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女性を孵卵器として扱ってはならない−ジョージア正教会の意見

 2013年、医療ビザに関わる規制をきっかけにインドを去った依頼者が大挙して向かった先がタイであった。タイでは、体外受精を始め、代理出産に関する規制法がなく、あらゆる治療が自由に提供されていた。しかし、障がい児の置き去り事件が発生、タイでも2015年の初頭にピリオドが打たれた。その後、依頼者らはネパール、メキシコ・タバスコ州、ジョージア、カンボジアなどへと、流れていった。しかし、2015年末までに、ゲイカップルを受け入れていたネパールとメキシコ・タバスコ州は相次いで門戸を閉じた。

 ジョージアは東ヨーロッパにある旧ソ連の国であり、1991年に旧ソ連から分離独立後は、政治的に不安定で、財政的にも厳しい状態が続いている。国民所得は低く、失業率は10%を超えている。街では、仕事にありつけない中高年の男性の姿が見受けられる。ジョージア産ワインが知られているが、それ以外に国際競争力がある産業はこれといってない。

 ジョージアでは、1997年以来、代理出産は合法であり、外貨が稼げる有力産業になっている。近隣の西ヨーロッパを始め、トルコ、イスラエル、ロシア、オーストラリアやイギリスなど、さまざまな国から依頼者がやってくる。

 ジョージアのエージェントでは、子どもは依頼者のものであるということを徹底させるため、代理母は「孵卵器」であると女性たちに教え込んでいる。その言葉通り、依頼者と代理母は受精卵の移植から出産、子どもの引き渡し完了までの間、一度も顔を会わせることはない。

 ジョージアでは、離婚して子どもを抱えているなど、経済的に困窮した女性が代理母産業へと次々と足を踏み入れている。一方、正教会は、保守的な立場から代理出産に強硬に反対している。医師、大学教授でもある神父は、次のように言う。

「エージェントは、代理出産について良い事ばかり宣伝しているので、人々の考えもそれに影響されている。旧約聖書にも代理出産について書いてあると宣伝しているが、それは嘘だ。依頼者も世間も、代理出産を良いことだと教えられているので、実際の問題に気がついていない。子どもがいない夫婦に子どもを与えることなので良いことだと言っている。自分のところにも依頼者が相談に来たことがあるが、代理母と子どもの繋がりが深いことを教えると、代理出産を依頼することを諦めたことがあった。」

「代理母と子どもは関係がないというのは、医学的に見ても完全な間違いだ。遺伝的に違う受精卵を受け入れると、母体と子どもに対し悪影響を及ぼす。細胞に影響に与えて、毒になる。別の言い方をすれば、受精卵を他の女性の体に入れることは、植物を植え替えるのと似ている。代理母の体は受精卵を排除しようとするが、受精卵は、着床しようと努力している。受精卵は、生き残ろうとして戦っている。そのことが子どもの心身に影響を及ぼすと思う。そのために出産後、何年後も、代理母と子どもの関係を証明することができる。代理母と子どもは、生物学的には深く繋がっている。そして、代理母の感情は子どもに伝わる。遺伝的関係より生物学的関係のほうが重要だ。授乳は母親だという証拠の一つ。」

「それなのに、エージェントは、代理母は孵卵器だ、あなたの子どもではないと教えている。だから、代理母は自分のことを孵卵器だと思っている。そのように考えている女性のお腹の中で胎児は成長していくことになる。そのことが子どもに影響しないといえるだろうか?」

「しかし、最終的にはいくらトレーニングしても、身体はそれを受け入れない。
妊娠中の女性は特別な精神状態にある。出産後は特に精神的に脆弱でそのような時期に依頼者に子どを奪われることによって、女性は大きなダメージを受ける。」

「女性にこのような仕事をさせるのは女性の尊厳に関わることだと思う。フェミニストは女性の権利をさかんに主張しているが、代理出産にもっと反対すべきだと思う。女性を孵卵器として扱ってはいけないと思う」

上記の神父は、医師でもあるため、医学的根拠を示して反対している。いずれにしても、正教会では、代理出産を罪悪視しており、代理出産で生まれた子どもには洗礼を与えない、という強硬な意見もある。一方、正教会では、教主が代理出産を批判するあまり、代理出産で生まれた子どもに対する偏見を煽るような発言を行い、関係者から猛反発を受けたことがあった。

 だが、「家にお腹を空かせた子どもがいるので、背に腹は代えられない」と元代理母の女性は言う。エージェントのスタッフ女性は、「この仕事をやる女性は、”何か”を乗り越える必要がある」と証言する。 “何か”とは、道徳心のことだろう。
 ある代理母は、顔全体が隠れる大きなマスクをして現れた。誰にも知られたくないという決意の表れであろう。彼女のクライアントは日本人だという。しかし、これまで一度も会ったことはない。「お金の問題があって、代理母をしているが、代理出産だからといって特別なことはない。自分の妊娠の時と全く同じように感じる」と証言する。産みの母親と子どもが特別な関係にあることは、代理母自身がよく知っていることだ。

 妊娠出産は女性にとって命がけの行為である。しかし、それだけではない。彼女たちは9ヶ月分の対価として1万ドルの報酬を貰うために、自分の身体を使って、道徳的に”正しくない”ことをさせられているのである。そのことを、外国人の依頼者は知るよしもない。

 ジョージアでも、外国人への代理出産を禁止する法案が提出されようとしたことがあった。しかし、水際で阻止された。国内で、賛成派と反対派の間で政治闘争が繰り広げられており、代理出産に関し、細かなルール変更がたびたび行なわれている。最近行われた法改正によって、何ヶ月も滞在延長を余儀なくされる依頼者が続出し、大きな混乱が生じた。現地のエージェントですら知らない間にこうしたルール変更が行なわれていることは、渡航者にとって大きなリスクである。

 ジョージアでも、代理出産が禁止される可能性があるが、ゲイカップルなどが押し寄せ、すでに黄色信号が灯っているカンボジアに比べればまだその可能性は少ない。グルジアではもともと異性愛カップルにしか代理出産を認めていない。また、カンボジアを始め、白人による植民地支配を経験した国々では、代理出産はセンシティブな問題をはらんでいる。

 国内最大の反対勢力である正教会は、代理出産を道徳的に非難する一方で、代理母にならざるをえない貧しい女性への経済的支援を唱えることはない。微細な規制を導入することで妥協点を見出し、商業的代理出産の是認という大枠は変わらないままだ。タイが門戸を閉じた後、グルジアは数少ない選択肢の一つであり、代理出産を禁止しないよう、諸外国の領事館から暗に圧力もある。まさに「背に腹は代えられない」グルジア政府のジレンマを示している。日本人エージェントを頼って日本人依頼者が渡航しており、その数は漸増していくだろう。グルジアは、世界中の依頼者からリーズナブルな渡航先と認識されている。

Link
「代理出産のユートピア ジョージアに向かう日本人」『週刊ダイヤモンド』(2016年6月11日)

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by technology0405 | 2016-06-08 16:05 | field work

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