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法と技術の内部矛盾

不妊治療を男女の婚姻カップルに限るという法律はもう古い、という声が香港であがっている。

梁家康(Milton Leong Ka-hong)医師が1986年に香港初のIVF児の出産を成功させて以来、生殖補助医療は変容し続けてきた。今や、排卵誘発剤の効果は上がり、男性不妊に対処するためのものだったドナープログラムに、卵子提供が加わった。成功率も安定した。健康な精子と卵子を1個でも採取することができれば、受胎は可能になった。
そうは言っても、不妊治療が未だに、頻繁な注射と診察を繰り返さなければいけない大変な作業であることに変わりはない。

金融業の管理職を務める41歳のレベッカ(仮名)にとっても、妊娠への道のりはたいへん険しいものだった。独身で結婚予定のない彼女は、香港で人工受精を受けることができず、海外でやることを検討するしかなかった。
「アメリカ人ドナーから精子をもらい、タイのクリニックですべてをやりました。香港でモニタリングをやってくれる婦人科医を見つけ、薬を飲み、実際の手術をタイで行うのです。4サイクルの人工受精のたびにタイを行ったり来たりして、たいへんお金がかかりましたが、妊娠しませんでした。」
「幸い、もう少し融通をきかせてくれる医師と出会うことができました。手術は一切してくれませんでしたが、家で自己投与できる排卵誘発剤を処方してくれました。彼との出会いは非常にラッキーでした。というのもこれは法的に微妙な行為ですから。他の医師は助けてくれませんでした。9日間で薬の効果が出たので、私はタイに飛び、採卵と胚移植を受けました。」

2度の体外受精の後に彼女は妊娠し、男の子を生んだ。しかし、子供を持つためにかけた労力があまりにも大きかったとレベッカは言う。「仕事を持ちながら海外にしょっちゅう行くのは難しい。」

こうした難しさは、「人類生殖科技條例(Human Reproductive Technology Ordinance)」に起因している。中でも、国内の不妊治療を男女婚姻カップルに限定するという規定は、時代遅れだという意見は多い。
「ヒト組織の使用に慎重になる必要性は理解できる。しかし、配偶者の有無だけを判断材料にするのは完全に時代遅れ。香港では、結婚証明書を見せないと医者に相談することすらできない。私は自分の意思でシングルマザーになったのに。」とレベッカは言う。
「独身女性や同性愛者、事実婚カップルなど、正式な結婚の枠外の人間は誰も親になる資格がないという道徳的判断を、政府は下しているようだ。」

人権団体や生殖医療の専門家たちもこの見解に賛成する。
女性権利団体Women Coalition(香港女同盟會)のスポークスマンYeo Wai-wai(杨炜炜)によると、法律の適用範囲が広いため、海外で不妊治療を求める事実婚カップルも法律違反になるという。
「我々は、海外で治療を受けたいという香港のレズビアンカップルからも問い合わせを受けた。彼女らは法律に違反することを恐れている。香港には違う国籍を持つ事実婚カップルも多く住んでおり、そうした人々が海外に行き、その国で認められている不妊治療サービスを受けるケースが多い。しかしもし彼らが香港籍の人間だったなら、法律を破ったことになっただろう。」

条例が古いせいで多くの問題が起きていると、Hong Kong Society for Reproductive Medicine の前会長だったLeong氏は言う。条例の起草は1980年代であったが、その時の一番の関心事は近親相姦の可能性を防ぐことだった。その当時、人工授精が香港で導入されたばかりで、香港家庭計劃指導會(Family Planning Association) によって精子バンクが設立された。同じ精子ドナーを父親に持つ二人の人間が結婚することが、政府の懸念であった。法律により、一人のドナーの精子または卵子を使って生まれる子供は3人までと規定された。

しかし条例が最終的に通過する1997年、医学は大幅に進歩していた。生殖補助医療を規制する人類生殖科技管理局(Council of Reproductive Technology) が設立された2001年までに、技術的進歩によって精子提供はそれほど必要とされなくなっていた。

Leong氏によると、人工授精は1980年代から90年代にかけて一般的だったという。しかし新技術の出現――極微針で卵子に精子を直接注入する技術など――により、医師は、卵子を受精させるのにそれほど多くの精子を必要としなくなった。

条例の作成中、起草者の間に多くの誤解があったとLeong氏は言う。
「彼らが法律について話し合っている時、1986年に香港初のIVF児が生まれた。体外受精が何かも知らない者が多く、提供精子による子供だと思い込んでいた。しかし、精子提供は人工受精の一種に過ぎない。」
「年間7000件の生殖補助医療のうち、提供によるものは1%未満だ。それほど少数のケースを監督するために仰々しい管理業務はいらないし、こんな古い法律も必要ない。」

人類生殖科技管理局の数字をみると確かに、精子提供の件数はごくわずかであり、この見解の正しさを裏付けている。管理局の本務は、代理出産や胚の作成といった生殖医療問題を調査したり、不妊治療提供者にライセンスを供与したりすることである。今のところ不妊治療に関わる何らかの技術を提供できる施設は約50あり、そのうちAIHが認められているのが36施設である。

不妊治療センターを経営するLeong氏は、生殖科技及胚胎研究實務守則(Code of Practice on Reproductive Technology and Embryo Research)でエンブリオロジストに対する訓練を義務付けるなど、管理局はクリニックの必要条件をもっと厳しくすべきだと主張する。逆に、不妊治療を受けるカップルの条件は緩和されるべきだと考えている。治療を受けるたびにカップルは身分証明書や履歴書を管理局に送らなければならず、経過によって治療が何年も続くことを考えると、厳しすぎる規定だと彼は言う。
「カップルが不妊治療を受ける理由は、卵管閉塞や精子不足など様々だ。しかし、精子提供など第三者の関わる治療を伴うケースはほとんどない。わざわざ意味のない面倒をカップルにかける必要がない。」

管理局の創立メンバーEdward Loong Ping-leung(龍炳樑)氏は、こうした要件は、患者が海外のバンクで精子を購入することを防ぐために必要なのだと言う。管理局のスポークスマンも、情報をすべて管理局が把握しておくことで、知らずに近親相姦が起こってしまった場合でも、レシピエントがそれを検証することができると説明する。

親グループHong Kong Institute of Family Education(香港家庭教育學院)の会長Tik Chi-yuen(狄志遠)は、この20年で家族の概念は変化したと言う。「結婚せずに子供を持つカップルはどんどん増えている。同性愛を支持するわけではないが、ひとり親家庭や同居婚カップルは今多い。」様々な人が不妊治療を受けられるよう政府は法律を見直すべきだと、彼は考えている。

家族法の専門家で法律事務所Hampton, Winter and Glynn (HWG)の共同経営者Winnie Chow Weng-yee(周韻儀)も同意する。「医療としての生殖技術はどんどん進んでいる一方で、法律は全く変わっていない。」と彼女は言う。条例作成のために行われた調査や協議は1980年代と90年代に実施されたものである。
「今は2013年なので、少なくとも20-25年のギャップがある。完全に世代が交代している。条例に規定されていることは必ずしも社会規範に一致しているとはいえない。」

香港での選択肢が他国に比べて限られていることを聞かされた彼女の顧客は、一様に失望するという。この条例に関する判例もまだないので、法の解釈の決め手もない。
「しかし私は、男女の婚姻夫婦が子供を育てるのに理想的だという考えは偏狭だと思う。結婚しているからといって必ずしも良い親だとは限らない。」とChow氏は言う。「香港の法律は、子供の最善の利益が基本原則となっている。愛と思いやりにあふれた親を持つことが子供にとって最善の利益だ。親の適性は個人の問題であり、子供を世話できるかどうかだ。婚姻状態ではない。」

Internal contradiction
Elaine Yau
[South China Morning Post (Print Edition), 16 July, 2013]

香港女同盟會

Hong Kong Society for Reproductive Medicine

香港家庭計劃指導會

香港家庭教育學院

Hampton, Winter and Glynn

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by technology0405 | 2013-07-30 11:02 | Countries | Comments(0)
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