人気ブログランキング |

東南アジア経済圏での多国籍化した代理出産ビジネス


2014年8月、タイで代理出産がらみの二つの外国人スキャンダルが明らかになった。

一つ目は、オーストラリア人依頼者による代理出産子の遺棄事件であり、二つ目は、富裕な日本人依頼者が代理出産で何人もの子どもを得ていたという事件である。後者は、一時は人身売買や臓器売買との関わりも疑われた。この事件をきっかけにタイの代理出産業界は大混乱に陥った。軍事政権による急な摘発を恐れて音信不通となったエージェントもあったという。混乱の渦中、妊娠した身体を抱えて依頼者が子どもをちゃんと引き取りにきてくれるかどうか、不安に駆られた代理母たちもいた(Elina Nilson)。

タイ政府は、2015年始めから外国人への代理出産を禁ずる法律を施行した(但し、国内向けには禁止されていない)。タイでは代理出産は仏教の善行を意味する言葉と結びつけられ、不妊で困っている人々を助ける善い行いであるという考え方もあったが、醜聞と違法化によって、ネガティブなイメージが付着することになった。

タイが商業的出産の舞台として、その幕を閉じようとしていたその時、タイで代理出産ビジネスを開始したエージェントA社がある。もともとIT関係の仕事をしていたという経営者は、タイを中心に、東南アジア諸国と幅広く取引があり、そのネットワークを代理出産サービスの提供にも生かしている。ゲイカップルを中心に年間100組くらいのクライアントを扱っているという。「自分は代理出産の依頼者ではないが、人々が遺伝的繋がりのある子どもを得ることは素晴らしいことだ、自分はその手助けをしたいと思っている」と、このビジネスを立ち上げた動機を語った。

タイで禁止の見通しが明らかになった直後から、急遽カンボジアに新たなクリニックが設立され、商業的代理出産の舞台はカンボジアに移った。移行期にはタイのクリニックに残された依頼者の受精卵をカンボジアまで運び、タイ人代理母がカンボジアのクリニックまで移動して移植が行われていた。その後、タイ政府の監視を避け、タイ人代理母の出産はカンボジアで行われることもあった。この結果、カンボジアで出生したタイ人代理母の子どもの出国手続きに依頼者が手間取り、数ヶ月もの滞在を余儀なくされた日本人依頼者のケースも確認されている。こうしたトラブルは事前に十分に予測されるものであったが、こうした無責任なエージェントは後を絶たない。

2013年、インドの市場が外国人に対し規制を強化したことによって、タイに矛先を変えたゲイカップルや白人の外国人依頼者がタイで急増し、卵子ドナーを南アフリカやイスラエル、東ヨーッパなど、遠方の国から調達してタイで採卵するという方法が常態化していた。このとき、代理出産のプロセスが一国で閉じることなく、断片化する端緒が拓かれていた。卵子ドナーのリクルート、採卵、代理母のリクルート、受精卵の作成、受精卵の選別、受精卵の移植、代理母の出産と子どもの出国手続き、これらは必ずしも同じ場所で行う必要がない。つまりは、これらを別々の国で行うことで断片化し、規制する側から見えなくする効果も期待できる。A社は、東南アジアでも(軍事政権後は厳格化したとはいえ)比較的自由な国際都市バンコクに本拠地を置くことで、東南アジア全体を視野に入れた代理出産サービスの司令塔の役割を果たしている。

バンコクに本部を置くA社ではタイでの規制強化後、カンボジアでの代理出産サービスの提供を主導してきた実績を持つ。海外の顧客から依頼を受け、クリニック、代理母の手配、子どもの出国に関わる書類手続きの援助を行う。実際には、カンボジア人代理母のリクルートや妊娠中のケアは現地の個人ブローカーが行っている。A社にも代理母を紹介していたというカンボジア人のブローカーB氏は、カンボジアでは外国人エージェントのために代理母をリクルートする彼のようなエージェントが数人はいるという。B氏によれば、その多くが男性である。というのも、代理母をリクルートするために田舎の方まで泊まりがけで行動することも多く、女性だとこの商売は難しいという。但し、実際の説得や出産時のつきそいなどは女性のスタッフに手伝ってもらうこともある。また、カンボジアでは子どもの売買は処罰の対象となっているが、代理母になる女性たちは体外受精の仕組みについて、どのくらい理解しているのだろうか。B氏は「どうせお金のためなのだから、そんなことは、理解していようがいまいが、彼女たちに関係がない」と、女性たちが自分たちが行っていることについて、詳しいことは理解していないとしても、それは大した問題ではないと断定した。カンボジアで代理母になるのは離婚した女性であり、自らの困窮に加え、親がつくった借金の肩代わりを求められている女性も多い。たしかに、B氏が言うように、依頼者の受精卵を使う代理出産の意味を彼女たちが理解しようがしまいが、女性たちの選択には何ら変わりはないのだろう。一般にカンボジアでは女性に対する道徳的縛りがきつく、結婚している女性が、夫以外の子どもを孕むことになる代理出産に従事する可能性はほとんどない。代理出産は、売買春と同じように特殊な女性しか手を出さないビジネスになっているため、代理母の供給には限界がある。体外受精は一般のカンボジア人には知られておらず、同じ仏教国でありながらも、タイとは異なり、代理出産はよい行いだという考え方は存在しない。

B氏は、外国人エージェントに代理母を紹介し、800ドルから1,000ドルくらいの仲介料を取っている。だが、現地のブローカーに対しきちんと謝礼を支払わない外国人エージェントもいるという。B氏のビジネスは、外国人に主導権を奪われるケースが多く、その分順調ではない面もある。また、カンボジア人代理母たちも、報酬として1万ドルもらえると聞いていても、実際には約束の金額をもらえないケースも少なくない。A氏によれば、そのようなケースで、怒った代理母が子どもを連れて逃げたトラブルがあったという。B氏は、自分のところでは、妊娠した代理母は、指定する部屋で生活を義務づけ、代理母が逃げないように誓約書で縛り、親戚などの居所もきちんと押さえておく、と付け足すのを忘れなかった。

カンボジアには、人身売買を処罰する法があり、カンボジア国籍を持つ日本人依頼者がタイで代理出産を依頼して十数人もの子どもを得ていた事件が人身売買との関連を疑われたこともあり、早い時期から商業的代理出産は人身売買であると政府から警告が発せられていた。カンボジアでの代理出産は早くからグレーゾーンに位置付けられ、そのことが、外国人依頼者の抑制にもつながっていたが、国内で代理出産の利用が難しい先進国の依頼者らが、グレーゾーンと知りつつも、カンボジアを訪れていた。その結果、生まれた子どものビザ取得や帰国問題に関し、各国の領事館などは、カンボジア側で準拠する法がなく対応に苦慮してきたと思われる。

こうした事態に対処するため、オーストラリア大使、ドイツ大使、フランス大使なども招き、2016年8月下旬、代理出産に関する政府会議が持たれ、本格的な法規制に向けて動き始めたことが報じられた(Cambodia Daily)。だが、肝心のカンボジア政府は「カンボジアでの代理出産の実態について、政府では何も把握していないし情報がない」(Ministry of Women's Affiare)という。一方、UNFPAのDr.Mark Derveeuw氏は、女性や子ども、依頼者を保護するために、外国人向けの商業的代理出産は禁止されるべきだが、カンボジア人は先端技術の恩恵を受けられるようにすべきだという。インドやタイ、ベトナムなどでも既に同じような趣旨の法整備がなされており、諸外国の意向も汲みつつ、カンボジアでも似たような規制が導入される可能性が高い。

バンコクのA社では、このような動きは既に読み込み済みであり、バックアッププランとして、ラオス(首都ビエンチャン、一人あたりGDP1,725ドル)、ミャンマー(首都ネーピードー・ 一人あたりGDP1,113ドル)での代理出産プログラムの構築が最終段階に入っている。これらの国々での代理母の手取りはタイやカンボジアよりももっと少ない。東南アジア諸国の養子法や国籍法、家族法など、関連する法律を常に調査しているが、だいたいどこの国も似たようなものだ、と経営者の男性は慣れた様子で言う。現地は、明文化された法よりも、人々の私的なつながりの中で賄賂と呼ばれる金銭が流通し、物事が曖昧に処理されていく社会である。そして、依頼者の母国側にしても、現地の領事館の協力がとれれば実際には手続きは容易だという。依頼者と子どもに対する人道的配慮を優先し、たとえ母国側では代理出産を禁止していても、代理出産子への母国への入国手続きについて、穏便に処理できるよう、協力する領事館は多いのだという。代理出産のプロセスは東南アジア諸国にちらばって断片化しており、タイ政府からはプロセスの全貌がつかめないようになっている。

これまで、筆者は多くの個人エージェントやタイ人代理母たちにインタビューを行ってきたが、その多くが違法になったことをきっかけにコンタクトを取ることが難しくなった。タイ政府の締め付けは功を奏している。しかし、それでも、依頼者がいるなら代理母にチャレンジしたいと積極的に売り込むタイ人女性もいた。エージェントを挟まず、依頼者と直接に取り決めるならビジネスにならず違法ではないと理解する女性もいる。皮肉なことに、連日のようにメディアを賑わしたスキャンダルをきっかけにそのようなビジネスの存在を知った女性も少なくない。妊娠出産は「母性」に基づく無償の行為だとされてきたが、いまや他者によって代替可能なものとなり、それもわずかな値段がつくだけのものに成り果ててしまった。違法だと知りつつ、それでも代理母に志願せざるを得ないタイ人女性は、最も困窮した人々である。その上、ラオスやミャンマーといった、もっと所得水準が低い国々の女性たちも代理母産業に参入しつつあり、妊娠出産の対価に下方圧力が掛かっている。2014年に出産したというタイ人代理母の中には10万バーツ(約27万円)しかもらっていないという女性もいた。上からの禁止命令と下からの価格競争にさらされたタイ人代理母は、多国籍化した代理出産ビジネスの末端に置かれ、容易に搾取されうる存在となっている。


Multinational surrogacy business among southeast Asian countries.

On Aug 2014, two surrogacy scandals in Thailand were reported worldwide through media. One case was entitled Baby Gammy scandal. Australian intended parents got twin through surrogacy, but abandoned the other baby boy because of his disability. Another case was that a Japanese single man asked surrogacy repeatedly and as a result he had more than a dozen of children. Human trafficking was suspected regarding the Japanese man’s case, but finally there was no evidence. Following these two scandals, The Thai government closed commercial surrogacy for foreign clients at the beginning of 2015.
However, the lucrative business is still ongoing in the area of southeast Asia. Soon after the scandals were disclosed, financed of the surrogacy industry discovered Cambodia as an alternative destination to Thailand. There is no regulation on assisted reproductive technology as well as IVF surrogacy in Cambodia. Hastily an IVF clinic was established in Cambodia, and embryos created and kept at an IVF clinic in Thailand were transferred to Cambodia. Embryos were transferred to Thai surrogates and then delivery was happened in Cambodia subsequently. There were no prior practices in Cambodia and therefore the problem of legal status was happened among resulted child. Some agents did not think sufficiently beforehand and as a result, Japanese clients got involved in such trouble as well.
Since many foreign clients, such as single and Western gay couples, were asking surrogacy in Thailand, they asked egg donor from south-Africa, Israel, eastern Europe. The Egg donor traveled to Thailand and the egg retrieval procedure was conducted there. Surrogacy process has thus been fragmented. Namely, surrogacy process was divided into egg donor from worldwide, surrogate mother recruited from emerging countries, embryo creating, embryo transfer, and delivery. Each procedure can happen in a different country.
One Surrogacy Agent A, who stared the business in Bangkok soon after the scandals happened in 2014, has adopted this scheme. Using this scheme, the company has managed the whole surrogacy process in Bangkok and sent Thai surrogates to Cambodia.
On Aug in 2016, local media reported that the government of Cambodia will create a law regarding surrogacy and they will have a meeting on this. The meeting will be attended by the Australian, German, and U.S. ambassadors in addition to the ministry of women’s affaire of Cambodia, the ministry of internal affaire of Cambodia and so on. It is assumed that the intended parents from these countries were facing immigration issues with their offspring in Cambodia and they need a law to resolve this problem. Dr. Mark Derveeuw, a representative of UNFPA, suggested that Cambodia should set up a law regulating surrogacy to protect the interested parties. His opinion is that commercial surrogacy for foreigners should be banned, but altruistic surrogacy between local people should be permissible. This rule is almost the same with other emerging countries such as India, Thailand and Vietnam, so it is very a very feasible option for Cambodia.
Sooner, Cambodia will soon close the door for foreigners, but there are already alternatives. An owner of surrogacy agency A, which is located in Bangkok and where surrogacy process is managed, has a plan to execute surrogacy in Laos and Myanmar. In both countries, there are many women who have been suffering from poverty and they can be prospective surrogates. Moreover, they might be paid less than Thai surrogates. There is no law regarding IVF surrogacy in both countries. The owner of agent A said the company has enough experience and achievements in this field already and they can deals with well. Moreover, the owner testified that if the local embassies are cooperative with intended parents, it is easier for the newborn baby to enter into the native country.
On the other hand, there are still Thai women who are willing to become a surrogate even after the prohibiting law was enacted. Ironically, some of them have learned about delivery with payment, by scandals which were disseminate though media. Formerly, women delivered the child altruistically because of the love. But now, pregnancy and childbirth is a labor for poor women with minimal payment. Therefore wealthy women can be exempted from the obligation of childbearing and they can have their own child without any physical burden.
Thai women who are willing to participate in surrogacy industry are very poor until now as well as under extremely difficult situation as then. They might be accused if the arrangement comes to light. It will become more risky, but they had no choice but to apply. Moreover, surrogate mother recruited from Laos and Myanmer will be forced to accept low payments due to poverty. Such extremely poor women are very vulnerable to exploitation even after the enforcement of statute law.


Key words: Cambodia, Thailand, Laos, Myanmer, Commercial Surrogacy


オーストラリア大使、代理母出産規制法の起草にカンボジア法務省へ協力の意向 (2016.08.03) Link

無規制の代理母出産、政府指針発表の予定―カンボジア女性省 (2016.08.27) Link

As Surrogacy Trade Grows, Government Charts Course (2016.08.26) Link





Acknowledgements:
Dr. Mark Derveeuw, representative of UNFPA in Cambodia (United Nations of Population Fund)
European Fertility Clinic
Angkor Clinic
First Fertility PGS Center Limited.
New Genetics Global Limited
Ministry of Women’s Affaire, Cambodia
Cambodia Daily




d0170396_129673.jpg



Ministry of Women's affaire, Cambodia

d0170396_1385344.jpg



Fertility Clinic of Cambodia

d0170396_1343229.jpg



UNFPA Cambodia

d0170396_1332930.jpg



バンコクの高層ビル

d0170396_1313964.jpg

マッサージをする女性


(C) Yuri Hibino 2016

by technology0405 | 2016-09-13 09:13 | field work | Comments(0)
各国のARTに関する資料や記事を集めています (※ このブログに書かれている情報の信ぴょう性は各自でご判断ください)