調査時期: 2018年10月

インドでは、現在、生殖補助医療[規制]法案2017 assisted reproductive technology[regulation]bill、および代理出産法案 Surrogacy Regulation Bill2016の審議が続けられている。

とりわけ、生殖補助医療[規制]法案は、2008年から審議が続けられており、足掛け10年にもわたっていることから、その内容は大きく変遷してきた。
最も新しい2017年度版では、たとえば、卵子提供に関して、提供するのは生涯に1回のみ、1度に採卵できるのは7個までと厳しく制限されている。
代理出産に関しては2016年、これまでとは一転して、大きな変更が加えられたことから、別の法案としてまとめられた。代理出産法案では、インド国内で行われる代理出産について、商業的代理出産の禁止と、利他的代理出産に限定して容認する案がまとめられている。
利他的代理出産とは、代理母を親族に限定するものであり、金銭対価が発生しないものである。

金銭対価を禁じる法案に対して、これまで商業的代理出産に携わっていた関係者からは「代理母のなり手がいなくなる」として、強い反対の声が上がっている。貧困層の女性を代理母として国内外の依頼者を相手にビジネスを展開してきた人々にとって、利他的動機だけで他人のために妊娠出産を請け負う人々がいるということは現実的ではないと見なされている。しかし、商業的代理出産に比べて実例ははるかに少ないが、親族の女性が代理母となる利他的代理出産のケースが皆無というわけではない。

インドは伝統的にカーストが支配する社会であったが、グローバル化や資本主義経済の浸透により、経済階層もまた重要な指標となってきている。高いカーストに属する人々が高い経済的な地位を達成しているケースが依然として大半だが、低カースト出身者であっても、公的な援助により高い教育を身につけ、成功した人々もいる。拝金主義が広がり、人々はカーストよりも、より金銭に目を向けるようになってきている。

そのような趨勢を自明視すれば、たとえ親族のためとはいえ、金銭的利得なしに代理母となることはまずありえないことに見える。しかし、商業的代理出産が好まれるのには、不妊はスティグマであり、依頼者がその事実を秘密にしたいとう動機がかなりの程度、含まれている。

子がいない夫婦はどんな社会にも存在していた。そして、どんな社会でも不妊はスティグマ視されてきた。インド社会では、女性が子を産むこと、とりわけ男児を産むことは吉祥とされ、反面、子を産まない女性は不吉で呪われた存在となる。どのような女性でも結婚したら子を産むことが必然であり、例外扱いはない。そして、子が産めないという事実が判明した途端、女性はコミュニティから尊敬を受けられなくなる。不妊であることを周囲に知られることは不名誉なことである。離婚という選択肢がとられる場合もあるが、保守的な家族観のもとでは離婚は忌避されるべきものである。家族内での養子という解決法もかつてはそれなりに実例があった。親族内から代理母を見つけるという発想は、そのような慣行から類推されたものだろう。

遺伝的につながりがない子供を養子にとるという選択肢もある。インドでは、全てのプロセスが46,000ルピーでできる。代理出産に比べればはるかに格安である。経済的に余力がない人々は、こうした手段を選ぶだろう。養子には比較的長い時間と煩瑣な書類手続きが必要になる。また、手続きをスムースに進めるため、関係者に金銭を配る必要がでてくる場合もある。

児童施設がリストアップされた政府のホームページには、子を遺棄したい親の書き込みが並んでいる。また、子をもらいたい親の書き込みもあるがそれより数は少ない。女児をもらって欲しいという書き込みが多い。典型的な書き込みは、すでに女児が複数生まれており、さらに新生児が女児だったというものであり、子育ての意欲を喪失しているというようなケースである。ダウリー(婚資)などの慣行も、完全には廃れていないため、女児の誕生は親にとって経済的損失につながる。これ以上、女児を育てる経済的余裕がないと切迫した心情が綴られている。教育レベルか高い人々のあいだでは、子との血縁の有無や子供の性別にはこだわらない傾向も見られるが、普通のインド人の心性はそうではない。

インドでは、近年、代理出産を公表した有名人などもいることから、代理出産が市民に受け入れられつつあり、ファッションのようになっていると指摘する論者もいる。また、生殖技術が男女産み分けにも利用されていると指摘する声もある。代理出産を公表した有名人も、男女産み分けの技術を利用したのではないかと疑いがかけられている。富裕な人々は、さまざまなリソースにアクセスすることができる。生殖技術や体外受精、そして産み分けに協力してくれる医師とのコネクションなどもその一つである。これまで超音波で男女の性別を判別するケースが大半だったが、精子の選別や受精卵の染色体を調べることで、あらかじめ女児を選別できれば、中絶や子の遺棄といった非人道的な手段ではなく、よりソフトな形での性別選択が可能になる。
体外受精クリニックは、こうした選択肢を提供することによって、富裕な人々をますます惹きつけている。外国人への代理出産の提供が禁止されたいまも、体外受精クリニックは盛況の状態を保っている。こうした社会資源の格差のよって生ずるのは、富裕な人々は男児を手に入れ、そうではない人々は男児が生まれるまで子を産み続け、不運なケースでは、女児が極めて多い家族構成となってしまう。婚資がないために女児を結婚させることができなければ、それは家族の恥となる。

代理出産規制法案2016については、すでに修正がなされている。内容は公開されていないが、批判の多かった利他的代理出産に関する規定が緩和されている可能性がある(現在、インド国内では商業的代理出産は行なわれている)。また、2018年9月に、同性愛行為が非犯罪化されるなど、LGBTに関する規定が緩和された。こうした動向が、今後の代理出産に関する規制内容に影響する可能性はあるだろう。


Acknowledgements
Dr. Pawan Kumar, Power. I&FC. INDUSTRIES, UD & PWD.
Dr. Sanjai Shama, Human Rights Law Network.
Dr. Samarjit Jana, Principal at Sonagachi Research and Training Institute.
Ms. Ruchika Garg, Hindustan Times.
Ms. Loraine, Delhi Council for Child Welfare "PLANA".
Dr. Vandana Bhatia, Southend Fertility and IVF.
Dr. Sonia Malik, Max Smart Super Speciality Hospital, Saket.
Dr. R.S. Sharma, Indian Council of Medical Research.
Ms. Rekka Pimple, Caretaker.







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# by technology0405 | 2018-11-12 14:33 | field work | Comments(0)
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