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カンガルーの袋〜代理母になった母から子どもへ〜

The Kangaroo Pouch: a story about surrogacy for young children

この絵本は親族のために代理母になった女性が自らの子どもに説明するために執筆したものである。

ストーリーはシンプルである。

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夫と2人の子どもがいて幸せな生活を送っているカンガルーの母親が、子どもがいないカンガルーの夫婦を見て気の毒に思い、彼らのために自分の袋を使って子どもを育てることを思いつく。
子どもが誕生するためには、男性の細胞と女性の細胞、そして子どもを入れる袋が必要であることが説明されている。
自分の袋の中で子どもを育て、子どもが出てきたら子どもがいない夫婦に子どもを返すというのだ。
母親が父親に説明し、父親は良いことだと賛成してくれている。
袋の中に子どもがいるとき、依頼夫婦の声を聞かせたりして妊娠期間中を過ごす。
代理母と子どもは普段の生活を送りながら、袋の中の子どもに冗談を言ったり話しかけることもある。
ある日、袋の中の子どもは、準備が出来たと見えて、袋から出てくる。
依頼した夫婦に子どもを返したとき、彼らはとてもハッピーになって大喜びの様子が描かれている。
カンガルーの家族は、その後もとの幸せな生活に戻った。


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大抵の代理母は、自分の家族を持っている。
このため、代理母になる女性は、夫を説得し、自身の子どもへ説明して納得させる必要がある。
妻が代理母になると聞いてあまりよい気持ちがしない夫は少なくいのではないかと推測されるが、
夫は大人であるから代理出産の意味を理解できるだろう。
しかし子どもはどうか?
母親のお腹が大きくなっていくのを見て自分の兄弟姉妹が生まれてくると期待するのが子どもの自然な反応である。なぜ生まれてきたばかりの子どもを他人に渡さなければならないのか、理解したり納得したりすることが難しいかもしれない。母親が生まれた子どもを他の夫婦に渡すのを見て、自分も母親からいつか捨てられるのではないか、とトラウマになる子どももいるという。依頼者の子どもだからと説明しても、感情面で理解することが難しいかもしれない。
この絵本は、利他的な代理出産のケースだが、その行為に金銭が絡んでいるとするなら一層、複雑である。子どもはお金と引き換えにいなくなった、つまり、お金のために子どもは売られていったことになる。そして、自分の母親はそのようなことをする人間であるということになり、子どもの安心感は失われる。「お金はいらないから、子どもを渡さないでほしい」と母親に訴えた子どももいるという。貧しい母親は自分の子どもの将来を思って、代理母になって金銭を得ようとする。しかし、子どもは全く違う側面を見ている。世界で行なわれている代理出産のうち、真に利他的なケースは少なく、その大部分が、金銭が絡んだケースである。金銭が絡んでいるからといって利他心がないというわけではないが、金銭的対価が大きな動機になっている。そのことが、子どもに与える害を考えてみるべきである。

こうした絵本が存在しているということ自体、母親が代理母になる/なったことを子どもに納得させることが容易ではないということを示している。

代理出産という行為には、依頼する側と依頼される側、二つの家族が関わっている。
代理母になる女性の子どもだけでなく、代理出産で生まれてきた子どもに対する説明も必要になる。
互いの子どもに対し、どのように真実を伝えていくか。
代理出産という行為を、大人の視点ではなく子どもの視点から考えていかなければならない。


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by technology0405 | 2016-04-25 11:29 | Book

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