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ベトナムの家族計画政策と未婚女性の中絶

Single women's experiences of sexual relationships and abortion in Hanoi, Vietnam
Belanger D, Khuat T.H.   
reproductive health matters 7(14) 71-82, 1999

本論文は、1996年にハノイで実施された、中絶経験のある女性20人に対するインタビューを通し、ベトナムにおけるシングル女性の婚前交渉、望まない妊娠、中絶の状況を調査したものである。対象者の年齢は18-30歳。

1990年代中頃、ベトナムの新聞記事は、処女を失った若いシングル女性のことを、ボーイフレンドの圧力に負けてセックスした犠牲者として扱うことが多かった。人生相談欄では、一線を超えたことを「告白」し助言を求める若い女性に対し、そうしたセックスは偶発的に起きた後悔すべき出来事であるかのように語られた。女性はその出来事を忘れ、二度と起こらないように気をつけるべきだ、という回答が一般的であった。こうしたシングル女性のイメージは、我々の調査結果と一致しなかったばかりか、望まない妊娠や中絶をせず性的に活発なヤングアダルトでありたいという彼女らの要求の正当性をも無視してきた。

合法で手頃な中絶サービスがシングル女性のエンパワーメントに役立っている一方で、妊娠を避けながら性的に活発でありたいと望む女性には、その手段が与えられるべきである。シングル女性の望まない妊娠を避けるため、セクシャリティと避妊に関する教育の充実が必要であることが、調査結果から分かる。女性たちが生殖分野に関して限られた知識しか持たないことは、本調査および他の様々な調査で明らかである。
インタビューした女性たちをみても、中絶後にカウンセリングを受けた者はほとんどいなかった。20人中8人が2回以上の中絶を経験しており、中絶後に避妊を行っている者も少数である。中絶の循環を止める努力はクリニックに見られなかった。若い未婚女性のための包括的な教育、情報、コミュニケーション指導やカリキュラムが求められる。

さらに、若者や未婚者のニーズに応えるための家族計画指導も行う必要がある。
ベトナムの家族計画指導は既婚女性のみを対象としており、政府は二人っ子政策を実施している。その指導はIUD(避妊リング:子宮頸部の中に留置して用いられる避妊器具で経産婦向き)に著しく偏っており、オブザーバーの避難を浴びてきた。文献が示すように、既婚女性は、避妊に関する情報を持たず、避妊リング以外の避妊法にアクセスできていない。つまり、避妊リングを受け入れない女性や副作用を起こす女性は、中絶以外の選択肢がないということである。

家族計画の指導の対象になっている既婚女性すら、避妊リングか中絶にしかアクセスできないこうした現状で、シングル女性の避妊に関する知識や技術はさらに乏しく、改善が必要である。インタビューでは、避妊法としてピルあるいはコンドームを使用していたのは20人のうち6人(中絶後からの使用も含む)で、4人が膣外射精だった。中絶経験のあるシングル女性259人に実施した量的調査においても、何らかの避妊対策(膣外射精など現代的でない方法も含む)をとっていた女性はわずか4分の1であった。一方、259人のうち中絶を複数回経験している者で、その後も避妊を実行していない女性が半数以上にのぼった。シングル女性が避妊を口にすることをタブーとする社会的風土もある。

若いシングル女性に対し、良質のカウンセリングを計画的に実施し、コンドームなどの避妊方法を推奨するより、中絶サービスを提供する方が金になる。この文脈をふまえ、中絶の前後に避妊の情報やカウンセリングをクリニックが提供するよう義務として規定することが重要であろう。避妊具の使用における男性の役割が極めて重要であることを考えると、こうしたプログラムやサービスは若い男性にも届けられるべきである。リプロダクティブ・ヘルスの問題においては、男女が共に同等の責任を負うよう進めていかねばならない。

人口政策を目的とした現行の家族計画政策は、未婚女性もターゲットに含めていく必要がある。現状では、避妊はどちらかというと、最初の出産を遅らせるためのものというより、既婚女性がもうこれ以上子供が生まれないようにするための方法として捉えられている。そうした誤解を解き、正しい情報を提供することは急務である。しかし政府の方針自体が若者やシングルの大人を対象に含んでいなければ、クリニック側が情報提供サービスを行うインセンティブを持つことは期待できない。

無防備なセックスによって性感染症やエイズのリスクが増すことについても、若い男女に啓蒙することが必要である。ベトナムでは未婚の男女は自分たちの性的関係を隠さなければならないので、問題が起こっても、診断や治療を受けることにためらいを感じることもあるだろう。残念ながらベトナムでは、コンドームは性感染症予防の手段というイメージが強いので、若いシングルの人々の避妊方法として適しているにも関わらず、避妊の手段として主流ではない。

この調査と時期を同じくして、1994年の「国際人口開発会議(ICPD)行動計画」(カイロ・コンセンサス)導入のため、ベトナムではシングルの若者のリプロダクティブ・ヘルスに関する議論が活発化し、この問題を扱うセミナーや集会も多く開かれるようになった。その一例として、1997年12月、Population Council(保健医療分野の調査研究を専門とする国際NGO)の主催で、若者とリプロダクティブ・ヘルスに関するセミナーが開催された。研究者やNGO、地元の若者団体、国際機関、保健省、国家人口家族計画委員会の間でオープンな議論が交わされたのは、これが初めてであった。しかし、こうした政府の関与は未だに包括的な政策にはなっておらず、結婚歴に関係なく全ての女性がリプロダクティブ・ヘルスサービスに平等にアクセスできるようになるまでの道のりは遠い。その上、我々の調査結果は、こうした課題が政府政策の領域を超えていることを示している。男女が安全な性行動を採用するためには、ベトナムの社会的風土が改善されることがさらに必要となる。

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by technology0405 | 2013-02-22 16:00 | Countries | Comments(0)
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