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ジョージア調査結果

ジョージア(グルジア)は世界的に支店を展開している代理出産エージェントNew Lifeの発祥の地である。New Life Georgiaは2008年にトビリシで営業を始めた。インド、タイと相次いで商業的代理出産に関する規制強化が採られた後、増大するニーズを満たすため、2015年3月にはカンボジアで代理出産サービスを開始し、現在、経済危機に陥っているギリシアでも外国人向けの代理出産サービスを開始する準備を行っている。カンボジアでは体外受精の技術が導入されており、代理出産を禁止する法律がない。ギリシアでは利他的代理出産が容認されている。グルジアやネパール、メキシコではひと月20組ほどのカップルを受け入れており、カンボジアではもっと多く30組になるという。海外からの顧客の窓口となっている同社の女性は、次のように述べた。「代理母は口コミでやってくるので、応募してきた時点で友人から聞いてこの仕事のことをちゃんと理解している女性がほとんど。女性には"依頼者の子ども"だと常に言い、妊娠出産の対価として報酬をもらっていることを忘れないようにする。代理母の卵子を使った代理出産はしない。代理母には裁判をしても絶対に勝てないと念を押してある。なぜならDNAテストをすれば代理母の子どもではないことは明らかだから」(Ms. Sophie Ukleba)。同社では代理出産サービスを快適に提供できる地を求めて世界中の法律について調査を継続している。体外受精技術が存在し、安価で代理母を調達できる地で、現地のスタッフを雇い入れて代理出産サービスを次々に開始しており、法規制の急な導入に備えたリスク分散を着々と行っている。
 ジョージアでは1997年の健康保護法によって代理出産が合法化されている。生殖補助医療について言及されているのは、141条、143条、144条である。141条では、カップルと独身の女性に対し精子提供が認められること、依頼者は子どもの親となり、精子ドナーは父親として認められないことが記載されている。
143条では、体外受精、精子提供、卵子提供、代理出産が認められている。配偶子提供や代理出産を行う場合はカップルの同意書が必要。妻に子宮がなければ代理出産が可能。子どもは依頼者のもので、ドナーや代理母は親になれないことが記載されている。144条では、配偶子や受精卵の凍結保存が認められている。
 生殖補助医療について直接に言及した法律は上記のみであり、体系的に規制する法は存在しない。現行法においては、体外受精や配偶子提供や代理出産は認められており、依頼者が子どもに対する全ての権利を持ち、ドナーや代理母の権利は全く認められていないのが特徴である。ジョージアでは、このように、体外受精について非常に「リベラルな」法が採用されている(Dr. Archil G. Khomasuridze)。なぜこのように「リベラルな」法が採用されたのか、今となっては誰にもわからないという( Ms. Babutsa Pataraia)。ジョージアの法は、模範とする複数の国の法律を部分的に接合したものから成立しており、生殖補助医療について十分な理解の上に作成されたものではないことは明らかである。そもそも、ジョージアで体外受精が初めて成功を収めたのは2000年(1999年という説も)のことであり、健康保護法ができた1997年よりも後のことである。一説によれば、体外受精についての法は、ジョージアの法律作成の支援をしたカナダの法律家が導入したものだという(Dr. Irma Gelashvili)。こうした曖昧な現行法の限界を乗り越えるため、体外受精や代理出産について、近年、法務省などが規制強化に乗り出した(後述)。
 グルジアで初めての代理出産を手がけたのは2000年に開設されたHope for The Futureである。代表のMs. Tamar Khachapuridzeによれば、依頼者はグルジア人で代理母は無償でサービスに応じたという。その後、15年間、代理母のリクルートや代理母の管理に携わってきた。代理母のカウンセリングに関わっており「事前にきちんと説明する。母親は誰か。遺伝的つながりがあるのは誰か。15年前からこの仕事をやっているが、代理母に子どもへのアタッチメントの問題はない」と公式見解を述べた。しかしそれに続けて、次のような証言も行った。「もちろん色々な女性がいる。例えば、子どもは代理母に似ると考える人もいる」。しかし他人のために妊娠出産することは決して簡単なことではないと考えられ、代表によれば、代理母の心配事や愚痴に対応する必要もしょっちゅうあるという。筆者とのインタビュー中にも代理母が事務所を訪れて、「医師が検査をしてくれない。もっときちんと検査するよう言って欲しい」と彼女に依頼しにきた。他にも「出産が怖いと言ってくる代理母もいる」という。いうまでもなく、出産は命がけの行為である。出産の経験がある女性が代理母として選ばれており、出産が初めての女性はいないが、自分のための妊娠出産ではないという点が、代理母をそのように消極的にしたり、不安にさせたりする原因かもしれない。
 日本人依頼者の子どもを妊娠しているという代理母(36歳)は、次のように述べた。「夫と子ども二人(15歳、12歳)で住んでいる。卵子ドナーを3回やっている。代理出産は初めて。お金が必要だからやっているが、良い事をしているという気持ちもある。日本人依頼者には向こうが秘密を守りたいという理由で会っていない。誰の精子と卵子を使っているかは知らされていない。事前に遺伝のことなどを説明してもらって理解した。今は妊娠4週目くらいで、自分の妊娠の時と精神的にも身体的にも同じように感じている。自分の妊娠と感覚は変わらないが、受精卵はもう入ってしまったのでなれるしかない。これから依頼者に渡す心の準備をしたい」。エージェントやクリニックの人間は「事前にきちんと説明をし、代理は自分の子どもではないことをきちんと理解している」と繰り返すが、代理母に話を聞くと、それは半分事実で半分は嘘である。また、次のような代理母もいる。「離婚して3歳の女児がいる。2015年2月18日に帝王切開で出産した。女児だったが、子どもの顔もちゃんとみていない。依頼者が病院からつれていった。依頼者とは契約のときと最後の子どもをつれていった日に会ったが、言葉を交わしていない。トルコ人で言葉が通じないので。依頼者は誰でもよい。いま次の代理出産に向けて待機している。子どもについては何とも思っていない。自分の卵子ではないので自分の子どもだとは思わなかった。仕事だと思ってやっている。自分を孵卵器のようだと感じる。9ヶ月間あるので、子ども渡す心の準備をすることができる。将来、子どもが会いたいといってくれば会うが、自分はただ産んだだけだと話す」。彼女は、自らを孵卵器だと語っており、代理母という役割によく適応しているように見える。いってみれば代理母の鏡のような存在だが、それでも出産の日を正確に覚えており、彼女にとって特別な日であったことが伺える。彼女の依頼者をアレンジしたエージェント代表は、彼女は割り切っているめずらしい女性で、だから会社の広告塔になってもらっている、と語った。さらにこの代理母は次のように続けた。「自分は卵子提供はやりたくない。それでも、子どもに何日も肉を食べさせていないというような状況の女性が卵子ドナーになるのを自分は悪いとはいえない」。自らの身体感覚や倫理観に照らして抵抗があることであっても、差し迫った経済的理由があればそれを侵犯せざるを得ない女性の立場への同情を示した。また、多くの代理母が口にする「代理出産は良いことだと思う」という言葉を彼女も述べている。インタビューに同席したエージェントの事務スタッフの女性は「この仕事をする女性は"何か"を乗り越える必要がある」と口を挟んだ。代理母たちは、自らの身体を通して、伝統的モラルに対する挑戦という難事を引き受けさせられている。
 代理出産の依頼者は日本のほかにも、オーストラリア、トルコ、ロシア、レバノン、ギリシア、グルジア、リビア、イラン、中国、インド、ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、豪、マケドニア、日本、ウクライナ、イギリスなどありとあらゆる国からやってくる。隣国トルコからやってくる依頼者も多い。トルコでは代理出産ツーリズムは禁止されているが、実際には黙認されている。エージェントの女性は「トルコ大使館では代理出産だとわかっても妨害はしない」(Ms. Tamar Grazava)と証言した。また、ドイツでは代理出産が厳しく禁止されており、子どもの入国は認められない。かつて、ジョージアで代理出産を依頼したドイツ人カップルが帰国できなくなったことがあったという。長期滞在を強いられ、ビザ切れで母国とジョージアを何度も往復しなければならない状況に追い込まれた。夫婦は離婚し、提供卵子を使用していたため妻は子どもの引き取りを拒否した。夫は現地で子どもの世話をしていた女性と結婚し今はジョージアで仕事も見つけ定住しているという。しかしこのエージェントの代表によれば、最近ではドイツ大使館も協力的になっており、ドイツへの入国は可能だという。海外で代理出産を依頼する人々が後を立たず、トラブルやスキャンダルを回避するため、現地の大使館などが水面下では依頼者への協力を余儀なくされている現状があるものと考えられる。
 1997年以来、代理出産における依頼親の権利を認めてきたジョージアだが、近年、規制強化の兆しが見られる。2014年1月、法務大臣が代理出産の規制強化の見通しを明らかにした。また同月、東方正教会のジョージア総主教が代理出産について「他人の女性のお腹で育つ子どもが哀れである」という主旨の発言をし、利害関係者の反発を招いたという出来事があった。2014年1月下旬、法務省が準備していた代理出産の規制法が一部明らかになるという事件が生じた。これらをきっかけに、代理出産の問題は一般国民の間でも一大スキャンダルとなった。一部公開された法案の内容は、代理母はジョージア人に限る、依頼者はジョージア人、または1年間のうち6ヶ月以上ジョージアに滞在する外国人に限る、また依頼者の年齢は、妻は41歳まで、夫は46歳までとされているという。さらには、利他的代理出産に限られるという。これに対し「利他的に代理出産をすることは、絶対にありえない」とある法律家は反対する(Ms.Nino Bogveradze)。法律家は、「商業的代理出産が違法になれば地下に潜り、代理母が報酬をもらえなくなる恐れがある。だからきちんと規制して商業的代理出産を行うべきだ」と続けた。この規制法が導入されれば、代理出産産業は壊滅的な状況へと追い込まれる可能性がある。このため、反対派の抵抗も強く、当初2016年1月施行が目指されていた法案の審議は完全にストップした状況だという。「政府は体外受精や代理出産について理解していない」と代理出産に携わる関係者は証言し、知識が欠落した政府が規制法を導入することへの強い不信感を口にした。
 政府が規制法を導入することを考慮するようになったきっかけには様々なトラブルやスキャンダルが影響していることは間違いない。例えば、エージェントの代表が別のエージェントの代表を告発するという業界内部の競争関係に由来する不和もあった。訴えたエージェント代表によれば、当該エージェントでは依頼者の要請に応じて代理母を母親とする出生証明書の発行を行っていたという。これはジョージアでは違法である。告発したエージェントの女性によれば、「代理母を母親とするなら、代理母は子どもを依頼者へ渡さず、別の人間に子どもを売り払ってしまう可能性がある」と人身売買の危険性を強調した。さらに、同エージェントの代表は、筆者のインタビューに応じた際、この問題に絡んで次のように明言した。日本で将来、代理母が母親だという法律ができたなら、トラブルの元になるのでうちでは代理出産を引き受けない、と。
 代理出産の規制法はいつ成立するかわからない状況だが、既に法務省では規制強化を実行に移しており、代理出産の契約書をチェックするケースが見られるという。また、代理母、ドナー(使用した場合)、依頼者の関係者全ての署名が入った契約書が必要であり、契約書には公証人によるサインも必要になる。この規制を知らずに契約書を交わした依頼者が子どもの親と認められず、子どもは児童保護施設に送られたという。裁判を行い、結局は依頼者の子どもと認められたが、解決まで長い時間を要したという。
 ジョージアでは失業率も高く、規制に反対する側からは、代理出産ツーリズムが廃れれば雇用が無くなるという抗弁もみられた。しかし、ジョージアの「リベラルな」現行法のもとでは代理母の権利は全く無視されており、「経済的利益よりも害の方が大きい」とツーリズムの廃止を唱える研究者もいる(Dr. Irma Gelashvili)。ジョージアでは、他人のために妊娠出産をする代理母がどのように感じているのか、代理母の負担がどのようなものであるのかに注意を向ける人々はおらず、依頼者の権利は認めても、代理母の権利を認めるべきであると主張する人間はほぼ皆無であった。現行の法がどこからきたのか、今となってはその由来は明らかではないが、新たな規制が必要であることは間違いない。

ジョージア調査結果2

Acknowledgement

Ms. Tamar Gvazava, IVF Tours Georgia
Dr. Tinatin Supatashvili, MD, PhD. Embryologist, Archil Khomasurodze Institute of Reproductology.
Dr.Ludmila Barbakadze, MD, PhD, Archil Khomasurodze Institute of Reproductology.
Dr. Archil G. Khomasuridze, President of Georgian Association of Reproductive Health.
Dr.Ketevan Gotsiridze, Head of Reproductive Health Center, Chachava Clinic.
Dr. Nata Kazakhashvili, MD, Ph,D, Associated professor of I. Javakhshvili Tbilisi State University Faculty of Medicine.
Ms. Tamar Khachapuridze, Director of Donation and Reproductive Center of T.Khachapuridze.
Dr. Tengiz Zhorzholadze, Embryologist of PEPROART, Georgian-American Center for Reproductive Medicine.
Dr. Tea Charkviani, Ob/Gyn Reproductive Endocrinologist of PEPROART, Georgian-American Center for Reproductive Medicine.
Ms. Sophie Ukleba, International Patient Coordinator, New Life Georgia.
Dr. Irma Gelashvili, Ph.D. Georgian Health Law and Bioethics Society.
Ms. Babutsa(Baia)Pataraia, Executive Director of Sapari, Human Rights Center.
Ms.Nino Bogveradze, Attorney at Law, Kordzadze Law Office.
Mr.Konstantine Tsereteli, Assistant Professor of Free University of Tbilisi.
Mr. Arihiko Hasegawa, アルメニア友の会

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Chachava Clinic

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Archil Khomasurodze Institute of Reproductology

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Archil Khomasurodze Institute of Reproductology

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Donation and Reproductive Center of T.Khachapuridze

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Chachava Clinic

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PEPROART, Georgian-American Center for Reproductive Medicine


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Donation and Reproductive Center of T.Khachapuridze


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Archil Khomasurodze Institute of Reproductology


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Kordzadze Law Office


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Sapari, Human Rights Center.


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落ちそうなベランダ


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雑貨屋


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お菓子
by technology0405 | 2015-07-17 13:42 | field work

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