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商業的代理出産の倫理的問題(論文)

「 Ethical implications of exploitation in commercial surrogacy in India」
By Sheela Saravanan

商業的代理出産のもつ主要な倫理的問題は、商品化、福祉の侵害、搾取である。本論文の目的は、この搾取の実態を明らかにすることである。
「脅し」というのは代理母に対する最も分かりやすい強制である。しかし「他の選択肢がない」こともまたある種の強制といえる。インド代理出産はこれに当てはまるケースが多い。単なるもうけ話の提案は強制にあたらないという者もいるが、多額の金をちらつかせるのは「不当勧誘」であり、強制的といえるだろう。
搾取だという批判の根拠には、インフォームドコンセントの問題もある。代理母は、代理出産過程で起こる負担や報酬、子供を引き渡す時の心理的負担や医学的介入の程度について詳しい情報を与えられていない。

搾取の形態には2タイプある。「有害搾取」と「互恵的搾取」である。「有害搾取」は、仲介人や依頼親の都合に合わせるために、代理母に大きな犠牲を払わせたり容認し難いほど過酷な状況に置いたりする搾取を指す。「互恵的」搾取では、代理出産によって全員が利益を得るという主張がなされる。しかし、その利益は依頼親の方が有利になるように分配されている。代理出産は互恵的契約であり、互恵的搾取があるなら報酬を増やせばよい、という主張がある。
しかし、インドの代理母が、自発的インフォームドチョイスを行使できているかどうかは疑わしい。インドの代理出産では、関係者の間にかなりの経済格差があるからこそ、搾取への懸念がより大きいのである。

アメリカ、イギリス、カナダなど、代理出産が許されている他の国では、代理母は、自分が希望する代理出産契約の種類によって依頼親を選べるなど、自律性を保持している。彼らは依頼カップルの年齢や家族関係、興味関心、子供の数などを基準に検討することができる。同様に、依頼親も代理母を選ぶチャンスを与えられる。こうした国での契約は「公開式」か「非公開式」を選ぶことができる。公開式の契約なら、依頼親と代理母が互いの身元を知り、後後まで連絡を取り続けることもある。「非公開式」ならば互いに匿名のままで契約を結ぶ。アメリカとイギリスで実施された調査では、代理母の動機は、他人に自分を認められたい、自尊心を得たい、妊娠が楽しい、依頼母への同情、過去に中絶や子供を養子に出した経験があり償いをしたい、などであった。経済的な理由を上げる者もいたが、調査された代理母のほとんどが利他的であった。また、子供の引渡しも双方の希望によってなされていた。イギリスのある調査では、ほとんどの代理母が子供の引渡しを「嬉しい出来事」だったと述べている。

インドの代理出産に関する実証的研究は、社会学的・人類学的な観点から語りに焦点を当てたものが主流で、倫理的問題に対する答えはほとんど出されていない。倫理的な観点から商業的代理出産の搾取を調査することが重要である。

<方法>
2009-2010年、代理母ハウスを持たないクリニックで、代理母3人(2人が妊娠中、1人は前年に出産)、アメリカ人カップル1組、医師1人に半構造化面接を実施した。他にもインド系アメリカ人カップル1組と話したが、調査対象には含んでいない。
クリニックの情報、代理母と依頼親の社会経済的背景、動機、募集方法、契約内容、金銭の流れについて詳細な調査を行なった。

<結論および倫理的考察>
クリニックの全ての部屋にはカメラが取り付けられ、医療提供者による制御因子が代理母と依頼親に働いていた。カメラは、代理母と依頼親が規定のルールに従っているかどうかクリニックが監視するためのものである。自分のことや金銭的なことを外部に言わないよう指示を受けている代理母にとっては、こうした方法が恐怖因子(fear factor)となる。カメラがあることで、代理母と依頼親はクリニックに対する自分の意見を自由に発言できなくなる。

依頼者と代理母の社会経済的格差は、本調査では非常に大きかった。貧しい女性は、厳しい条件を受け入れやすく、子供を引き渡しやすいという点で、クリニックやエージェンシーにとっては理想の代理母であり、人気が高かった。攻撃的な女性は医学的理由で丁重に断られていた。代理母に課されるルールには、次のようなものがある。現在の仕事を辞め、家事を一切せず家にいること。子供の引渡し方や時期について意見を言うことはできない。クリニックが必要と判断する全ての医学的介入に対し書面で同意すること。依頼親や外部者に対し、自分のことや報酬について話題にしてはならない。こうした条件を呑むにあたり、医療保険や法的・精神的支援は一切ない。従ってこれは、報酬を増やすだけでは解決できない種類の搾取といえる。代理出産に関してより大きな権利と選択を与えられるべきである。

代理母になるためには代理出産の仲介人、医師、そして依頼親という3段階の承認を得なくてはならない。対照的に、依頼親になるための条件は緩く、不妊でない者も代理出産を依頼できる。依頼親もまた(必要のない)帝王切開などを理由に過剰請求されたり、代理母への報酬をピンハネされたりといった搾取を受けている。本調査の依頼親の一人も、この金銭的搾取に気づき、自分の代理母を説得してクリニックから引き抜いている。しかしこのケースでは、代理母の依属が医療提供者から依頼親に移っただけだった。依頼親は代理母に追加家賃を払い、住む場所を変えさせた。さらに多額の金と引き換えに3胎全てを出産するよう彼女を説得し、自分たちに都合の良いクリニックへの転院を強制している。同時に、元のクリニックは自分たちの利益のために彼女に残るよう脅迫していた。結果的にクリニックを移ったことで代理母は最初のクリニックとの契約額よりも多くの金を得たが、依頼親が約束の金を全額支払わなかったことで、代理母は引き続き無力感を味わった。この転院による損害は他にもある。代理母は元のクリニックに対し、2回目の代理出産希望や仲介人になりたいという希望を出すことができなくなった。また、クリニックは彼女の産後の医療費を払うことも拒否した。

代理母たちは次のように提案する。国内の代理出産クリニックが代理母に支払う報酬について、クリニックが受け取る総額の何%を代理母に払うのか規則化するべきだという提案である。双子が生まれた場合にクリニックが倍の金額を受け取るのなら、代理母も倍の報酬を受けるべきだという。また、月々の支払いの増額や、仕事の逸失利益の補償や交通費の支払いも求めている。産後、仕事ができるようになるまでの数ヶ月間の支払いの継続も希望する。
また代理母たちは、帝王切開などの医学的介入を減らすことや、減数手術をしなくてもいいよう複数胚の移植を避けることを望んでいる。医療保険はもちろん法的・精神的支援を受けられるようにすべきだとも提案している。依頼親の選択や報酬の受け取り方、子供の引渡し、依頼親との関わり方について、選択肢を与えられるべきだという考えを持つ。

今回調査された対象人数は少ないものの、倫理的観点から立ち現れる商業的代理出産の問題点――社会経済的格差の下での選択、医療提供者の役割、依頼親の社会的責任の問題――が導き出されたことは重要である。商業的代理出産を合理的選択、互恵的契約として正当化する議論は、その背景にある社会的状況を無視している。

Indian Journal of Medical Ethics

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by technology0405 | 2012-12-11 14:51 | Countries | Comments(0)
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