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利用する側の変化 (オーストラリア調査)

オーストラリア調査

2013年、タイでオーストラリア人カッブルが代理出産で産まれた双子のうち障害があった男児を置き去りにした事件が発覚した。この事件によってカップルは国際的非難を受け、オーストラリア政府も国際的な代理出産や自国内での代理出産について、再考を迫られている。
 オーストラリアではほほ全ての州で利他的代理出産(altruistic surrogacy)が認められてきた。利他的代理出産とは、姉妹などの家族やごく親しい友人が代理母になり、代理母は依頼者から医療費や交通費、休業分など、必要経費のみの支払いを受ける。出産後、代理母が法的母親となる。代理母の心変わりが認められており、一定期間の後、心変わりがなければ、裁判所のparental orderによって、依頼者は法的親となることができる。代理出産の広告は禁止され、文字通り利他的なケースに限り、比較的厳格に行われてきたことから、オーストラリアにおける代理出産の実施件数は年間十数件に留まってきた。一方、異性愛カップルのみならず、ゲイカップルなど、代理出産を利用したい人々は増加しつづけており、海外での利用はその数十倍(数百人規模かそれ以上)にも及んできたと思われる。オーストラリア出身者は、商業的代理出産の利用者として世界的にも突出している。
 オーストラリアの多くの州で、商業的代理出産は禁止されており、海外での商業的代理出産の利用に対し、処罰規定を持つ州もある。しかし、商業的代理出産が疑われると裁判所で指摘を受けたケースは複数例あるものの、実際に処罰を受けたケースは「これまでない」(Mr.Sam Everingham)という。例えば、インドでは依頼者の名前で出生証明書が発行され、タイの場合は代理母が母親になる。領事館などでDNAテストを実施し、依頼者との遺伝的繋がりが証明できれば、代理出産子は市民権を獲得し、オーストラリアへの入国ビザの発行を受けることができる。
 オーストラリア入国後は、依頼者と子どもは、"親子のような形"で生活をしている。海外で代理出産を利用した場合、依頼者と子どもの間に正式な親子関係は認められていない。養育の実績を積んだ後、裁判所で保護者(guardianship)としての資格を申請することができる。これには多大な時間とコストがかかる。たとえ保護者としての資格を得たとしても、子どもが18歳の成人後、その関係は消失する。家庭裁判所の判例を見ると、インドやタイなど海外で商業的代理出産を利用して子どもをもうけたケースで、保護者としての資格を求めて申請した事例が散見される。ゲイカップルなども含めて、ほとんどのケースで依頼者に対し子どもの保護者としての地位が認められているが、裁判過程では、代理母への支払い金額などの確認がなされ、商業的代理出産の疑いが濃いと指摘されているケースが複数例確認できる。そのように指摘されたケースでは、実際に裁判所から検事に書類が送付されている。また、裁判では、契約書が英語で書かれており、外国人の代理母が内容を理解していたかどうか疑問があることや、代理母の署名が拇印だけとなっており、文字の読み書きができていない、このために説明の上、同意がきちんと取られていたか不確かなケース、そして、代理母の意思を確認するため裁判所から電話での連絡が試みられたと思われるケースや、契約書に書かれていた代理母の住所を追跡したところ、偽りのものであったと記載されているケースがあった。このように、海外で行われた代理出産では、代理母の意思を確認するうえでさまざまな障害があり、適正な形で代理出産が行われたかどうか、疑問が浮上したことが指摘されている。だが、最終的には子どもの福祉の観点から、依頼者に対し保護者としての地位を認める判断が下されている。
 海外で行われた場合、代理母の意思確認が不在であるという問題を抱える一方で、依頼者の権利を強化しようとする動きもある。タイの事件よりも前の報告書だが、家族法の改訂論議の中で、海外の代理出産では、親子関係の安定という点から見て不備があることが、指摘されている。タイの事件を受けて、連邦政府では現在、代理出産の問題について検討するため関係者に意見聴取を行っている。
 海外でのスキャンダルを受けて、国内で商業的代理出産を合法化すべきであるとの声がにわかに大きくなっている。国内での代理母不足を解消するために代理母に報酬を支払うというもので、この図式をMillbank氏らは、"compensated surrogacy"と呼んでいる。これに対し、言葉だけ言い換えたものに過ぎないという批判もある。「法律家やエージェント、クリニックなど、儲かるから主張しているだけだ。儲からなければ誰も主張しない。他人のために子どもを産みたい女性なんていない」とある研究者は言う。代理出産にはさまざまな問題かあるが、なかでも、代理母と子どもの結びつきは無視できないものであり、代理母の子どもへの影響もある、という。「インドの研究では、代理母の子どもが、お金はいらないからお腹の子どもを渡さないでと母親に訴えたという例もある。母親が子どもを売って買った家に住んで、何を感じるだろうか。子どもの多くは、見ていても、何も言わない」(Dr. Sonia Allan)。オーストラリア社会にも貧富の格差はあり、代理母への支払い額が高騰することによって、新興国で生じた問題が国内に輸入される可能性がある。
 ドナー情報に関しては、先進例とされるビクトリア州で新たな動きが起こっている。全てのドナー情報をretrospective accessを一切の例外なしに認めるべく、議会で審議が進んでいる。匿名時代のドナーの個人情報は、それを必要とする子どもに対し、公開されることになる。ただし、ドナーと子どもには拒否権が認められており、突然、家のドアをノックするようなことがあれば、その者は処罰される。
 Sonia Allan氏によれば、ドナーからの子どもで、ドナーやその家族との交流を望む者は実際にはそれほど多くはなく、ドナーがどういう人物か確認し、自分のために情報を入手したいだけなのだという。また、マッチング組織では、子どもではなく、むしろドナーの方が熱心に交流を望むケースもしばしばあるという。
 精子提供で産まれたある男性は、筆者のインタビューに対し、次のように答えた「性教育を受ける前の14歳頃に両親から告知され、非常に大きなショックを受けた。その後、その話は一切、親にしていない。弟も別のドナーから産まれているが、その話をしたことはない。ドナーの情報が欲しいという気持ちは強く持っているが、クリニックには問い合わせをしていない。ドナー情報は既に廃棄されていると思うし、医療関係者を信用していない。父親に対しては、知る前から何となく違和感はあった。その分、母親は過保護・過干渉。自分の子どもではないと知りつつ育ててくれた父親には感謝していて、両親を傷つけたくないからドナーに興味があることは親に伝えられない」。子どもにはできるだけ幼い頃からリラックスした環境の中で繰り返し伝えて行くことが望ましいとされている。この例は、告知が失敗した例に分類されるかもしれない。このように、告知にはリスクがあるが、告知しない場合のリスクももちろんある。
 医師らはドナー情報の公開に反対しているが、それは、ドナーと医師の信頼関係を崩壊させるだけでなく、過去、医師の精子が大量に用いられたケースがしばしばあり、ずさんな管理が明るみになることを恐れているためではなかと指摘する声もあった。実際には、ビクトリア州だけでなく、その他の州でも、ドナー情報を回収しようとする政府の動きを警戒し、過去のドナー情報の多くの部分が廃棄されている。それ以前にも、ドナー情報は、エイズが流行した80年代に責任追及を恐れたクリニックによって破損されているという。過去の情報が破損されていればアクセスすることはできず、ドナー情報を例外なく公開するという政策は、形式だけのものにとどまる。とはいえ、近年は、断片的な情報から、googleやfacebookなどでドナーを突き止めることができる可能性があり、"ドナーの匿名性"という概念は、過去のものになりつつある。
 ビクトリア州で極めて先進的な動きが認められるものの、一方でNSW州では、ドナー情報のretrospective aceessや、出生証明書へのaddendumへの記載は、inquiryの議題としてあげられたものの、却下されており、ビクトリア州の動きには追随していない。子どもはドナー情報にアクセスする権利があるという考えは、オーストラリアでは、共通認識となっているが、各州でばらばらな対応が見られ、donor registry systemの導入を法律に定めたにもかかわらず、実際にdonor registryを運営できていない州も存在する。NSW州では、2010年からdonor registryが導入されたばかりであり、ドナー情報へのアクセス権を持つ子どもは5歳になったばかりである。ドナーからの家族数の制限などを実効性あるものとするためには、donore registryを連邦政府が管理することが望ましいが、連邦政府も上から実行するだけの政治力がない状態だという(Dr.Sonia Allen)。ドナー情報の管理体制やアクセス権の担保は、数年、数十年かけて構築されるはずのものであり、子どもの権利として承認したオーストラリアですら、十全なシステムの構築に向けていまだ道半ばである。

Acknowledgements:
調査にあたって下記の方々に協力いただいた。記して感謝したい。

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Dr. Anita Stuhmcke, University of Technology Sydney
Dr. Isabel Karpin, University of Technology Sydney
Dr. Jenni Millbank, University of Technology Sydney
Ms. Kirsty Barber, Donor Program Manager of IVF Australia
Ms. Michelle, Solo Mum by Choice
Mr. Sam Everingham, Family through Surrogacy
Dr. Sonia Allan, Macquarie University


Link
Dr. Sonia Allan (Macquarie University)へのインタビュー

平成27年度 厚生労働省 子ども・子育て支援推進調査研究事業諸外国の生殖補助医療における法規制の時代的変遷に関する研究

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by technology0405 | 2016-02-02 12:58 | field work | Comments(0)
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