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インドネシアと生殖ツーリズム

インドネシア初の体外受精児は1988年に誕生した。現在は政府の認可を受けたIVFクリニックが国内に14施設、認可待ちクリニックが3施設ある。これらのクリニックはジャワ島に集中しており、他はバリ島とスマトラ島の2島にある。認可IVFクリニックは、妻が40歳未満の婚姻関係にある夫婦に対し、IVFやICSIを提供することが認められている。

インドネシア産婦人科学会は、インドネシア人夫婦の12%が不妊であるにも関わらず、国内で提供可能な生殖補助医療サービスの30%しか利用されておらず、専門的治療を受けるのは不妊カップルの5%にしか満たないことを報告した。つまり、インドネシアには生殖補助医療を提供できる能力が十分にあり、しかもそのニーズも高いにも関わらず、国内での利用度は低いということになる。

2008年でみると、インドネシアのIVF実施回数は1500サイクルと、近隣諸国の中では少ない。シンガポールは2500サイクル、マレーシア3000サイクル、タイ4000サイクル、ベトナム6000サイクルとなっている。

医師たちはクリニックにまだIVFを行う余力があることを指摘、その余力をフルに使うことを目標に掲げてきた。この目標達成のために貢献するかと思われたのが、生殖ツーリズムである。インドネシア人が生殖補助医療にアクセスするための制約を取り払うより、近隣諸国のツーリズムの波に乗る方が早いのではと考えられていた。

しかし、インドネシアでの生殖ツーリズム推進の動きは未だに弱い。医師たちの多くは、インドネシア人に生殖補助医療を普及させること、国内の富裕層がシンガポール、マレーシア、タイなど海外に不妊治療に行く動きに歯止めをかけることの方に関心がある。こうした国内に主眼を置いた見方は、ARTに関してインドネシアで支配的な道徳的・倫理的立場や規制に端を発している。

インドネシアのART規制は、近隣諸国に先んじて、中央政府や宗教当局、専門家たちによって取り組まれた。最初のガイドラインはPOGI(インドネシア産婦人科学会)によって1990年に裁可されたもので、国内の認可クリニックすべてに適用されている。

厚生省は1992年にHealth Law No.23を出してARTを規制した。ARTを提供する者、ARTを受ける者、合法的行為が明記され、1998年以後はARTクリニックの承認の責任を厚生省が負うことになった。

インドネシア・ウレマ評議会(Indonesian Council of Ulama、MUI)は、実質的に一番最初にインドネシアにおけるART規制に関して声を上げた。評議会がファトワを出した1979年というと、IVF技術がまだ国内になかった時代である。このファトワのポイントは4つある。
①婚姻関係にある夫婦の精子と卵子を使用するIVFは合法と認められる。
②いかなる代理出産も違法である。一夫多妻のケースでも、妻同士による代理出産は認められない。
③相続権の混乱を引き起こす可能性があるため、亡夫の精子を使ったIVFは禁止する。
④婚姻関係にない男女の精子と卵子を使ったIVFは、イスラムの道徳律に反する違法行為とみなす。

インドネシア社会の多元性を考えると、これらすべての規制は驚くべき速さと一致をもってまとめられたといえる。インドネシア的コンテキストでは、ARTへのアクセスは婚姻関係にある夫婦に限定されるべきであり、代理出産と配偶子提供は違法なのである。

こうした厳しいART規制に対し、公的な反対意見や、規制の緩和を求めるような訴えはほとんど出ていない。代わりに、治療の水準や、厚生省の認定の基準を引き上げようという動きは強まっている。こうした厳しいART規制の下では、外国人患者の多くは希望する処置を法的に受けられないので、不妊治療専門医からすれば、国際的な認定を受けようというモチベーションは上がらない。

ARTを求めて渡航治療する外国人の主な動機は、7つあることが分かっている。①母国では処置が禁止されている ②母国では患者がARTを受ける条件を満たしていない ③母国の治療費が高額 ④母国に設備がない ⑤母国に専門医がいない ⑥母国での順番待ちリストが長い ⑦匿名のドナーを希望する

インドネシアでは独身者、同性愛者、40歳以上の女性はARTを受けられない。卵子提供、精子提供、代理出産も禁止されている。しかも、IVFやICSIの料金はオーストラリアの料金体系と似ているので、費用もそれほど安くない。順番待ちリストが短く、ケアの質が高いとはいえ、近隣諸国で安く同様のサービスが提供されていることを考えれば、外国人がわざわざインドネシアを不妊ツーリズムの目的地に選ぶとは考えにくい。

東南アジアで急成長を見せるメディカルツーリズムだが、生殖補助医療の分野に関しては、インドネシアは外国人不妊患者の渡航先とはなりづらいであろう。

Indonesia reluctant to embrace new ‘tourist boom’
by Dr Linda Rae Bennett
[Asian Currents November 2010]


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by technology0405 | 2011-07-19 16:22 | Countries | Comments(0)
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