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告知の失敗? 〜出自を知る権利をめぐって〜

オーストラリアは精子や卵子の提供、代理出産などに関して日本よりもはるかにオープンな社会である。
とくにビクトリア州は、出自を知る権利について先進的な取り組みで知られ、2017年から過去に行われた全てのドナー情報がオープンになる。親の側に告知を義務づける法律はないが、告知をすることが望ましいというコンセンサスがあり、親も告知することを自然なこととして受け入れている。以下は、精子提供で生まれたことを両親から告知を受けたシドニー在住の若い男性による証言である。

「11歳か12歳のとき、精子提供で生まれたことを知った。両親の前に座らされて、父親は遺伝的父親ではないことを告げられた。弟がいて、弟は別のドナーからの精子提供で生まれている。弟も5年後に同じように告知されたようだ。父親とは何となく違うと前から感じていた。例えば父親は数学とサッカーが好きでできるが自分はできない。自分はクリケットが得意だが父親はできない、など。思春期になる前で同性のロールモデルが必要な時期に告知された。とてもショックで、そのとき、何も話せなかった。その後、両親とこの話をしたことはない。弟ともこの事については一切話したことがない。このことについて10年あまり考えつづけて、やっと1年前からグループで自分の経験を話すようになった」

告知は、思春期前のできるだけ早い時期に行うのが良いとされている。マニュアルに沿った形で、両親は告知を行ったものと考えられる。だが、それはもしかしたら遅かったのかもしれない。また、できるだけリラックスした環境の中で行われるのがよいとされている。だが、このケースでは両親の前に座らされ、とてもリラックスした雰囲気の中で真実告知が行われたとは思えない。彼はこの事実を大きなショックをもって受けとめたが、それを両親に告げることなく、思春期を過ごした。

「親は子どもに嘘をつかないで欲しい。自分の場合は、父母がそろって話をしてくれたので幸運だったと思う。当事者グループの人たちは、父親が死んだ後とか、離婚した時とか、人前でとか、いろいろな状況で突然知らされた人もいる。そういうのはよくない。あくまでも計画された状況で告知されるのが望ましい。家の中でリラックスした状況の中がいい。自分は11歳で知らされたが、実際にはもっと早いほうがいい。早ければ早いほどいいと思う。」

告知を受けたことで大きなショックを受けたというが、告知されたこと自体はよかったと受け止めている。

ドナーについてはどう思っているのだろうか。

「ドナーについては是非とも知りたいと思っている。ドナーの情報については、個人を特定しない情報については生まれた病院から得ることができる。弟とはドナーが違うので、弟とこの話は一回もしていない。親が病院に申請すれば、もう少し色々情報が貰えるのかもしれないが、やっていない。理由は、両親にドナーの情報が欲しいと言えていないから。父親はドナーの情報が知りたかったら協力すると言ってくれた。しかし、父親を傷つけるのではないかと思い言い出せていない。ドナーは、二人目の父親ということはない。父親の兄弟とか、おじさんとか、家族の友人とか、そんなイメージ。ドナーには会いたい。家族が落ち着いたときいずれ話をしたいと思っている。」

ドナーから生まれたという事実を知ったとき、ドナーを知りたいという人がいる。とはいえ、実際には同じドナーから生まれ、同じ家庭で育った兄弟姉妹でも、ドナーに対する興味の程度は違う。一人はとても興味があるが、もう一人は全く興味がないということもめずらしくないという。しかし、若い頃には興味がなくても、のちに結婚や子どもの誕生などをきっかけにドナーに興味を持つようになることもある。一般に、ドナーを自分とは無関係な他者として、生涯いっさい関心を払わない人は少数派ではないだろうか。

父親についてはどのように思っているのか。

「父親と目の色(母とは同じ色)や趣味が違うことや父親の親戚とも違うことについては、よく意識しているが、母親と違うことについてはあまり意識しない。母親とは近いが父親とは遠い。母親とは考え方や仕草などよく似ている。しかし父親のことはとても尊敬している。自分の子どもではないと知りながらも愛情を注いでくれたから。」

父親とは距離があると述べている。また、遺伝的に違うということを意識することが多いという。自分を遺伝的つながりがないことを知りながらも誠実に育ててくれた父親には感謝し、尊敬しているという。

彼は、告知をしてくれた両親には感謝をしており、表面的には良好な関係を築いている。しかし、内心では大きなショックを受けており、さらにそのように傷ついていることを両親に悟られないように一層気を使っている。両親が思い切って告知をしたことは評価できることかもしれないが、彼の事例からは、告知の方法や時期などは、非常に繊細な問題であることがわかる。そして、真実を知ったことによって彼が影を背負ったことは認めざるをえない。

気をつけなければならないことは、親は告知をしさえすれば責任を果たしたことにはならないということである。むしろ、告知した時から信頼関係を構築するプロセスは始まる。告知は一度きりのものではなく、子どもの成長に合わせて繰り返し行い、なぜその選択をしたか、その選択をした結果、子どもを存在をどう受け止めているのか、親は子どもの人生に寄り添っていくことが必要である。

告知がもたらすネガティブな影響に目を留めたかといって、子どもに真実を告げないということはもはや推奨されるべきことではなく、精子や卵子の提供、代理出産などを利用して子どもを持とうとする親は、この事実について受け止めた上で、技術を利用するかどうかを選択する必要がある。


※この記事は「平成27年度 厚生労働省 子ども・子育て支援推進調査研究事業」によるものです。


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by technology0405 | 2016-04-13 11:36 | Discussion | Comments(0)
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