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国際養子縁組の減少と渡航代理出産

The Decline in Intercountry Adoptions and New Practices of Global Surrogacy: 
Global Exploitation and Human Rights Concerns

by Karen Smith Rotabi and Nicole Footen Bromfield
Affilia: Journal of Women and SocialWork 27(2) 129-141, 2012

2004年以降、国際間の養子縁組(ICA:inter-country adoption)は半減している。ICAによって家族を作るという選択肢が減る一方で、渡航代理出産は急増し、ICAに取って代わりつつある。

昔から国際養子縁組をめぐるトラブルは絶えず、仲介業者による不正な子供の取引が発覚するたびに議論が繰り返されてきた。子供を他国に「送り出す」国トップ3はロシア、中国、グアテマラである。今こうした国からの養子縁組が激減しているのは、社会政策と倫理的ジレンマが理由である。ロシアは、養子がアメリカで児童虐待により死亡するという事件を含め、ICAスキャンダルが昔から多い国である。中国は、政策の変化に伴い、国際養子の対象が「特別なケアを要する」子供にシフトしている。一方グアテマラは人権侵害が甚だしく、公正な養子縁組制度が機能しているとは言い難い状況にある。

不正養子縁組の横行を理由に2007年アメリカがグアテマラからの養子を認めなくなるなど、ICAの数は減り続けている。一方代理出産は、これまでの養子縁組と異なり、子供が依頼親(の少なくとも一人)と血縁関係をもつ場合が多く、親子関係が認められやすい上に、法規制も追いついていない。そうした状況の中、ICAのエージェンシーが代理出産にシフトしていくのは当然の成り行きであった。

その結果拡大した代理出産産業が今、貧困や脆弱性による力の不均衡を始めとする様々な倫理的問題を引き起こしている。状況は複雑である。グローバルな代理出産産業に組み込まれ高収入を上げつつある発展途上国に、女性と子供の権利の保証を第一の目的とした規制がほとんど皆無だからだ。

渡航代理出産の目的国としてはインドが有名であるが、近年グアテマラでの代理出産が増えている。グアテマラは人権侵害の最悪な国の一つである。1966年から1996年まで市民暴動や長引く内戦が絶えず、現在も厳しい窮乏にある。国民の半数を先住民族マヤ人が占めるグアテマラは、国連によって、西半球で最も女性軽視が甚だしい国に指定されている。レイプや女性殺害を含め、南北アメリカ諸国の中で最も高いジェンダー・バイオレンス発生率を示す国である。グアテマラのICA取引で起きていたのと同様の女性搾取が、代理出産でも起きていることは間違いない。ICAブームで利益を得ていたグアテマラのエージェンシーや弁護士が、代理出産エージェンシーにシフトするケースが知られている。

途上国の中で、社会的正義に本気で取り組んでいる人権擁護団体がある国は、インドくらいであろう。グローバル市場で卵子や身体を売る代理母の中には、社会経済的に世界で最下層の女性が含まれている。人権擁護活動は必須である。この領域での人権保護とは、サービスを提供する機関、代理母、顧客(比較的裕福なカップルや個人)の力関係を対等にするということだ。健康な子供に対する需要が紛れもなく存在する以上、民間セクターの定めた基準ではなく国際的基準によって政策を展開すべきである。渡航代理出産を実施するのなら、依頼カップルだけでなく、代理母や卵子ドナーにとっても安全かつ公正な、倫理にかなった方法を模索する必要がある。そして、その方法が実施されうる環境が整っているかどうか、というのは最大のポイントである。現在の人権の状況からみて、グアテマラのような国で公正な代理出産が実施される可能性は低い。不妊クリニックに対し国際機関による「承認」制度を導入するなどして管理すれば、グアテマラも生殖補助医療サービスを提供する「準備が整う」はずだと主張する者がいるかもしれない。しかしそのようなシステムの開発には時間と労力がかかる。現実的には、国際機関が介入し、人身売買と強制的代理出産を一括して規制するようなART使用における人権保護政策(例えば国際私法など)を展開してゆくのが妥当であろう。

人権に関する議論は徐々に高まりをみせている。裕福層、つまり代理出産ビジネスで利益を得ている者や、代理出産サービスを安く買っている顧客が、人権擁護者たちとインターフェースをとる取り組みも始まっている。この場合もやはり力の不均衡がそんざいするので、ソーシャルワーカーや人権擁護者が、渡航代理出産の市場とそのリスク――特に代理母と生まれる子供のリスク――について詳しく知っていることが必要になる。

代理出産の問題は、代理母に対する搾取だけではない。子供に対しても後々まで影響を与える。渡航代理出産によって、子供は、それぞれ文化の異なる母親――遺伝上の母親、生みの母親、法律上の母親――をもちうる。インドとグアテマラに遺伝上の母親と生みの母親がいて、アメリカの家庭で育つ子供は、文化的その他において、自分の起源の半分と全く接点を持たないことになる。この状況は国際養子の子供が経験する問題と同じである。グローバリゼーションと技術が急速に世界を変え、1970年代後半にIVFが導入された時には予想もつかなかった結果になっている。ソーシャルワーカーはこの新たな問題を熟知しておく責任がある。我々は出産と家族形成の新たな新開地に立っている。渡航代理出産の動向に対し、油断のない注意を払い続けることが重要である。

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by technology0405 | 2013-03-04 16:09 | Countries

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