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「母親」不在の生殖: タイ代理出産

代理出産を禁止している国は少なくない。また、代理出産を容認しているケースでも、代理出産の依頼者を男女カップルに限定しているケースが少なくない。しかし近年は、男女カップル以外の代理出産の希望者も増加してきている。代理出産を商業的に実施している国では、男性同性愛者(や独身者)が依頼者が一定割合を占める。その正確な数字や割合は明らかではないが、一部のエージェントや病院では3-5割には達するように思われる。自民党PTの生殖補助医療法案では、代理出産を限定的に容認し、依頼者は、妻が子宮がないないど医学的理由がある夫婦に限るとしている。しかし、実際に商業的代理出産を提供する海外の国々で、こうした夫婦による代理出産の依頼は少数である。むしろ、男性同性愛者や、晩婚化・晩産化を反映し妻が高齢であり妊娠が難しいケースなど、代理出産に加えて卵子提供が必要なケースの割合が多い。このため、代理出産だけでなく、卵子ドナーの需要も増えている。タイで摘発を受けたAll IVF Clinicは、ゲイ・フレンドリーなことで知られ、イスラエルなどからの男性同性愛者御用達のクリニックの一つとなっていた。白人ゲイカップルによる代理出産の依頼では、白人の卵子が求められ、グローバルなネットワークを利用し、イスラエル、南アフリカ、ウクライナやポーランドなどから白人卵子ドナーが調達される。白人ドナーがタイのクリニックに渡航し、採卵が行われる。一度に使用できなかった受精卵はクリニックに凍結保存され、後日、別の代理母に移植されるケースもある。この場合、産みの母親は異なるが遺伝的には兄弟姉妹である。依頼者の母国で受精卵を作り、移植が行われる施設に受精卵を輸送するケースもある。ゲイカップルによる代理出産では、依頼者のどちらか一方の精子を用いて提供卵子と受精させ、受精卵をタイ人代理母の子宮に移植する。タイ人代理母は卵子ドナーが誰かは知らされない。移植時は依頼者がゲイカップルだと知らされず、妊娠後に初めて知らされる代理母もいるようだ。「嫌だと思っても、妊娠してしまったらもうどうすることもできない」(タイ人代理母)。
 タイでエージェントを経営するある男性は、「自分はゲイは好きではない」と前置きし、All IVF Clinicでは一日30人もの代理母に移植が行われていること、その大部分がゲイカップルによる依頼であると証言した。「ゲイは代理母を選ばない。代理母に会うこともしない。子宮があれば誰でもいいという感じ」と証言した。All IVF Clinicが代理母への需要を押し上げているのではないかと思われ、代理母になるために田舎から出てきたという女性もちらほら出現してきていた。そのような女性の一人、Aさんは、代理母になるため、子どもを置いて村から出てきた。今は出稼ぎをしている夫と一緒にバンコクに滞在しながら、胚移植にそなえて待機している。30代後半だが日焼けして年齢よりも高齢に見える。胚移植を何度か試みるものの、失敗を重ねていた。「お金が必要なのでどうしても代理母をやりたい。依頼者には会ったことがない。妊娠するまでは何度でも挑戦したい」と意気込んで筆者に話してくれた。その迫力に筆者は圧倒された。
 海外の商業的代理出産は、「病気で子宮がない女性が子どもを持つための究極の手段」としてよりは、男性の生殖への欲望をかなえる手段として利用されてきているように感じられる。卵子ドナーは匿名であり、採取された卵子はモノとして扱われる。代理母と子どもとの遺伝的なつながりは断ち切られている。体外受精が出現するまでの長い人類の歴史の中で、男性の生殖は常に生身の女性の身体を介在して初めて行われうるものであった。そこでは、経済力に加えて、一定のコミュニケーション能力が必要とされた。それでも、男性にとって「我が子」が、真に自分の血を引く子どもであるかいなかは、DNAテストが開発されるまで確証されえないものであった。体外受精は、子に対して大きな関与や影響力を持つ「母親」という存在を遺伝的母親と生物学的母親に断片化した。こうした断片化が、男性が商業的代理出産を利用することによって、母親不在の子どもを作りだすことを容易にしている。男性が、思い通りの生殖を手に入れることができるようなったといえる。商業的代理出産は、経済力を持つ男性によって都合よく利用されているように思われる。

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by technology0405 | 2014-08-21 16:27 | field work | Comments(0)
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