与したことが公になれば、父子関係が否定され、子どもの立場が不安定化する。このため、精子ドナーは非ユダヤ人、かつ、完全匿名が条件となる。当然、子どもに告知はなされず、一般に遺伝的親を知る権利は、ユダヤ人社会において馴染みにくいものとなっている。シングル女性も精子提供を受けることができるが、心理テストやソーシャルワーカーによる面談が必要になる。シングル女性の場合は、家父長制的な家族関係から自由であり、子どもは精子提供の事実を知っている例もあった。全般的に精子ドナーは不足しており、外国の精子バンクも国内で営業している。外国の精子バンクは人気がある。ドナーのプロフィールが付いているためで、親にとっても、ドナーの情報は有益であると考えられる。
 イスラエルでは、死後生殖も認められている。これには特殊な国情も影響している。Biological Will Bankを設立した法律家Irit Rosenblum氏は、軍に従事し、生殖能力を失った若い兵士の事例を知り、社会的な理由で精子を凍結保存するというアイデアを思いついたという。Irit氏が関わった事例で、兵役で息子を失った母親が息子の身体から精子を採取し、その精子を用いて女性が子どもを産んだという話は、イスラエルでも有名である。2001年、彼女の案にヒントを得て、イスラエル軍でも兵役に従事する若い男性のために、精子バンクが設立されたという。「軍に従事する若い人には、死の可能性があること、そのために自分の配偶子を保存しておく可能性を伝えないのは、immoralだと思う」(Irit Rosenlum)。彼女が設立したBiological Will Bankには、1,000件ほどの登録があり、死後生殖を希望しているという。
  国内で初めての卵子提供は1986年に行われた。もともと、ドナーは不妊治療を受けている女性からの余剰卵子の提供に限られていた。しかし、インセンティブがない状況で、治療中の女性が自らの卵子を他人に提供することは考えられない。このため卵子ドナーは極度に不足していた。
  2001年、こうした状況に拍車をかけるスキャンダルが発覚した。2人の医師が不妊治療中の女性から無断で卵子を盗み、他の女性に売っていたということが明らかになった。これは、卵子の盗難事件として大きく報道された。これにより、国内の卵子提供は事実上ストップした。当時、卵子提供を希望する女性が3,000人も待機していたという。国内で不妊治療中の女性から提供卵子を確保することは絶望的となった。国内での卵子提供の新たなスキームの構築と海外での卵子提供を法的に容認するため、新しい法律が構想された。しかし、この法律は、可決するまでに10年もの月日を要することになった(Ms. Ofra Balaban)。
 2010年、卵子提供に関する新しい法律が成立し、健康な女性からの提供が認められた。ドナーは6,000シェケル(約18万円)の補償を受け取ることができるとされた。ユダヤ法では、ユダヤ人の母親が生んだ子どもはユダヤ人となる(父親の宗教は子どもの地位に影響しない。つまり父親がユダヤ人でも母親がユダヤ人でなければ、子どもはユダヤ人ではない。ただし、Family nameについては、家父長制システムに従い、父親から継承される)。この母系継承システムは、中世に生じたユダヤ人への暴行、虐殺事件に由来する。当時、レイプされ妊娠したユダヤ人女性の子どもにユダヤ人としての地位を与えるためにルール変更が行われたのであった。つまり、このルールに従うなら、もし卵子提供によって非ユダヤ人の女性の卵子を用いたとしても、産んだ女性がユダヤ人である限り、(ラビからみて)子どもは正真正銘、ユダヤ人である。
 国内で健康な女性からの提供が認められたとしても、国内で卵子ドナーをリクルートすることは極めて困難な状況が続いた。卵子盗難スキャンダルによって卵子提供へのイメージが失墜したことの他に、自分の遺伝子を他人に提供してもよいという考えの女性が少ないことがあると考えられる。卵子ドナーへの補償額は2013年に増額(20,302シェケル、約60万円)されたものの、国内での実施例はごく僅かであり、海外に依存する構造が定着している。
 ルーマニアやポーランド、キプルスなどにイスラエル人医師が経営するイスラエル人専用のクリニックがあり、そこで現地女性のリクルート及び卵子提供が行われる。東ヨーロッパにはユダヤ系の血を引く女性もいるが、非ユダヤ人の女性も金銭目的で提供する。海外での卵子提供は、次のような方法で行なわれている。国内で依頼夫の精子を凍結し、海外に輸送、海外でドナーの卵子と受精させ、移植時期に合わせて依頼女性が渡航し、新鮮胚移植を受ける。あるいは海外で作製した受精卵を国内に逆輸入して依頼女性に移植するなどの方法で行なわれている。
 こうした形で行われている海外での卵子提供は、業界関係者の間で評判が悪い。イスラエル人医師が、海外で卵子売買の嫌疑で取り調べを受けたこともある。この行為によって、クリニックは大きな稼ぎを得ているという。「小さな飛行機をチャーターして、週末になったらそこに複数の患者をまとめて乗せて連れていく」、「国内でももっときちんと宣伝すれば、卵子ドナーを確保できるはずだと思う。それをしないのは、医師が国内の官僚的な手続きを嫌っているのと、海外でやった方が儲かるからだ」、「海外の卵子提供にかわかる医師らは、政府の委員会にも入り込んでいて、利益相反が生じている」(Dr. Victoria Gelfand )などの証言が得られた。配偶子の輸出入に関しては、次のようなルールがある。国内にある夫婦の精子と卵子からつくられた受精卵を海外に持って行くには健康省の許可が必要になる。また提供卵子で受精卵を作った場合は、海外に持って行くことはできない。そして逆に海外からの提供卵子の輸入や海外で作った受精卵を国内に持ち込むのは、海外にあるイスラエル人医師のクリニックを通してしかできないルールになっている。
 卵子提に関しては、子どもを産んだ女性が母親だというルールがあるため、法的には困難な問題を生じにくい。しかし卵子提供では、実際には非ユダヤ人の卵子が使われており、ユダヤ人の血統の意味は変容している。このため、近年、卵子(遺伝子)を提供した女性が母親だという考え方も一部のラビの間では浮上しているという。これは代理出産の浸透によるところが大きい。このように、ラビの間でも見解の違いがあり、卵子提供の場合でも将来、母子関係が不安定化するというリスクがある。そして、卵子提供を受けたということを、ラビに報告する人もいれば、しない人もいる。また、子どもへの告知には消極的である。
 現在、胚提供は禁止されている。しかし、国内での卵子不足を解消するためには有望なリソースである可能性がある。卵子提供法の推進に関わってきた当事者団体の代表は、胚提供の許可に向けて政府に働きかけているという。しかし、卵子提供法の成立にも10年かかっており、胚提供を許可するためには養子法の改正が必要になることが予想されるなど、道のりは決して楽ではない。
 卵子提供に比べて、代理出産は国内でも活発に行なわれている。国内では1996年に有償の代理出産が合法化された。依頼者と代理母の宗教(ユダヤ教)は同一であることが求められる。また、代理母には出産経験があること、そして、代理出産法が改定されるまで、代理母は独身であることが求められた。また、依頼者の精子を使うことが必要条件である。代理母が受け取る報酬は400-500万ほどであり、世界でもトップクラスに入るだろう。代理母が独身でなければならないというルールは、夫がいる女性が他人の子どもを妊娠出産することはゆるされないというユダヤ教の考えからであり、このため、離婚して子どもを抱え、経済的に困窮している女性が代理母のリソースとなっていた。代理母不足を改善するため、既婚女性でも代理母になれるという規制緩和が行われた。これによって、「代理母の出身階層は上昇した」という。しかし、それでも、女性がお金のために代理母になるという現実に何ら変わりはないという。
「100人以上の代理母にインタビューをした。過去の中絶の罪悪感から代理母になる女性もいた。単調で平凡な日常生活から逃れるために、何か特別な経験をしたいという女性もいた。また、中産階級の女性でも、キッチンを新調したい、海外旅行したいというような願望を叶えるために代理母になる女性もいた。それでも、たった一人を除いてすべての女性がお金のために代理母になっていた」(Dr. Samama)
 イスラエルでは、国内でも相当数の代理出産が行なわれているが、その何倍もの人々が海外での代理出産に頼ってきた。その理由は、代理母不足により待機時間が長いことや、国内では異性愛カップルのみしか依頼できないことがあげられる。
 インドやタイ、ネパール、メキシコなどで多くのイスラエル人が代理出産を依頼してきた。その大部分はゲイカップルである。だが、2015年秋をもって、これらの新興市場は外国人に対する代理出産の提供を停止した。増大する代理出産へのニーズをどのように満たすべきかを焦点として、2014年に代理出産の改定案が出た。それは、国内で独身やゲイカップルにも代理出産への道を開くことや海外での代理出産を認めることなどが主旨となっていた。しかし、宗教勢力の反対も強く、法案は成立しなかった。「ゲイカップルは経済的にも政治的にもパワーがある」(Dr.Samama)。国内の代理出産は現在、数ヶ月もの待機時間があるが、もし国内でゲイカップルが依頼者として認められれば、代理出産の費用は高騰し、異性愛カップルが依頼できなくなるのでは、という声も聞かれた。
 海外代理出産への道は、いくつもの裁判例によって開拓されてきた。ユダヤ法によれば、代理母が非ユダヤ人であれば、たとえ依頼女性の卵子を使っていたとしても、子どもはユダヤ人ではない。そこで、海外で生まれた代理出産子に対してはDNAテストを行い、依頼者との血縁関係が確認できれば、子どもにいイスラエル国籍を与えてきた。国籍があれば、子どものパスポートは発行されるが、ユダヤ人になるためには改宗儀式が必要になる。改宗は決して簡単な道のりではない。また、依頼女性はたとえ自分の卵子であっても、子どもの母親として認められず、養子縁組の手続きを必要としていた。これは不平等であるとして、2012年にルールの改定がなされ、依頼者の卵子を使っていれば、母親として登録できるようになった。DNAテストによってイスラエル人国籍を取得し、イスラエルに入国させるという方式は確立されたが、問題がなかったわけではない。タイなど、産んだ女性が母親というルールがある国でイスラエル人が代理出産を依頼しようとすれば、養子縁組が必要となり、ハーグ条約に違反する可能性があった。2013年、タイ人代理母から生まれた子どもに対し、DNAテストを行ってイスラエル国籍を与えても出国のためのパスポートを発行することができず、代理出産子が一時的に出国できくなった事件の背景には、こうした問題があった。新興国の市場が閉じたいま、ゲイカップルが向かう先はカナダや合衆国に限られている。このため、ある法律家は、次回、代理出産の法改正があるとすれば、海外代理出産を正式に認める案が盛り込まれる必要があるだろう、と述べた。
 ナショナリズムと結びついたプロナタリズムは、第三者が関わる生殖医療へのニーズを増大させており、海外に依存する構造を変えることがなかなか難しい。そしてそのことによって、「ユダヤ人」の血統・血縁がますます拡散してきていることは皮肉である。


Acknowledgements:
調査にあたって下記の方々に協力いただいた。記して感謝したい。

Dr. Victoria Gelfand, Law office of VICTORIA GELFAND
Dr. Ruth Zafran, Family Law, Haifa University
Dr. Joseph Schenker, Hadassah Medical Center obstetrics and Gynecology
Ms. Dana Magdassi, Lotus Surrogacy
Dr. Etti Samama, Ministry of Health
Ms. Ronit, sha L'Isha, Haifa Feminist Center
Ms. Ofra Balaban, Patient Fertility Association, Israel
Dr. Irit Rosenblum Adv.International Family & Fertility law
Ms. Olga Lifshits, Bar-Ilan University

Link

イスラエル

Dr.Etti Samara へのインタビュー

平成27年度 厚生労働省 子ども・子育て支援推進調査研究事業 諸外国の生殖補助医療における法規制の時代的変遷に関する研究

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by technology0405 | 2016-02-22 09:33 | field work | Comments(0)

グルジア(ジョージア)調査結果

2015年、インド、タイ、ネパール、メキシコ(タバスコ州)なと外国人依頼者に対し代理出産サービスを提供してきた国々が次々と門戸を閉ざした。タイを追われた人々がカンボジアに流れる一方、ヨーロッパと陸続きの東ヨーロッパの国々も久しい間、ツーリズムの受け皿となってきた。
 グルジアでは、1997年に健康保護法が成立し、妻に子宮がない男女カップルに限り、代理出産を認めているが、実際にはこの条件にあてはまらない依頼者にも代理出産を提供してきた。イギリス、ドイツなどヨーロッパの国々、中東地域ではイスラエル、特にトルコからの依頼者が多い(トルコでは生殖ツーリズムは禁止されている)。現地のエージェントでは、「ドイツなど代理出産に対して厳しい姿勢を取る国もある。こちらでもいろいろな国の情報を持っていて、そうした国からの顧客に対しては、注意喚起をするが、依頼者の母国に帰国するための手続きは、依頼者の責任でやるようにお願いしている。そういう契約になっているので、何かトラブルが生じても責任は取らない」と、子どもの帰国トラブルには一切対応しないという方針をとってきた。子どもの帰国手続きは、送り出し側のエージェントが対応してきたと思われるが、予期しないきっかけで子どもの地位は容易に不安定化する。グルジアでも代理出産子の帰国トラブルが散見される。2014年から国籍法が変更され、代理出産子についての取り決めとして、依頼者の母国の国籍を付与できなければ子どもにグルジアの国籍を与えるというルールが追加された。これは、相次ぐ代理出産子の帰国トラブルや子どもの遺棄などに対し、苦肉の策として、インドでも行われた対応である。しかし、実のところ、国籍法改定のきっかけになった帰国トラブルは、法務省が導入した省令によるところが大きい。2012年に代理出産の契約書の書式についてルールが改訂されていたが、関係者に対し、周知されていなかった。「2014年頃、子どもの出生証明書の発行を求めて戸籍登録の窓口に行ったところはじめてその事実を突然、告げられた」とエージェントは証言する。現地で重要なルールの変更があったにも関わらず、エージェントは対応できていなかった。このトラブルに見舞われたイスラエルから来た依頼者男性は、次のように述べた。
「代理母はあと1週間ほどで出産の予定。イスラエルに妻と子どもが一人いて、こちらには自分一人で来ている。イスラエルで代理出産をやる場合、長い時間待たなければならないし、既に子ども1人いるので優先順位が低い。グルジアは安いし、卵子ドナーも必要だったので来た。イスラエルでは卵子ドナーがほとんどいない。グルジアの法律は厳しいと思う。ちゃんと書類を揃えないと手続きできない。エージェントのミスのせいで、長期滞在を余儀なくされる予定。同じ目にあっている依頼者は他にもたくさんいるのではないかと思う」
 契約書の不備で足止めになった場合、子どもはグルジア政府の管理下に置かれ、裁判手続きを要する。裁判では、代理母と匿名卵子ドナーが出廷して証言をすることが必要になる。こうした手続きのために、代理母や卵子ドナーのプライバシーが毀損されている。
グルジアではオーソドックス教会が大きな影響力を持ち、代理出産に反対する最大勢力になっている。たとえば、教会では、代理出産で産まれた子どもには洗礼を授けないといった方針も示されている。代理出産をめぐって容認派と反対派との間で政治的綱引きがあり、その一つの現れとして互いに矛盾する法務省の規制や国籍法の改訂が行われたと見ることができる。
 2014年、ある党から、代理出産禁止法案が提出された。健康省では、専門的な見地から法案の妥当性を検討するため生命倫理委員会に意見聴取を行った。生命倫理委員会は、教会の影響が濃いメンバー構成になっており、結果、代理出産を即時に全面的禁止するよう報告書がまとめられた。その論拠として、倫理的な見地からのみならず、医学的知見から、妊娠出産する女性と子どもとの生物学的繋がり(biological reationship)が重要であることが挙げられている点は興味深い。
 オーソドックスの神父であり、医師でもある生命倫理研究者は、次のように述べる。
「エージェントなどは、代理出産の良い面ばかり宣伝しているので、人々の考えもそれに影響されている。たとえば、代理出産のことは旧約聖書に書いてあると宣伝しているが、それは嘘。代理出産の子どもは依頼者の子どもだというのも嘘。遺伝的に違う受精卵を受け入れると、母体と子ども、互いの細胞に影響に与える。そのために出産後、何年後も、代理母と子どもの関係を証明することができる。代理母と子どもは、生物学的に深く繋がっている。遺伝的関係(genetic relationship)より生物学的関係のほうが重要。妊娠中の代理母の感情も子どもに伝わる。そのことが子どもの心身に影響を及ぼすと思う。代理母は、エージェントから、あなたは孵卵器だ、それはあなたの子どもではないと教えられている。しかし、いくらトレーニングしても、身体はそれを受け入れない。出産後、女性の心身は非常に脆弱な状態に置かれる。そのような時に子どもを奪われ、女性は大きなダメージを受ける。出産後に出てくる母乳は、母親である証だ」
 代理出産を肯定する言説への対抗として、生物学的繋がりを証明する科学根拠を示すことは有効だろう。神父によれば、代理出産を希望する依頼者に対し、このことを説明したところ、その夫婦は依頼を思いとどまったのだという。遺伝的関係と生物学的関係、どちらが重要なのか、現在のところ、科学的には解決できない。それよりも、重要なのは、生物学的関係か遺伝的関係かどちらが重要かという議論以上に、経済的に困窮している女性への救済策ではないだろうか。いずれにしても、代理母は孵卵器であって遺伝子を入れる入れ物に過ぎないという言説は、依頼者にとって非常に都合が良いものである。そして、それは必ずしも正しくない。遺伝的関係か、生物学的関係か、それは、科学的論拠である以上に、ポリティクスである。あるグルジア人依頼者の女性は次のように述べる。
 「代理母の出産を明日に控えている。嬉しくてしょうがない。自分は、結婚したのが遅かったのもあり、7年間、子どもができなかった。体外受精は一回だけチャレンジすることができた。3つの受精卵ができた。医師は私に移植するよう強く勧めたが、私は、代理母に移植することを希望した。たまたま病院に来ていた代理母を見つけて、その代理母を指名した。何かその代理母にピンと来るものがあった。私の卵子を3つ移植したら妊娠することができた。契約書に決められた金額よりももっと多く代理母に対して支払った。果物、食べ物、タクシー代・・・色々嵩んで借金をしてしまった。でもこの借金はよろこばしい借金だと感じている。25,000ドルかかった。本当は15,000ドルでよかったのだけれど。一生懸命働いてお金を返したい。出産は怖くないかと代理母に聞いたら、あなたがいるから怖くはないと答えてくれた。子どもを渡す心の準備もできていると思う。代理出産のことは、子どもにも話すつもり。きっとわかってくれると思う」
 依頼者女性は、年齢的に最後のチャンスとなる貴重な受精卵を自分の身体に戻すのではなく、若い女性の身体に入れることで少しでも成功の可能性に賭けたかったのだろう。医師の制止を振り切って代理母への移植を断行した。彼女は、決して富裕とはいえない。それでも彼女がとった行動を見ると、代理出産という方法が知られることで、若い女性の身体をそのように利用可能だとする認識がますます広がっていくのではないかと危惧される。さらに、
「契約書には将来、会わないと書いてあったが、代理母が望めば、会ってもいいと思っている。代理母には息子がいて、自分の息子と、代理出産の子どもと会わせたいみたいだ。しかし自分は代理母とは何の関係もないと思っている。代理母はただの入れ物。出産後も子どもに会いたいというのは、代理母の希望が強いから、受け入れているだけ。代理母が妊娠してから、最初の7ヶ月は毎日がとても長く感じた。ようやくこの日を迎えることができた」
 彼女は、自分の夫と代理母とは一回も会っていないとも述べており、代理母が新しい家族の中に入り込んでくるのをいつか煩わしいと感じる日が来るのではないか。その端緒は、「代理母はただの入れ物」という認識に現れている。出産前の期待や喜びが依頼者女性の心を一時的に寛容なものにしている可能性がある。子どもの引き渡しが完了し、依頼者の家庭で新しい生活が始まれば、代理母は不要であるどころか、むしろ障害物でしかなくなり、代理母の期待は裏切られる可能性があるのではないだろうか。
 上記のケースでは、ローカルな契約であることから、互いの侵入を避けられない面があった。だが外国人が依頼者のケースでは、出産後に至るまで、一度も依頼者の顔を見ていないという代理母も少なくないようであった。まさに、孵卵器という言葉通りの扱いである。とはいえ、代理母の側にも、外国人依頼者がもし交流を望んできたら困るという戸惑いも語られた。「自分の依頼者はトルコ人。契約書に1ヶ月に5日間だけ交流できると書いてあった。もし依頼者が来たら、自分の家で会うのか、自分の家に依頼者が泊まるのか、どうしようと思う。夫は反対するだろうし。ちょっと困る」。言葉が通じない関係では、疎遠な方が居心地がよいと考えるのも道理である。
 現在の情勢からすると、代理出産の禁止法案はブロックされたようだという。健康省の関係者は言う。「英国大使館から代理出産子の出生証明書を発行するために、グルジアではどのような書類が必要なのか、と問い合わせがあったことがある。こちらで根拠法と必要書類一覧を作成して大使館に回答した。イスラエル大使館からも頻繁に問い合わせがある。代理出産を禁止にしないで欲しいというニュアンスを感じる」。インドやタイ、ネパール、メキシコなどが外国人への代理出産禁止に動いた背景には、白人依頼者による有色人種の搾取であるという構図が批判の枠組みとして有効だったこともある。グルジアはそのような契機が欠けているうえに、西ヨーッパと近接しており、彼らからみて利便性が高いという地政学的要因がある。生命倫理委員会の報告書に関わった関係者は、「代理出産を禁止すべきとの勧告を政府に提出した後、政府は、外国から肯定派の人物を迎え入れて講演会を開いた。その後、代理出産禁止法案はびたりと動かなくなった。グルジアを本拠地とする世界的な代理出産のエージェント代表が政治的影響力を行使したのではないか」とその理由を推測した。外部からも内部からも、代理出産禁止への道はブロックされている。生命倫理委員会の報告書を読むと、代理出産禁止によって経済的打撃を被る医療機関やエージェントなどに対し、新しい職探しを援助すべきだと書かれている。しかし、不思議なことに、経済的に困窮している女性への救済策は唱えられていない。


ジョージア調査結果1


Acknowledgments:
調査にあたって下記の方々に協力いただいた。記して感謝したい。

Dr. Anastasia Zakariadze, Ivane Javakhishvili Tbilisi State University
Dr. Tengiz Verulava, M.D., PhD, ACAD.G. Chapidze Emergence Cardiology Center
Dr. Nana Kvernadze, Gynecologist, Infertility specialist of MD, Neo-Est, Medical Center "Open Heart"
Ms. Tamuna Gabunia, Medical Coordinator of New Life Georgia
Dr. Marina Darakhvelidze, Head of Health Care Department of Ministry of Labour Health and Social Affaires of Georgia
Dr.Vakhtang Akhaladze, MD, PhD, SciD, Dr.h.c.,Rector of Georgian Patriarchate St. King Tamar University
Mr. Konstantine Tsereteli, Tbilisi Free University



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by technology0405 | 2016-02-06 16:42 | field work | Comments(0)

オーストラリア調査

2013年、タイでオーストラリア人カッブルが代理出産で産まれた双子のうち障害があった男児を置き去りにした事件が発覚した。この事件によってカップルは国際的非難を受け、オーストラリア政府も国際的な代理出産や自国内での代理出産について、再考を迫られている。
 オーストラリアではほほ全ての州で利他的代理出産(altruistic surrogacy)が認められてきた。利他的代理出産とは、姉妹などの家族やごく親しい友人が代理母になり、代理母は依頼者から医療費や交通費、休業分など、必要経費のみの支払いを受ける。出産後、代理母が法的母親となる。代理母の心変わりが認められており、一定期間の後、心変わりがなければ、裁判所のparental orderによって、依頼者は法的親となることができる。代理出産の広告は禁止され、文字通り利他的なケースに限り、比較的厳格に行われてきたことから、オーストラリアにおける代理出産の実施件数は年間十数件に留まってきた。一方、異性愛カップルのみならず、ゲイカップルなど、代理出産を利用したい人々は増加しつづけており、海外での利用はその数十倍(数百人規模かそれ以上)にも及んできたと思われる。オーストラリア出身者は、商業的代理出産の利用者として世界的にも突出している。
 オーストラリアの多くの州で、商業的代理出産は禁止されており、海外での商業的代理出産の利用に対し、処罰規定を持つ州もある。しかし、商業的代理出産が疑われると裁判所で指摘を受けたケースは複数例あるものの、実際に処罰を受けたケースは「これまでない」(Mr.Sam Everingham)という。例えば、インドでは依頼者の名前で出生証明書が発行され、タイの場合は代理母が母親になる。領事館などでDNAテストを実施し、依頼者との遺伝的繋がりが証明できれば、代理出産子は市民権を獲得し、オーストラリアへの入国ビザの発行を受けることができる。
 オーストラリア入国後は、依頼者と子どもは、"親子のような形"で生活をしている。海外で代理出産を利用した場合、依頼者と子どもの間に正式な親子関係は認められていない。養育の実績を積んだ後、裁判所で保護者(guardianship)としての資格を申請することができる。これには多大な時間とコストがかかる。たとえ保護者としての資格を得たとしても、子どもが18歳の成人後、その関係は消失する。家庭裁判所の判例を見ると、インドやタイなど海外で商業的代理出産を利用して子どもをもうけたケースで、保護者としての資格を求めて申請した事例が散見される。ゲイカップルなども含めて、ほとんどのケースで依頼者に対し子どもの保護者としての地位が認められているが、裁判過程では、代理母への支払い金額などの確認がなされ、商業的代理出産の疑いが濃いと指摘されているケースが複数例確認できる。そのように指摘されたケースでは、実際に裁判所から検事に書類が送付されている。また、裁判では、契約書が英語で書かれており、外国人の代理母が内容を理解していたかどうか疑問があることや、代理母の署名が拇印だけとなっており、文字の読み書きができていない、このために説明の上、同意がきちんと取られていたか不確かなケース、そして、代理母の意思を確認するため裁判所から電話での連絡が試みられたと思われるケースや、契約書に書かれていた代理母の住所を追跡したところ、偽りのものであったと記載されているケースがあった。このように、海外で行われた代理出産では、代理母の意思を確認するうえでさまざまな障害があり、適正な形で代理出産が行われたかどうか、疑問が浮上したことが指摘されている。だが、最終的には子どもの福祉の観点から、依頼者に対し保護者としての地位を認める判断が下されている。
 海外で行われた場合、代理母の意思確認が不在であるという問題を抱える一方で、依頼者の権利を強化しようとする動きもある。タイの事件よりも前の報告書だが、家族法の改訂論議の中で、海外の代理出産では、親子関係の安定という点から見て不備があることが、指摘されている。タイの事件を受けて、連邦政府では現在、代理出産の問題について検討するため関係者に意見聴取を行っている。
 海外でのスキャンダルを受けて、国内で商業的代理出産を合法化すべきであるとの声がにわかに大きくなっている。国内での代理母不足を解消するために代理母に報酬を支払うというもので、この図式をMillbank氏らは、"compensated surrogacy"と呼んでいる。これに対し、言葉だけ言い換えたものに過ぎないという批判もある。「法律家やエージェント、クリニックなど、儲かるから主張しているだけだ。儲からなければ誰も主張しない。他人のために子どもを産みたい女性なんていない」とある研究者は言う。代理出産にはさまざまな問題かあるが、なかでも、代理母と子どもの結びつきは無視できないものであり、代理母の子どもへの影響もある、という。「インドの研究では、代理母の子どもが、お金はいらないからお腹の子どもを渡さないでと母親に訴えたという例もある。母親が子どもを売って買った家に住んで、何を感じるだろうか。子どもの多くは、見ていても、何も言わない」(Dr. Sonia Allan)。オーストラリア社会にも貧富の格差はあり、代理母への支払い額が高騰することによって、新興国で生じた問題が国内に輸入される可能性がある。
 ドナー情報に関しては、先進例とされるビクトリア州で新たな動きが起こっている。全てのドナー情報をretrospective accessを一切の例外なしに認めるべく、議会で審議が進んでいる。匿名時代のドナーの個人情報は、それを必要とする子どもに対し、公開されることになる。ただし、ドナーと子どもには拒否権が認められており、突然、家のドアをノックするようなことがあれば、その者は処罰される。
 Sonia Allan氏によれば、ドナーからの子どもで、ドナーやその家族との交流を望む者は実際にはそれほど多くはなく、ドナーがどういう人物か確認し、自分のために情報を入手したいだけなのだという。また、マッチング組織では、子どもではなく、むしろドナーの方が熱心に交流を望むケースもしばしばあるという。
 精子提供で産まれたある男性は、筆者のインタビューに対し、次のように答えた「性教育を受ける前の14歳頃に両親から告知され、非常に大きなショックを受けた。その後、その話は一切、親にしていない。弟も別のドナーから産まれているが、その話をしたことはない。ドナーの情報が欲しいという気持ちは強く持っているが、クリニックには問い合わせをしていない。ドナー情報は既に廃棄されていると思うし、医療関係者を信用していない。父親に対しては、知る前から何となく違和感はあった。その分、母親は過保護・過干渉。自分の子どもではないと知りつつ育ててくれた父親には感謝していて、両親を傷つけたくないからドナーに興味があることは親に伝えられない」。子どもにはできるだけ幼い頃からリラックスした環境の中で繰り返し伝えて行くことが望ましいとされている。この例は、告知が失敗した例に分類されるかもしれない。このように、告知にはリスクがあるが、告知しない場合のリスクももちろんある。
 医師らはドナー情報の公開に反対しているが、それは、ドナーと医師の信頼関係を崩壊させるだけでなく、過去、医師の精子が大量に用いられたケースがしばしばあり、ずさんな管理が明るみになることを恐れているためではなかと指摘する声もあった。実際には、ビクトリア州だけでなく、その他の州でも、ドナー情報を回収しようとする政府の動きを警戒し、過去のドナー情報の多くの部分が廃棄されている。それ以前にも、ドナー情報は、エイズが流行した80年代に責任追及を恐れたクリニックによって破損されているという。過去の情報が破損されていればアクセスすることはできず、ドナー情報を例外なく公開するという政策は、形式だけのものにとどまる。とはいえ、近年は、断片的な情報から、googleやfacebookなどでドナーを突き止めることができる可能性があり、"ドナーの匿名性"という概念は、過去のものになりつつある。
 ビクトリア州で極めて先進的な動きが認められるものの、一方でNSW州では、ドナー情報のretrospective aceessや、出生証明書へのaddendumへの記載は、inquiryの議題としてあげられたものの、却下されており、ビクトリア州の動きには追随していない。子どもはドナー情報にアクセスする権利があるという考えは、オーストラリアでは、共通認識となっているが、各州でばらばらな対応が見られ、donor registry systemの導入を法律に定めたにもかかわらず、実際にdonor registryを運営できていない州も存在する。NSW州では、2010年からdonor registryが導入されたばかりであり、ドナー情報へのアクセス権を持つ子どもは5歳になったばかりである。ドナーからの家族数の制限などを実効性あるものとするためには、donore registryを連邦政府が管理することが望ましいが、連邦政府も上から実行するだけの政治力がない状態だという(Dr.Sonia Allen)。ドナー情報の管理体制やアクセス権の担保は、数年、数十年かけて構築されるはずのものであり、子どもの権利として承認したオーストラリアですら、十全なシステムの構築に向けていまだ道半ばである。

Acknowledgements:
調査にあたって下記の方々に協力いただいた。記して感謝したい。

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Dr. Anita Stuhmcke, University of Technology Sydney
Dr. Isabel Karpin, University of Technology Sydney
Dr. Jenni Millbank, University of Technology Sydney
Ms. Kirsty Barber, Donor Program Manager of IVF Australia
Ms. Michelle, Solo Mum by Choice
Mr. Sam Everingham, Family through Surrogacy
Dr. Sonia Allan, Macquarie University


Link
Dr. Sonia Allan (Macquarie University)へのインタビュー

平成27年度 厚生労働省 子ども・子育て支援推進調査研究事業諸外国の生殖補助医療における法規制の時代的変遷に関する研究

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by technology0405 | 2016-02-02 12:58 | field work | Comments(0)
各国のARTに関する資料や記事を集めています (※ このブログに書かれている情報の信ぴょう性は各自でご判断ください)