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中国のAID倫理

中国では、2001年に出された『人類補助生殖技術管理弁法』の第3条にて「人類補助生殖技術の応用は医療機関により実施されなければならない」とした上で「あらゆる形式での配偶子・胚の売買を禁止する。医療機関や医療関係者は、あらゆる形式の代理出産技術を実施してはならない」と規定した。

しかし上記は医療者のための法律であり、実際の市場を取り締まるには至っていない。そのため2003年8月に「人類補助生殖技術規範」が公布され「いかなる組織や個人も、あらゆる形式で卵子提供希望者を募集しビジネス行為をしてはならない」とする条文が加えられた。政府は、一向に減らないネット上での代理母あっせんや精子の売買について、ペナルティーを強化するなどして再三警告しているが、仲介業者の活動は盛んになっている。


中国で支配的な儒教では「男子を産み家系を絶やさぬようにするのが人間の務め」という考えが根強く、生殖補助医療は不妊夫婦にとって希望の光となっている。しかし、AIDは夫の血を引き継がない子供を持つことになり、男系を重んじる儒教倫理とは矛盾する。

2001年に出された2つの規制法の内容は次のようである。

Human sperm bank management
・ドナーは22-45歳までの健康な人間
・提供できる精子バンクは1か所で、その精子が使用できる女性は5人まで
→2006年には体外受精は5人まで、人工授精は8人までとなった
・ドナーに対する医学的検査を厳密に行う
・新鮮な精子の使用は禁止
・精子バンクはドナーとレシピエントの情報を秘密にし、同意なく公開してはならない
・精子バンクはドナーの情報をきちんと管理し、データベースに永久に保存する
・精子の調達と提供はドナーから無償で行われる
・委員会の倫理的原則である、身体部位の非売買、人間の尊厳の保護を遵守する
・クリニックも個人も精子のやり取りによって利益を得てはならない
  →しかし、ドナーに対する支払いの禁止はない

Regulations of human assisted reproductive technologies
・配偶子・受精卵・胚をいかなる形でもビジネスに利用してはならない
・医療機関や医療従事者は、代理出産に関わってはならない
・生殖技術を使用する施設には、専門スタッフと適切な設備、医療倫理委員会の人間を配置させる
・医療施設は生殖補助医療に関わる全ての人間の秘密を守る
・医療的な正当性のない性選択は禁止
・違法施設から手に入れた精子を使用してはならない

2003年、2006年とさらに規制が付け加えられたが(不妊センターのライセンスを2年ごとに更新するなど)、基本路線は変わっていない。2007年には、基準を満たさない精子バンクを政府が閉鎖し、認可精子バンクの数を10にまで減らした。


AIDで生まれた子供の立場に関しては、1991年に最高裁が次のような声明を出している。
「AIDで生まれた子供は、すべての点で、AIDに同意し依頼した夫婦が自然に妊娠・出産した嫡子と同様の立場にある。婚姻法の中の、親と子の権利と義務に関する条項がそのまま適用される。」

2003年「Ethical Principles of Assisted Reproductive Technology and Human Sperm Banks」にも、AIDで生まれた子供は自然妊娠で生まれた子供と同じ権利と義務があることを、医療機関はレシピエントに伝えなければならない、とある。

子供が「親が誰なのか知る権利」は、中国では特に難しい問題である。伝統的に血縁関係が神聖なものとみなされる中国社会では、AIDで生まれた事実を子供本人や周囲に知らせない傾向が強い。AIDで生まれた子供が成長し、互いに血縁関係があることを知らずに結婚したり、自分に遺伝病があることを知らないまま子供を持つ可能性も否定できない(中国では婚姻届を出す際に遺伝病の検査を受けることが義務付けられていたが、2003年以降、義務ではなくなった)。
香港では、21歳に達していれば自分がAIDで生まれたのかどうか検査することができるが、ドナーに関する情報は一切公開されないことになっている。

独身者が子供をもつ権利については「Ethical Principles ~」中で「独身女性はAIDで子供を持つことができない」と否定されている。独身男性は、代理出産が禁止なのだからもちろん不可。養子縁組法6条と9条により、独身男性も独身女性も養子をとることは認められている。
同性愛は中国で認められておらず、差別の対象となっている。

精子の売買は法律で禁じられているが、認可精子バンク10か所のうち2か所は、ドナーに金を支払っている。Shandong精子バンクでは、ドナーが一回病院を訪れるごとに20ユーロ支払われ、精子が使用可能な場合には100ユーロ追加される。Shanghai精子バンクではドナーに約350ユーロ支払われるという。中国には著名人の精子や博士号を持つ人の精子を扱う精子バンクも存在し、倫理的に様々な問題をはらんでいる。

儒教的倫理観と西洋的倫理観との対立、商業的なARTの使用を禁ずる法律と仲介業者の横行など、中国の生殖補助医療は様々な矛盾をはらんでいる。それだけに、国内での生命倫理学者の関心も高い。こうした議論に医者が加わることが少ないのが、西欧と異なる点である。

China tightens control over assisted reproductive technology
[GOV.cn Friday, June 1, 2007 ]

Chinese health official reiterates surrogacy against law
[GOV.cn Monday, April 10, 2006 ]

・2001年『人類補助生殖技術管理弁法』
http://www.gov.cn/fwxx/bw/wsb/content_417654.htm
・2001年『人類精子庫技術規範』
http://fjthk.now.cn:7751/vip.chinalawinfo.com/newlaw2002/slc/SLC.asp?Db=chl&Gid=35148
・2003年『人類補助生殖技術規範』
http://www.docin.com/p-15831804.html

The ethical debate on donor insemination in China
Juhong Liao, Bart Dessein, Guido Pennings
Reproductive BioMedicine Online (2010) 20, 895-902

論説 中国における生殖補助医療の状況
夏芸
東洋文化研究10号、2008

最高人民法院 关于夫妻离婚后人工授精所生子女的法律地位如何确定的复函
1991年7月8日、民他字第12号

 
两高一审典型案例
林伟杰 主编
中国民艺出版社

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by technology0405 | 2010-11-12 14:06 | Countries | Comments(0)
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